二宮清純: 第2ラウンドは本格芋焼酎『木挽BLUE』の水割りでスタートしましょう。

長谷川穂積: (一口飲んで)あぁ、これもおいしいですね。僕はあまりお酒に強くないのですが、口にやさしいですね。僕が言うのも何ですが、お酒が苦手な人も好きになりそうな味のように感じられます。

 

 

 

 

二宮: 爽やかな口当たりで、女性にも飲みやすいと評判です。

長谷川: 味に嫌味がないですね。まろやかというか……。

 

二宮: さてボクシングの話を。現役生活を振り返ってみて、自らの全盛期はいつ頃だと思いますか?

長谷川: 2度目のWBC世界バンタム級防衛戦、ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)との再戦を制してから防衛を重ねている間だと思います。

 

二宮: ということは2006年から2010年にかけてですね。穂積さんが世界王座を奪取したのは、そのウィラポンからでした。彼は同階級で14度の防衛を誇る強敵です。V2戦を9ラウンドTKOで勝ってから、3つの判定勝ちが続きました。それ以降は穂積さんが早いラウンドで倒す試合ばかりでした。

長谷川: 早いラウンドで試合を終えることができたおかげで選手寿命が延びたと思っています。

 

二宮: 打ち合えば、たとえ勝ったとしてもダメージが残るでしょうね。

長谷川: 間違いなく残りますね。

 

 敗戦は神様からのプレゼント

 

二宮: 10年4月、11度目の防衛戦となったフェルナンド・モンティエル(メキシコ)戦でのTKO負けで王座から陥落。まさかの敗北でした。スポーツに“たられば”は禁句ですが、残り1秒耐えていればラウンド終了のゴングでした。元WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志さんも敗れた時、あと1秒でした。

長谷川: 僕の場合、あれは実力ですね。

 

二宮: でもゴングに救われていたら、その後の展開も変わっていたんじゃないですか。

長谷川: あの試合、実は1ラウンド目で顎が割れていたんですよ。だからストップして良かったなと思っています。1ラウンドで折れていたものが、10ラウンドまでやっていたら粉砕骨折になっていたかもしれない。そうなると選手寿命も短くなっていただろうし、そのまま復帰できない可能性もありました。

 

二宮: ラストマッチとなる可能性もあったわけですね。

長谷川: あとはオカンのこともあります。あの試合の2カ月後に医師から「余命はあと3カ月です」と言われました。図らずも負けてゆっくりできるようになったことで、その分、オカンと一緒にいる時間をつくれました。もしモンティエル戦で勝っていたら、ボクシング人生では、いろいろな未来が拓けたかもしれない。でも僕にとってはボクシング人生よりもオカンといる時間の方が大事だった。だから僕はあの負けを「神様のプレゼント」と呼んでいるんですよ。

 

二宮: 勝っていたらV11。具志堅用高さんの持つ13連続防衛記録も見えてきていました。

長谷川: はい。勝っていればラスベガス、アメリカ進出の可能性もありました。防衛中は取材のオファーが山ほどあって、全部断っていたくらいです。そうなるとオカンのところへはなかなか行けなかったでしょう。

 

二宮: お母さんに向き合える時間が増えたと。

長谷川: ボクシング的にはアカンかったけど、人生的には負けて幸せやったなと思っています。2階級制覇のかかる次戦が決まってからも、オカンが亡くなるまで毎日、朝走ってから練習までに病院へ通いました。病院までは片道1時間、往復2時間かかりましたから、それも勝っていたらできなかったことだと思うんです。

 

二宮: 王座陥落から6カ月後、ファン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)とのWBC世界フェザー級王座決定戦を制して2階級制覇を達成します。

長谷川: 試合の約1カ月前にオカンがガンで亡くなって、2階級制覇できた時点で僕のボクシングストーリーはひと区切りです。そこからは戦う理由を探すのが難しかった。

 

二宮: 2階級制覇した時点で上り詰めたようなところがあったわけですね。

長谷川: 達成感。これはね。僕は前から口にしていますが、2階級制覇した時の試合を「戦争」と言っていたんですよ。「戦争」という言葉の意味するところは、すなわち負けは「死」なんです。試合に負けたら、“残念やった。また頑張ろう”なんて思えるわけがない。オカンが死んで1カ月後の試合で勝てなかったら、その責任を僕は自分に向けていた。つまり負けていれば、自分を一生認めることができなくなる。

 

二宮: 相当な覚悟を持って試合に臨んだわけですね。

長谷川: それだけの覚悟で戦ったので、これ以上戦うモチベーションも理由も見つからなかったです。僕くらいの覚悟で臨んでいるヤツはおるわけないと、今でも自信を持って言えます。だってその試合に負けたら一生自分を認めなかった。オカンの死をずっと自分のせいとして引きずって生きていましたね。

 

二宮: 人に認められるかどうかではなく、自分に認められるかどうかだと?

