四国アイランドリーグPlusは後期シーズンが開幕した。NPB入り、または復帰を目指してプレーする選手たちにとっては野球人生を賭けた熱い夏がやってくる。
 今季、リーグ内で最もNPBに近い選手と評価されているのが、香川のサイド右腕・又吉克樹だ。今季、IPU環太平洋大から入団し、キレのあるストレートとスライダーなどを武器にトップタイの7勝をあげ、防御率1.34はリーグナンバーワン。チームの前期優勝に大きく貢献した。NPBのスカウトも多数、球場に詰めかけており、秋のドラフト会議へ期待が高まっている。高校では打撃投手だったという沖縄出身の22歳に進化の理由を訊いた。
(写真:香川・西田監督は「初速と終速の差があまりない。上位指名されても不思議ではない」と語る)
――前期は12試合に登板して7勝1敗、完封勝利も2つと抜群の内容でした。とりわけ6月22日の高知戦では8回2死までパーフェクト。完全試合達成ならリーグ初の偉業でしたが、記録は意識しましたか。
又吉: これまで完全試合はもちろん、ノーヒットノーランとも無縁だったので、6回くらいからは意識していました。というより、ベンチに戻っても皆がチラチラ見るだけで、誰も目を合わせてくれない(笑)。ベンチの雰囲気がいつもと違って、自然とその気にさせられました。

――記録が途切れた8回2死からの初ヒットも不運な当たりでした。
又吉: 打ち取ったショートゴロでしたが、バウンドがイレギュラーしたのが見えたので、「あっ、まずい」と思いました。一瞬、残念な気持ちになりましたけど、これで終わりじゃないので、すぐに気持ちを切り替えました。

――素晴らしかったのはその後です。後続をきっちり断ち、9回も3者凡退。内野安打1本のみの完封勝ちを収めました。
又吉: 記録なんてそう簡単にはできません。1球で落ち込んでズルズル行ってしまったら、見ている人の印象も悪くなる。逆に、ここで抑えればメンタルも強い選手だとアピールできると思って投げました。記録はともかく、自分の納得いくピッチングができた試合になりましたね。

――岡山の環太平洋大から入団して1年目です。シーズンが決まっている大学とは違って、ローテーションを守って投げ続ける難しさはありませんか。
又吉: むしろ大学で連投したり、中1日で投げるほうが難しかったですね。今はしっかり間隔を空けて投げられるので、その分、しっかり調整していいピッチングをみせたいと思いながら練習しています。それに大学時代はシーズンの後半、調子があがってきたところでリーグ戦が終わっていました。だからアイランドリーグでシーズン通して投げてみて、自分がどこまで成長できるか。ここでの経験は大きな財産になると信じています。

――本格的にピッチャーを始めたのは大学進学後だとか。最初からサイドで投げていたのですか。
又吉: 高校(西原高)時代、本職はセカンドでしたが、コントロールがたまたま良かったので、1年生からバッティングピッチャーをやらされていました。毎日200球近く投げていると、上から放るのはしんどい。それでどんどん腕を下げてラクに投げられるところを探していたら、今のフォームになりました。

――高校時代、打撃投手をやらなかったら、普通の選手で終わっていたかもしれない。
又吉: そうですね。高校時代はイヤイヤやっていたのが、結果的には良い方向に転がりました。ただ、バッティングピッチャーは打たせるのが目的だったので、大学入学時点でもストレートの球速は110キロ台でした。
(写真:選手として芽が出ない時間が長かった分、「野球についていろいろと考える習慣がついた」と明かす)

――それが今はMAX147キロ。球速が伸びたのは、何かコツをつかんだのでしょうか。
又吉: 本格的にピッチャーをやって体も大きくなったので、知らず知らずのうちに球速が上がっていきました。高校時代は身長が160センチ台だったのに、大学に入ってからも7センチ背が伸びて、体重も10キロくらい増えたんです。

――ピッチングは常にセットポジションから。これはコントロール重視?
又吉: 大学でピッチャーを始めた頃はワインドアップでも投げていましたけど、僕は経験が浅いので2つの投げ方で何試合も投げているとフォームにズレが生じてしまう。フォームが乱れればコントロールも狂います。だからセットに絞ってテンポよく投げられるように徹底したほうがいいだろうと思いました。

――セットで147キロ出るなら、ワインドアップだと、もっと速いボールが投げられるのでは?
又吉: それは周りからよく言われますね。でも、僕のセールスポイントは球の速さではない。キレとコントロールの良さが自分の売りです。サイドでしっかり伸びのある球を投げることが目標で、それを追求した結果、球速も出るようになりました。

