年の瀬を迎えてプロ野球界も契約更改や各チームの補強も一段落といったところでしょう。自分自身の契約更改を思い出すと、球団に対しては言いたいことを言わせてもらいました。選手としてはこれだけやったから上げてほしいという気持ちがあり、球団は球団の事情がある。しかも中継ぎというのは40試合、50試合に投げても、なかなかそれが評価されにくい。契約更改では苦労した思い出ばかりです。


 そんな中で今オフ、阪神の中継ぎ投手・桑原謙太朗が大幅アップ(800万円→4500万円・推定)を勝ち取りました。67試合に登板して43ホールドポイント。セ・リーグの最優秀中継ぎ投手にも輝いた実績が評価されたのでしょう。僕らの時代からすると中継ぎというポジションも報われつつあるな、と感じます。ブルペンでもリリーフエースは評価されやすいポジションですが、今の野球はどんな場面でも登板する中継ぎ陣も欠かせない戦力です。桑原には来季もさらに評価されるような頼れる存在になってほしいですね。

 

 そして中継ぎの先輩としてひと言アドバイスをするならば、中継ぎという仕事に誇りを持つのはもちろんですが、「欲」は捨てないでおいてほしい。リリーバーになる、セットアッパーになる、先発になるなど、投手としての「欲」を持って、今のポジションの仕事に励んでもらいたいですね。

 

 投手にとって変化は退化ではない

 このオフ、注目を集めているのが松坂大輔の去就です。年明けに中日の入団テストを受けると報じられていますが、僕は素晴らしいことだと思います。野球選手でいられるうちは、とことん現役にこだわった方がいい。辞めるのは簡単ですから、続けられる間は現役を続けてもらいたいですね。

 

 当然、1軍のマウンドでもう一度見てみたいと期待しています。いろいろと本人の考えていること、周囲の声などもあるでしょうが、僕はお手本にすべきは江夏豊さんだと思います。若い頃は剛球派で鳴らした江夏さんもキャリアを重ねていくうちに技巧派になった。松坂も剛球派と言われていますが、そこで軸になっていたのはキレのあるスライダーでした。江夏さんにカーブがあったように、松坂の武器はスライダー。スタイルを変えてマウンドに帰ってくるのもひとつの手でしょう。

 

 ピッチャーの仕事は150キロのボールを投げることではなくて、アウトの数をいかに増やすかなんです。阪神の藤川球児も往年の火の玉ストレートは見られませんが、今季は変化球で打ち取るスタイルになりました。

 

 ピッチャーにとって変化は退化ではないということです。剛球派から技巧派へ変わることは、退化ではなくて進化です。新しいピッチングスタイルの松坂が見られることを楽しみにしています。

 

 最後にひとつ。阪神・藤浪晋太郎が苦しんでいます。彼は高校時代からずっと順調に来ていて、今季、初めてカベにぶち当たった。周囲の期待の大きさと自分自身のピッチングのギャップに悩むこともあったでしょう。這い上がるには自分の力でもがくしかない。ここで終わってしまうようなら、藤浪晋太郎はそこまでの投手だったということです。そうならないためにも必死にがむしゃらに頑張ってほしいですね。

 

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、エルマイラ・パイオニアーズ、オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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