皆さん、こんにちは。野球界はこの1カ月の間にドラフト会議や日本シリーズ、そして稲葉篤紀監督の侍ジャパン(野球日本代表)初陣となるアジアプロ野球チャンピオンシップと多くの話題がありました。今回の「ピカイチ球論!」ではこの3つすべてに触れたいと思います。

 

 育成と勝利。両立の難しさとやり甲斐

 まずドラフト会議では、私が取締役を務める石川ミリオンスターズから3人の投手が指名を受けました。寺田光輝が横浜DeNA6位、寺岡寬治が東北楽天7位、沼田拓巳が東京ヤクルト8位。球団に関わる者として非常にうれしく思っています。

 

 寺田は右のサイドスローという変則フォームが武器で、DeNAでもセットアッパーとして活躍してくれることでしょう。本人は「まずはワンポイントや1イニングで……」などと弱気なことを言っていますが、修羅場に火消しとして送り込まれるような一流のセットアッパーになってほしいですね。

 

 寺岡は7位指名ですが、私も含めて関係者全員がもっと上位で指名されると思っていました。ドラフト前に「うちの寺岡は上位じゃないととれない。下位では残ってない」と言っていたんです。でもそんなに甘くはなかったですね、NPBというのは(笑)。でも彼は本当に魅力的な素材ですよ。180センチの長身から投げ込むストレートが武器で、それに加えてフォークボールもあるので、将来的にはリリーバーとして活躍してくれると思っています。寺岡は社会人(九州三菱自動車)時代に投手に転向したので、ピッチャーの経験が浅いんですよ。その分、伸びしろもあります。NPBで指導を受けて大きく成長して、いい投手になってくれたらうれしいです。

 

 沼田も寺岡と同じように長身(185センチ)の右腕です。沼田はツーシームが非常によくて、打者の手元でスイッと沈み込むんですよ。ストレートも最速155キロ、平均でも145キロと走っているので、ツーシームなど変化球とのコンビネーションで打者を手玉にとれるんじゃないでしょうか。

 

 彼らにはNPBで活躍してBCリーグや石川ミリオンスターズの名前を広めてほしいですね。それにしてもBCだけでなく独立リーグというは選手の育成とチームの勝利、その両方をやっていかなくてはいけない。難しいけど非常にやり甲斐がある仕事です。今回、3人、しかも支配下指名されて「やっててよかったな」と思いましたよ。皆さんも彼らへの応援をよろしくお願いします。

 

 国際試合には"一発野郎"が必須

 日本シリーズは戦前に予想していた通り4勝2敗でソフトバンクが制しました。ホークスはデニス・サファテの志願の3イニング登板などがありましたが、個々の選手はもちろんチームとして「日本一を奪還する」という意志の強さを感じましたね。まさに一丸という感じで、チームの総合力で日本一に辿り着いた感じです。

 

 ただ横浜DeNAも頑張りました。クライマックスを勝ち抜いて、ソフトバンクに王手をかけられてから本拠地で2連勝。大善戦ですよ。

 

 特に濱口遥大が流れを変えました。第4戦、8回1死までノーヒット・ノーランという一世一代のナイスピッチングだったんじゃないでしょうか。日本シリーズ、負ければ終わりという崖っぷちで、しかもルーキーがあの投球ですから、「恐れ入りました」しか言葉がありません。

 

 最後にアジアプロ野球チャンピオンシップに触れましょう。24歳以下もしくは入団3年目まで(オーバーエイジ枠は3人)の選手で構成される若き侍ジャパンでしたが、韓国、台湾と戦って3連勝。初戦、タイブレークの10回表に3点をとられたときは「もうダメか……」と思いましたがサヨナラ勝ち。あの試合で監督にも選手にも落ち着きが出たんじゃないでしょうか。

 

 アジアCSで目立ったのは山川穂高ですね。ここで打って欲しい、という場面でガツーンとスタンドに放り込む。やはり一発の打てる長打力のあるバッターは魅力ですよ。特に強打者揃いのチームと対戦する国際試合では尚更です。若い選手が活躍したことで、3年後の東京オリンピックの金メダルという目標に向けて弾みがつきましたね。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、エルマイラ・パイオニアーズ、オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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