長谷川: そうなんです。このブルゴス戦で僕のボクシングストーリーが終わったとも言える。最後にチャンピオンで現役を終われたことはおまけなんですよ。

 

 再起のきっかけ

 

二宮: 11年4月の防衛戦でジョニー・ゴンザレス(メキシコ)に敗れました。その後もリングに立ち続けます。

長谷川: 2階級制覇を達成して、僕は“やり遂げた”という思いが強かった。でも世界チャンピオンになって辞めるのは難しい時代でした。当然、防衛戦が決まり、チャンピオンとしては戦わなくてはならない。でも3月に東日本大震災があって、“ボクシングどころじゃない”と思いました。試合も中止になると思ったのですが、東京の会場から神戸に変わっただけでした。正直、全くスイッチが入らなかった試合です。

 

二宮: 気持ちが乗らなかったと?

長谷川: 乗っていないどころじゃないですよ。試合が終わって、“これで家に帰れる。被災地に行ける”と思いました。実際、すぐに行きました。

 

二宮: リングでは心ここにあらずという感じでしょうか?

長谷川: はい。その時は負けて悔しくもなかった。ただ被災地に対して自分がやりたかったことをできた。テレビで津波の映像を見た時に涙が出てきました。身内も知り合いもいないのに、ただ同じ日本であんなことが起きていた。かたや地獄を見ている人がいるのに自分はボクシングの練習をしているという現実。そんな自分が許せなかった……。

 

二宮: 被災地の人たちに会って、逆に励まされることはなかったですか?

長谷川: メチャメチャありました。自分たちの方が明らかに大変な状況なのに僕に「頑張ってください」と声をかけてくれたんです。そこで僕が敗戦から這い上がる姿を見せられたら何よりも励みになるんじゃないかと思ったのが再起のきっかけです。それにあれだけ好きだったボクシングを空っぽの気持ちでやって最後終わってしまった。このまま終わるのは嫌だったので、もう1度リングに戻りたいと思ったんです。

 

二宮: ジョニー・ゴンザレス戦から4試合を挟んで、タイトルマッチが決まりました。14年4月のキコ・マルティネス(スペイン)戦です。

長谷川: 11年に負けてからタイトルに挑戦するまで3年かかりました。僕は2年弱でできると勝手に思っていたんです。これまでの実績もありましたし、世界ランキングもそこそこ良かったですから。正直、3年もかかると思っていなかったんです。33歳になっていました。当時、この歳までやっている人は少なかったので、“世界戦はいつできるんや”と焦りもありました。

 

二宮: やっと決まったIBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチ。7ラウンドTKO負けを喫しました。

長谷川: 実は試合当日、リングに上がった瞬間に“あぁ良かった。世界戦できる。終わった”と安堵しました。それで生まれて初めて対戦相手にお辞儀をしたんです。リングアナウンサーから「長谷川穂積」とコールされた時になぜか相手にお辞儀をしているんですよ。

 

二宮: それは知りませんでした。無意識の行動なんですね。

長谷川: リングを降りる時に気付きました。“喜ぶのは仕事が終わった後や”と。勝ったか負けたかは別としてリングを降りる時まで、気持ちを切らせてはいけなかった。

 

二宮: 年齢も33歳でした。引退が脳裡を過りましたか?

長谷川: この時も周りからは「辞めた方がいい」と言われました。“いや、ちょっと待ってくれ”と。気持ちの入った世界戦をしたかった。それは僕にしかわからない感覚で、何を言っても言い訳に聞こえてしまうので、周りにうまく伝えることはできませんでした。

 

二宮: 奥さんは「現役を続けてほしい」という意見だった?

長谷川: 僕の気持ちがどうかという点を大事にしてくれて、「その代わり、やるんやったらちゃんとやれ」と。

 

二宮: 2階級制覇後のジョニー・ゴンザレス戦も、3階級制覇が懸かったキコ・マルティネス戦も自分の中では負けた理由がはっきりわかっていたと。

長谷川: はい。そうです。この時に“絶対勝ったる”という覚悟でやっていて、負けていたならボクシングを辞めていたと思いますね。

 

 ボクシングを身近に!

 

二宮: 現役を引退されてから10カ月が経ちました。今もジムでトレーニングをされているそうですが、やり切ったとの思いは強いですか?

長谷川: はい。やり切りましたね。あと人生でやり残したことといえば、語学留学ですかね。ニューヨークにでも行きたいですよ。

 

二宮: 穂積さんほど名を成したボクサーなら、相当お金も貯まったのでは?

