北海道日本ハムの陽岱鋼は、今や日本プロ野球界でもトップクラスの外野手に成長した。内野手から本格転向して4年目。昨季は全試合に出場してリーグ優勝に貢献し、ゴールデングラブ賞も受賞した。今季から背番号は新庄剛志らが背負っていた「1」に変わり、1番バッターとして打線を牽引する。長い茶髪に「サンキューで〜す!」の決め台詞からチャラ男のイメージもあるが、野球に対する情熱は人一倍強い。本物の「1番」を目指す26歳を二宮清純が取材した。
(写真:好守はもちろん、14日のオリックス戦では1試合2本塁打を放つなど打撃でも活躍する)
二宮: この3月のWBCでは台湾代表として1次ラウンドではMVPも獲得しました。2次ラウンドの日本戦は勝利まで、あとワンアウトでしたね。
: あそこまでリードしていて、行けるという手ごたえはありました。日本の細かい野球には負けますけど、先発の王建民さんもすごくいいピッチングをしてくれたので勝ちたかったです。

二宮: 同点に追いつかれて9回裏、無死一塁の場面では陽さんの送りバントが牧田和久のダイビングキャッチに阻まれました。
: 今まで見たことないようなプレーをされましたね(苦笑)。気持ちがこもったプレーでした。さすが侍ですね。

二宮: 残念ながら台湾は2次ラウンド敗退になりましたが、その戦いぶりは日本のファンにも強い印象を残しました。
: あそこまで来たら、日本と一緒にアメリカへ行きたい気持ちは強かったですね。もうひとつ悔しかったのは1次ラウンドの最終戦で韓国に逆転負けしたこと。日本は格上だとみていましたけど、韓国には絶対に負けたくなかった。今回、代表に選ばれて故郷のために戦う責任感が一層強くなりました。また4年後の大会でチャンスがあれば、ぜひ頑張りたいと思います。

二宮: 台湾では日本のプロ野球やメジャーリーグの試合映像もテレビで放送されていると聞きます。日本のプロ野球で小さい頃に印象に残った選手は?
: ダイエー時代の秋山(幸二)さんですね。体はでかいし、足も速い、肩も強い。この選手はすごいなと憧れました。

二宮: メジャーリーガーでは?
: 若い頃のデレク・ジーターですね。当時は僕もショートで同じポジションだったので、すごくマネしました。守備範囲は広いし、バッティングも逆方向に器用に打てる。いい選手のマネをするのは好きなので、ジーターのフォームも練習でやってみましたけど、全然打てなかったんです(苦笑)。

二宮: 高校(福岡第一)から2つ上のお兄さんを追って、日本に渡ります。環境の違いからホームシックにかかったことはありませんか?
: 僕はなかったですね。テレビで見て日本の野球は憧れていましたし、日本に来たからには、日本の文化に慣れなくてはいけないと考えていましたから。もちろん兄の存在も心強かったです。
(写真:来日して10年。流暢な日本語で質問にどんどん答え、「話し好き」と本人も明かす)

二宮: 高校生ドラフト1巡目でプロ入り。ただ、1軍で活躍するまでには少し時間がかかりました。
: 1年目のキャンプは1軍スタートでした。フリーバッティングでは普通にやれていたのですが、実戦になると「これがプロの球か」とビックリすることが多かったです。

二宮: 一番、衝撃を受けたのは?
: 紅白戦で江尻慎太郎さん(現福岡ソフトバンク)と対戦した時ですね。スライダーが消えました。インサイドのボールで腰を引かされた上で、外へのスライダーがコーナーに決まる。曲がりもすごくて「あ、消えた!」と……。「こんなん、どうやって打つの?」とヘコみましたよ(笑)。

二宮: 2010年から1軍に定着し、打率も年々上がっています。日々、心がけていることは?
: シンプルに考えることですね。いろいろ取り組まなくてはいけないことは多いですが、あれも、これもと考えていたら、絶対にいい結果は出ない。今日はこれ、とひとつテーマを決めて練習や試合に臨む。これは福良淳一コーチ(現オリックスヘッドコーチ)に教わりました。

二宮: 三振が一昨年は134個、昨季は123個。この数を減らすのが今季の課題でしょうか。
: その点は僕も以前から気になっていました。ただ、福良さんからは「気にするな」と言われたんです。「三振はオマエが積極的に打ちに行った結果だ。これが持ち味なんだから、必要以上にボールを見ようとするな。それよりも自分のスイングをしろ」と。だから今は1番打者として大胆に打ちに行くことを心がけています。

二宮: 今季から背番号1になりました。チームの中心選手という自覚も出てきたのではないでしょうか。
: 「1」という数字は純粋に好きですね。僕は何をやっても1番になりたい。小さい頃から2人の兄に対しても絶対に勝ちたかったんです。子どもの時は体が小さかったこともあって、兄弟喧嘩をした時は、いつも僕がボコボコにやられていました。でも今、野球では負けたくない。それは他の選手に対しても同じです。どんなにすごい相手と対戦しても、気持ちで負けていてはダメだと強く感じています。

<現在発売中の講談社『週刊現代』(2013年5月4日号)では陽選手の特集記事が掲載されています。こちらも併せてお楽しみください>