第388回 “ユニコーン”ポルジンギスはニューヨーク・バスケットボールの顔になれるか

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(写真:ポルジンギスのスケールの大きなプレーは魅力たっぷりだ Photo By Gemini Keez)

「彼はこのリーグの他のチームにとって悪夢のような存在になるだろう」

 今季開幕戦の際、デトロイト・ピストンズのスタン・バンガンディHC(ヘッドコーチ)が残したそんな言葉は現実になるのだろうか。

 

 “彼”とはニューヨーク・ニックスの背番号6、クリスタプス・ポルジンギスのこと。NBAで3年目を迎えた22歳の大器は、今シーズン絶好のスタートを切っている。開幕から6試合中5戦で30得点以上をマークし、特に10月30日に地元で行われたデンバー・ナゲッツ戦ではキャリアハイの38得点を挙げてチームを勝利に導いた。開幕3連敗を喫したニックスだが、その後に3連勝。11月1日時点で平均29.3得点(FG成功率も48.6%)を残すラトビア出身の新エースが、この連勝の立役者になっていることは言うまでもない。

 

「MVPレースでも話題にならなければクレージーだ。毎晩凄いプレーをしている。とてつもない働きぶりだ。ゲーム中だけでなく、彼はコート外でもチームのみんなを助けようと努力しているからね」

 チームメートのエネス・カンターがそう語っている通り、今季はポルジンギスが本格的にブレイクするシーズンになりそうな予感が漂い始めている。

 

 エースが去り、再建中のニックス

 

(写真:ニューヨークでの人気ももちろん上昇中である Photo By Gemini Keez)

 昨季までのニックスは言うまでもなくカーメロ・アンソニーのチームだった。しかし、オールスター通算10度出場のスコアラーが今オフに去り、4年連続でプレーオフを逃してきた低迷フランチャイズは新しいチーム作りを始めている。

 

 3年目のポルジンギスを軸に、出戻りのティム・ハーダウェイ・ジュニア、2年目のウィリー・エルナンゴメス、新人フランク・ニリキナといったフレッシュなメンバーが中心。その周囲をコートニー・リー、ジョアキム・ノアといったベテランが取り囲む。

 

 まだ荒削りな感は否めなくとも、若く、身体能力に秀でたチームには魅力がある。現実的に今季中のプレーオフ進出は厳しくとも、ニックスは明るい未来に向けての一歩を踏み出したと言って良い。そして、このチームがどこまで行けるか、端的に言ってすべてはポルジンギスの成長度次第にも思える。

 

「シュートを打てて、正しいプレーができる。守備もできるし、3ポイントシュートも打てる7フッターだ。稀有な存在だよ。それにブロックもできる。このリーグにおける“ユニコーン”のような選手だ」

 NBA 入り1年目の途中にこちらも屈指のオールラウンダーであるケビン・デュラント(現ゴールデンステイト・ウォリアーズ)にそう評されて以降、ポルジンギスは“ユニコーン”と呼ばれるようになった。

 

(写真:ナゲッツ戦での大活躍の後には地元メディアからも騒がれた)

 7フィート3インチ(221センチ)という長身の持ち主でありながら、シュート力、イン&アウトのどちらもこなせる多彩なスキルは出色。殿堂マディソン・スクウェア・ガーデンを本拠地にする巡り合わせの良さも手伝い、ラトビア出身の痩身の若者は瞬く間に全国区のスーパースター候補になったのだった。

 

 見たことがない独創性と創造性

 

 そんなポルジンギスもまだ22歳なのだから、もちろんアップ&ダウンはあるだろう。ニックスはまだ作り直し始めたばかりのチームだけに、新エースがフラストレーションを感じることもあるだろう。ニューヨーカーはせっかちで知られるが、今のチームは少し長い目で見てあげる必要がある。

 

 ただ例えそうだとしても、ラトビア語、スペイン語、英語をすべて流暢に喋る聡明な若者の将来には、やはり大きな期待をせずにはいられない。

 

(写真:トルコ出身のカンター<右>もポルジンギスの実力に太鼓判を押す Photo By Gemini Keez)

 何より素晴らしいのは、ポルジンギスのプレーにはこれまで誰も見たことがないような独創性、創造性が感じられることだ。大きなストライドでコートを駆け回り、とてつもない高さのダンク、ブロックを決めてファンを驚嘆させる。末恐ろしいほどの才能を持っているのは明白であり、それゆえにデュラントに“ユニコーン”と言わしめたのだ。

 

「身体がより強くなって、同時にどこでボールを受け取れば良いかという判断も向上している。高い位置からシュートされたら、相手にできることは何もない」

 リーの言葉通り、このまま身体ができてきて、さらに経験を積めば、ポルジンギスは真の意味で“アンガーダブル(ガード不可能)”な選手になり得る。

 

 どうか順調に伸びてほしい。予想、期待を、超えてほしい。最終的には、2006-07シーズンにリーグMVPを獲得したドイツ出身のスーパースター、ダーク・ノビツキー(ダラス・マーベリックス)を凌駕するような選手に――。そんなシナリオが現実になれば、近年は勝利に飢えているニューヨークのバスケットボールファンは再び大きな夢が見れるはずなのである。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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