(写真:堀越<前列中央>を中心に一丸となって日本一を勝ち取った)

 7日、第54回全国大学ラグビーフットボール選手権大会決勝が東京・秩父宮ラグビー場で行われ、帝京大学(関東対抗戦Aグループ1位)が明治大学(同2位)を21-20で破り、9連覇を達成した。前半は7分に先制した明大が3トライを奪うなど10点をリード。追う展開となった帝京大は後半5分にPGでリードを広げられたものの、2トライ2ゴールで逆転に成功した。後半は明大にトライを許さず、そのまま1点差で逃げ切った。

 

 前半を終えて10点差。後半開始早々の失点で13点差に開いても帝京大に焦りはなかった。帝京大が見事な逆転勝利で、V9を達成した。

 

 10年連続で決勝進出の帝京大に対し、明大は19年ぶりの決勝の舞台に立つ。優勝すれば21年ぶり13度目の大学日本一だ。紫紺のジャージの雄姿を見に多くの観客が詰め掛けた。両チームは11月の対抗戦で対戦しており、帝京大が41-14と快勝していた。リベンジを目論む明大と、返り討ちを果たさんとする帝京大の一戦は白熱した。

 

 先制したのは度重なる「明治コール」に後押しされた伝統校・明大だった。6分のSO堀米航平(4年)によるPGは外したが、7分にカウンターパンチをお見舞いした。センターライン付近の左サイトで、帝京大SH小畑健太郎(4年)のパスをインターセプトしたCTB梶村祐介(4年)がピッチを独走。そのまま帝京大のディフェンスを振り切って、インゴール左隅へ飛び込んだ。堀米のコンバージョンキックは決まらなかったが、5点のリードを早々に奪う。

 

(写真:この日のキック成功率は100%と着実に得点を重ねた竹山)

 帝京大は9分にWTB木村朋也(1年)が危険なタックルでシンビン(10分間の一時退場)を受ける。1人少ない状況で、5点を追う展開を強いられた。この窮地にも帝京大は慌てるどころか、試合をひっくり返した。12分、CTBニコラス・マクカラン(1年)が鋭い突破から大きくゲインすると、最後はHO堀越康介(4年)がトライ。WTB竹山晃暉(3年)がゴールキックを着実に決め、7-5と逆転に成功した。

 

 それでも明大は15分に巧みなパスワークからWTB高橋汰地(3年)が右サイドを突破。帝京大のディフェンスを弾き飛ばしながら前進し、トライを奪った。再びリードすると、26分にはSH福田健太(3年)がインゴール手前、中央の密集地帯からスルリと抜け出してインゴールへボールを叩き込んだ。17-7と10点のリードで前半を終える。

 

 前半は自陣でプレーする時間が多かった。「どんな相手でもクロスゲームを想定しています」と竹山は語っていたが、我慢我慢の展開だった。それでも帝京大がブレなかったのは「楽しむ」という姿勢だった。岩出雅之監督が「今年は楽しむことを追求してきた」と言うように、選手たちは厳しい時間帯でも「楽しむことができた」と口を揃えていた。

 

(写真:後半、追撃開始のトライを決めた秋山)

 後半開始5分にリードを13点に広げられても、そのマインドは変わらなかった。横綱相撲の帝京大にじわりじわりと詰め寄られる。明大にはそんなプレッシャーを感じているようにも映った。そして15分に試合は動く。左サイドのラインアウトからボールをキープした帝京大はLO秋山大地(3年)がトライを奪った。竹山のゴールも決まり、14-20。1ゴール1トライで逆転できる射程圏内に入った。

 

 20分、センターライン付近でボールを持ったFB尾﨑晟也(4年)がラインブレイク。1年からバックスの主力としてチームを引っ張ってきた大黒柱が逆転への道筋を作る。タックルを受けた尾﨑のボールをCTB岡田優輝(4年)が拾い、中央のスペースを突いた。「外もスペースは空いていましたが、“自分が行く”という気持ちは強かったです」。4年生で繋いだトライで2点差まで迫った。

 

 逆転の一撃は竹山が決めた。今シーズンより自ら志願してキッカーを担当している。「今日のトライはすべてゴールから近いところでした。“もうちょっと遠くてもいいんちゃうかな”と思えるぐらい自分が蹴ることに対してハングリーだった」。対抗戦では9割以上の成功率を誇った正確な右足は、決勝の舞台でも安定していた。21-20。残り時間20分を切ったところで、帝京大が再逆転した。

 

(写真:粘りのディフェンスで明大の反則を誘った)

 勢いに乗る帝京大はリードを広げようと攻勢を掛けたが、インゴールにはあと一歩届かなかった。終了間際にはキャプテンの堀越がシンビンでピッチから去っても、明大の反撃をしのぎ切った。「1年間、この日をターゲットにチーム一丸となって積み重ねてきた結果が日本一となった」と堀越。キャプテンはチームがテーマにしてきた劣勢をも“楽しむ”というマインドを勝因に挙げる。「我慢の時間帯を楽しめたことが逆転に繋がったと思っています」

 

 岩出監督は「今年のチームは持っているものの可能性を感じるが、のんびりしている印象がある。危機感を持てば素晴らしいプレーをする」と口にする。「ひとつの方向に向かっている時は大きな力を発揮する」(堀越)という強みを、キャプテンを中心に盛り上げていった。

 

 堀越の目からチームメイトは頼もしく映ったという。声援の数では明大には劣っていたものの、試合中には「仲間が見ているぞ!」「応援しているぞ!」と声を掛け合い、一丸となって高め合った。キャプテンがシンビンで退場する際には、「任せとけ」との声が飛んだ。一方、同学年のNo.8吉田杏は、堀越の苦悩する姿を見てきた。攻守で身体を当てて勝利に貢献。「苦しい中で、キャプテンの笑顔や喜んでいる姿を見れて僕もうれしいです」と胸を張った。

 

(写真:選手たちからの胴上げで宙を舞った岩出監督)

 これで前人未到の連覇記録は9にまで伸びた。早稲田大学の15回、明大の12回という伝統校の優勝回数にも近付いた。岩出監督は「我々もより努力していく。まだまだ未完。僕自身もまだまだ指導の足りないところを見つける。そのことと学生が自分を見つけることを合わせて、チームを育てたいです」と貪欲だ。

 

 堀越、吉田、尾﨑ら主力の4年生はこれでチームを去る。「トライまでに繋げる力がある。あれが帝京の4年生の姿。自分との差だと思うし、そういうモデルがいることが帝京の良い文化です」と竹山は言う。この先は竹山がチームを引っ張る存在となる。「9連覇できたと同時に10連覇ロードのスタートラインに立てた。徹底的に自分のダメなところと良いところを分析して、来シーズンに向かっていきたいと思います」

 

(文・写真/杉浦泰介)