1709kawamoto1「私の夢はプロゴルファー。賞金女王になって活躍することです」

 そう語るのは8月に19歳になったばかりの河本結だ。彼女は日本体育大学ゴルフ部に所属し、学業とゴルフを両立させようとしている。「ゴルフだけが人生じゃない。そのあとの時間の方が長いと思ったんです。だから大学に入ってまだまだ学べていないこと学んで、いろいろな出会いを経験したいと思って進学することにしました」。通常、プロを目指す選手は高校卒業後にプロテストを受けるものだが、河本は違う道筋を選んだのだった。

 

 周囲とは違う選択

 

 1998年8月29日生まれの彼女は“女子ゴルフ黄金世代”と呼ばれる1人だ。98年4月から99年3月生まれの世代には河本の他、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)ツアー最年少優勝(15歳293日)を果たした勝みなみ、日本女子オープンで最年少制覇(17歳263日)を成し遂げた畑岡奈紗をはじめ、綺羅星の如く才能が集まっている。

 

 それは今年7月に行われたLPGAプロテストの合格者22人中11人が勝ら“黄金世代”だったことからも明らかだ。プロテストの参加資格は開催年度の4月1日時点で18歳以上。つまりこの11人はプロテスト挑戦1年目での“一発合格”というエリートたちである。

 

 一方、彼女たちと同じ道を選ばなかった河本には、こんな思いがあった。

「ゴルフをやっていると、様々な年代や立場の人たちと接することがあります。そこでいろいろなお話をさせていただいて、“私はまだまだ考え方が甘い。もっと周りを見ないといけない”と思ったんです」

 プロゴルファーへは回り道になる恐れもあった。それでも彼女は自らの成長のために、大学進学を選んだ。

 

 実は河本、高校在学時にアメリカの大学から誘いを受けていた。フルスカラシップ(学費、住居費、食費を免除の奨学金制度)と好待遇ではあったが、在学中の4年間はプロになれないという条件だった。彼女にとって大学進学はプロにならないという選択肢ではなかったため、「自分の夢は変えられない」と断った。国内の大学を視野に入れたタイミングで日本体育大学ゴルフ部の木原祐二監督からオファーをもらった。

 

 木原は選手としての実力だけでなく、メンタル面や競技に対する姿勢を買っていた。

「彼女のインタビュー動画を見た時に親に対する気持ちを話していました。それで“この子は絶対伸びるな”と思って声を掛けました。しっかりしているので普通のプロになるのではもったいない。ウチ(日体大)には高いところを目指す選手がたくさんいて、学べる授業もたくさんある。正直、学業とゴルフの両立は大変だと思います。ただ彼女はそれを自信に変えていける素質があると感じたんです」

 

 自信を持つ“勘の良さ”

 

1709kawamoto7 大学に進学した自分とは違い同世代の仲間たちのほとんどはプロの資格を手にした。焦りもないわけではないだろう。それでも河本自身、選んだ道に後悔はない。「人生は1回きり。自分がやりたいこと思ったことはやる」。強い芯を持っているように感じた。「私、結構勘が良いんです」と彼女は言う。ゴルフにおいても、人生の選択においても自らの直感を信じてきた。

 

「勘の良さ」は、彼女を指導する木原も評価している点だ。

「自分をよく知っている。質問が具体的ですし、僕が気になっているところが彼女も気になっている。僕が言おうかなと思っていると、彼女から話してくる。そういう勘の良さはありますね」

 

 ブレない心が河本のプレーを支えている。「あまり緊張して硬くなることはありません」と河本。木原も「スピードが変わらない。緊張した場面でも練習の時でも同じスピードで振れる。普通は緊張すると仕草が早くなってしまったり、逆に意識しすぎて遅くなることがあるんです。気持ちの強さもあると思うんですが、そこが一番際立っている」と証言する。

 

 河本を見ていると「意志あるところに道は開ける」という言葉が浮かんでくる。アメリカ合衆国第16代大統領のエイブラハム・リンカーンが発したとされ、「意志あるところに道はある」とも訳される。今季限りでの引退を表明している女子プロゴルファー宮里藍の座右の銘でもある。勘が鋭いとはいえ、直感だけで動いているわけではない。“プロになりたい”“強くなりたい”“成長したい”。強い意志が彼女の歩みを支えている。

 

 そんな河本がゴルフを始めたのは5歳の時。ゴルフ好きだった両親の影響でゴルフ人生がスタートしたのだった。

 

(第2回につづく)

 

1709kawamotoPF河本結(かわもと・ゆい)プロフィール>

1998年8月29日、愛媛県松山市生まれ。両親の影響で5歳の時にゴルフを始める。小学生時はゴルフスクールに通いながら、サッカー、バレーボール、空手などを習った。2010年に全日本小学生ゴルフで2位に入る。ジュニア時代から将来を嘱望され、14年にはナショナルチーム候補選手に選ばれる。四国女子アマチュアゴルフ選手権は2度(13、17年)の優勝。LPGAツアーでもベストアマに幾度も輝く。今年4月より日本体育大学に進学した。身長163cm。得意なクラブはパター。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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