15年ほど前、スペインで非常に印象的なテレビCMを見たことがある。
当時売り出し中だったアトレティコのフェルナンド・トーレスがインタビューに答えている。「子供のころはキケがアイドルだった」。キケとは、95~96シーズンにアトレティコが優勝した際のエース・ストライカーである。
すると、続いて画面にはキケが登場。「好きだった選手はグアルディオラだ」。アトレティコのOBがバルサの選手の名前を挙げたことにびっくりしていると、今度はグアルディオラが現れ「ベルント・シュスターに憧れていた」。バルサからマドリードに移籍し、バルセロニスタを激怒させたルイス・フィーゴの記憶が生々しい時期に、まさかペップが“禁断の移籍”の先達を憧れの選手として挙げるとは!
シュスターが好きな選手として挙げたのはオランダのニースケンス。当時、オランダとドイツはお世辞にも仲がいいとはいえない関係だったのだが。
と思ったら、ニースケンスは「マリオ・ケンペス。エル・マタドール(闘牛士)」ときた。ニースケンスはバルサ、ケンペスはバレンシア。同じチームでプレーしたことはないし、何より、78年のW杯決勝で煮え湯を飲まされた相手ではないか!
続いて登場したケンペスの選択に驚きはなかった。同じアルゼンチン人のディステファノ。ただ、精悍だった風貌がただのメタボなおじさまになっていたのはショックだったが。
かくして、最後にディステファノが登場。すると、ダンディーな佇まいのレアルの伝説は、ビールを片手にこういうのだ。
「いまはフェルナンド・トーレスが最高だな」
残念ながら、ディステファノのお気に入りは、彼が期待したほどの高みには到達できなかった(少なくとも、今のところは)。それでも、ほぼ半世紀にもわたる壮大なサーガ(大河小説)ともいうべきCMは、見るものに強い印象を残したはずである。
そのCMを思い出した。
今週の月曜日、かつては「西が丘」と呼ばれていたこぢんまりとしたスタジアムで、ヴェルディなどで活躍した永井秀樹の引退試合が行われた。
第1試合は国見高OB対帝京高OB、第2試合がヴェルディ・レジェンズ対Jリーグ・レジェンズ。高校サッカーのファン、創成期のJリーグファン、どちらのファンにとっても楽しめる構成となっていた。
驚いたのは、前日に公式戦を戦ったばかりの現役Jリーガーも、何人かこの試合のために会場にかけつけていたことである。
「子供のころから永井さんが好きだったので」
そう言って照れたのは国見出身でもヴェルディ出身でもない、マリノスの齋藤学だった。
ラモスが走り、カズがボールをまたぎ、Jレジェンズのベンチではシュートを外した永島に釜本監督が怒る――。日本サッカーにも、25年のサーガが描かれつつあることを実感できた、真夏の夜の夢だった。
<この原稿は17年8月17日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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