長谷川: 僕はお金に執着があまりない性格なので(笑)。この店(『KruaThai(クルアタイ)』)も儲けたいと思って始めたわけではないんです。従業員が楽しく働けて、僕の後輩が辞める時や祝勝会で集まれる場所をつくれただけで良かったんです。何より自分が楽しかったらいいかなと思っています。ラジオのレギュラーもしゃべる勉強ができると思って始めました。“楽しければいい”。それはオトンとオカンが僕に教えてくれた生き方です。最低限、家族を養えればいいと思っています。

 

二宮: 穂積さんは今年12月で37歳。リングから離れる決断をされたわけですが、将来ジムをつくりたいという気持ちは?

長谷川: プロ向けではない普通のボクシングジムはつくりたいですね。

 

二宮: 後輩を育てたい、世界チャンピオンをつくりたいという思いは?

長谷川: 全くないです。僕が一番やりたいのはボクシングの底辺を広げることです。野球やサッカーやバスケットボールが人気あるのは、みんなが1回は経験したことがあるスポーツだからということも大きいと思うんです。一方、ボクシングは1回も経験したことない人が多い。

 

二宮: 社会人になってフィットネスジムに通う人はいても、学生時代からボクシングを経験している人は少ないかもしれませんね。

長谷川: たとえば体育の授業でボクシングを学べれば、もっと人気も出ると思うんです。

 

二宮: それは面白いアイデアですね。

長谷川: そうでしょう! 微々たるものだけど、そういった活動もしていきたいんです。

 

二宮: 確かにボクシングを経験していれば、ケンカや暴力がいけないということも学べますね。人の痛みもわかりますしね。

長谷川: そうですね。人間的にも成長できる。それにボクシングを経験していれば、自然とテレビ中継も見ると思うんです。そうすれば視聴率も伸びて、人気も出る。

 

二宮: 学校体育の指導要領で、相撲と柔道と剣道が入りました。女子はダンス。その時にボクシングも手を挙げても良かったと思います。

長谷川: ボクシングと聞くと殴り合って「ケガするんじゃないか」と危惧される方もいますが、殴り合う必要はないんです。授業としてはサンドバックやパンチングボールを殴るだけでもいい。ロードワークや縄跳びなどのトレーニングもありますから。

 

二宮: では、いつかジムができた記念に祝杯を交わしましょう!

長谷川: その時はまた店に来てください! 雲海酒造の本格芋焼酎『木挽BLUE』と、おいしいタイ料理を用意しておきます!

 

(おわり)

 

長谷川穂積(はせがわ・ほずみ)プロフィール>

1980年12月16日、兵庫県生まれ。99年11月にプロデビュー。2003年5月にOPBF東洋太平洋バンタム級王座を獲得し、3度の防衛に成功した。05年4月には14度の防衛を誇ったウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)を破り、WBC世界バンタム級王座を奪取した。その後、5年間で10度の防衛を果たした。10年にフェザー級に転向。同年11月のWBC同級王座決定戦でフアン・カルロス・ブルゴス(メキシコ)に判定勝ちを収め、2階級制覇を達成した。16年9月にはWBC世界スーパーバンタム級王者のウーゴ・ルイス(メキシコ)に挑戦。劇的な熱戦を制し、3階級制覇を成し遂げた。同年12月に現役を引退。プロ通算戦績は41戦35勝(15KO)5敗。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回、長谷川さんと楽しんだお酒は芋焼酎「木挽BLUE(ブルー)」。宮崎の海 日向灘から採取した、雲海酒造独自の酵母【日向灘黒潮酵母】を使用し、宮崎・綾の日本有数の照葉樹林が生み出す清らかな水と南九州産の厳選された芋(黄金千貫)を原料に、綾蔵の熟練の蔵人達が丹精込めて造り上げました。芋焼酎なのにすっきりとしていて、ロックでも飲みやすい、爽やかな口当たりの本格芋焼酎です。

 

提供/雲海酒造株式会社

 

<対談協力>

『KruaThai』(クルアタイ)

兵庫県神戸市中央区中山手通1-26-10 サンライズ中山手1F
TEL:078-241-8787
営業時間:月、水~日・祝日

     ランチ 11:30~14:30(L.O.14:00)
     ディナー 17:30~23:00(L.O.22:00)

定休日:火曜日

 

☆プレゼント☆

 長谷川さんの直筆サイン色紙を芋焼酎「木挽BLUE」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はこちらのメールフォームより、本文の最初に「長谷川穂積さんのサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、郵便番号、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)を明記し、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は11月9日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。

 

◎クイズ◎

 今回、長谷川穂積さんと楽しんだお酒の名前は?

 

 お酒は20歳になってから。

 お酒は楽しく適量を。

 飲酒運転は絶対にやめましょう。

 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

 

(写真・構成/杉浦泰介)


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