――4日のフューチャーズ戦では球速自体は140キロ前後でしたが、NPBのバッターが振り遅れたり、バットが折れるケースが多かったですね。
又吉: キレの部分では良かったのかなと感じました。いくら速いボールでも高めに浮いてしまっては打たれてしまいます。逆に140キロ台でもキレがあって、いいコースにピンポイントで決まれば打たれないでしょう。僕はバッターをパワーでねじ伏せるタイプではありません。そこでは競わないように、今後も心がけていきたいです。

――投げる際に1度、キャッチャーミットから目を離し、リリースポイントのほうを見る(写真)のも特徴ですね。
又吉: 大学時代のコーチから「しっかり前でボールを離せばリリースポイントが見える」と言われたので、その瞬間を見てみようと思って
投げていると、いつの間にかクセになっていました。確かに調子がいい時はリリースポイントが視界に入る。僕にとっては状態の良し悪しを見極めるバロメーターになっています。「ミットから目を切るとコントロールが安定しない」と言う人もいますけど、リリースポイントがしっかりしていればコントロールはブレないと思います。

――変化球はスライダーやシンカーなどを投げます。西田真二監督や伊藤秀範コーチは「変化球の精度を高めることが今後の課題」と話しています。
又吉: スライダーに関しては四国に来て、だいぶ良くなりました。きっかけをつかんだの5月のソフトバンク3軍戦。この試合は真っすぐが悪くて、スライダーに頼らざるを得なかった。それまでの僕は「スライダー=曲げる」というイメージが強かったんです。何とかボールを曲げようとしてひねり上げていると、試合が進むにつれ、腕がだんだん疲れてきました。そんな時、1球、スライダーが抜けた。「ヤバイ」と思ったら、ワンバウンドしてバッターが空振りしてくれました。「あっ、今の感覚でもう1回投げてみたい」と、翌日からブルペンでいろいろと試してみたんです。おかげで空振りをとるスライダーと、カウントをとるスライダーの2種類を投げ分けられるようになりましたね。

――偶然の1球がヒントになったわけですね。その2種類のスライダーの違いは?
又吉: カウントをとるスライダーは中指と人差し指の間でボールの縫い目を挟むように握って、指の付け根でスピンをかけるイメージです。一方、空振りをとるスライダーは縫い目に対して指を斜めにかけ、ひねるのではなくストレートと同じ腕の振りで縦に切る。大学時代に同じサイドのピッチャーがいて、スライダーを縦に切るという話は聞いていましたが、その時は理解できなかった。四国でこの投げ方をつかんでからは腕の負担も軽くなりました。ただ曲げるのではなく、あそこから曲げて、こう落とすというイメージを持てるようにもなってきたので、あとは曲がり幅を調整したり、狙い通りに投げられる確率を高めたいと考えています。

――理想とするピッチャーはいますか。
又吉: ヤクルトの館山(昌平)さんです。サイドから力強いボールを放るだけでなく、投げるタイミングを変えたり、変化球をうまく使ったり、1球1球、意図を持ってピッチングをしているように感じます。テレビを通じて見ていても驚かされることが多い。対戦するバッターにしてみれば本当に厄介だろうなと感じます。

――実際に館山さんのピッチングを生で見たことは?
又吉: 実は実家がヤクルトの浦添キャンプ地から歩いて5分くらいの距離なんです。だから、ブルペンでのピッチングを観に行ったことがあります。その時は林昌勇(現カブス)がサイドから、ものすごいボールを投げていましたが、すぐに「僕にはマネできないな」と感じました。館山さんのフォームは林昌勇みたいな力強さはなくても、先発で10勝以上できる。間近で見て、こういうピッチャーになりたいなと思いましたね。

――館山さんと同じ舞台に立てるかどうかは、これからのピッチングにかかっています。
又吉: アイランドリーグに来た時から、この1年でNPBに行くつもりでやってきました。今年で僕は23歳。自分としては25歳くらいまでが教えられたことを吸収して一番成長できる時期だととらえているので、早くNPBに行かないとレベルアップのチャンスを逃してしまう。夏場でも調子を落とさず、しっかり結果を残して、スカウトの方から「獲る価値がある」と思っていただけるように頑張ります。

――NPBに行くことも大切ですが、そこで活躍することがもっと大切です。ゆくゆくは、どんな選手になりたいですか。
又吉: サイドで投げるピッチャーはNPBでもリリーフを任されることが多いと思います。でも僕は館山さんのように、先発で2ケタ以上勝てるピッチャーになりたいです。そして「この試合はオマエに任せた」と信頼される存在を目指します。最終的には周りから「又吉みたいになりたい」と目標にされる選手になりたいですね。

(Vol.2では徳島・大谷真徳選手のインタビューを掲載します) 

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(聞き手:石田洋之)