(写真:結成1年で全日本を制した伊藤<左>と早田の同世代ペア)

 20日、全日本卓球選手権6日目が東京体育館で行われ、女子ダブルス決勝は早田ひな(日本生命)&伊藤美誠(スターツSC)組が梅村優香&塩見真希組(四天王寺高校)を3-1で下し、同大会初制覇を果たした。伊藤は混合ダブルスに続き、今大会2冠。男子ダブルスは水谷隼&大島祐哉組(木下グループ)が、上田仁&吉田雅己組(協和発酵キリン)を3-1で破った。同ペアとしては初V。水谷は同種目通算7度目の優勝、大島は初の全日本タイトルとなった。

 

 シングルスは準々決勝が終了し、ベスト4が出揃った。男子が水谷、松平健太(木下グループ)、森薗政崇(明治大学)、張本智和(JOCエリートアカデミー)、女子が石川佳純(全農)、平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園)、永尾尭子(アスモ)、伊藤。この8名は21日に同会場で準決勝、決勝を行い、天皇杯・皇后杯を狙う。

 

“黄金世代”が全日本初制覇

 

(写真:大会前に2人で合わせた調整は年始の4日間だけだったという)

 2000年生まれの伊藤、早田ペアが女子ダブルスを制した。結成1年、全日本初出場だが国際大会では結果を残している。4月のアジア選手権、5月の世界選手権(世界卓球)で銅メダルを獲得。11月のITTFワールドツアー・スウェーデンオープンで優勝した。高校2年生の17歳コンビは世界で頭角を現している最中だ。

 

 今大会は追いかけられる立場とも言えたが、伊藤は「全日本は初めて組んで、1戦1戦勝つという気持ちで臨みました」という。彼女たちは挑戦者の姿勢を貫いた。早田も「自分たちを信じながらのプレーでした」と振り返る。準々決勝で一昨年優勝の大矢未早希&天野優組(サンリツ)を破るなどしてプレッシャーを乗り越えつつ、決勝へコマを進めた。対戦相手は同世代の梅村と塩見だった。

 

(写真:息の合ったプレーでコンビネーションで準優勝した梅村<左>と塩見)

 第1ゲームは4-1とリードするなどテンポの良い攻撃で序盤を優位に進めた。だが「自分たちの凡ミス」(伊藤)で3連続ポイントを許し、追いつかれる。5-4からは7連続失点で、四天王寺高ペアに先取された。早田は「相手はブロックの展開がうまい。まんまとハメられた」と相手の術中から逃れることができなかった。

 

 第2ゲームがスタートすると、悪い流れを引きずらなかった。伊藤は「しっかりと調整することができた。頭がうまく回ったのが勝因」と語る。緩急をつけて相手に的を絞らせなかった。最後まで攻めの姿勢を貫く。伊藤が前陣でボールをさばきつつ、ゲームを作る。そして早田が強打で決め切る。

 

 11-7でゲームカウントをタイにすると、第3ゲームは10-5から追い上げに遭うが、11-9で振り切った。このゲームを落としていたら勝負はわからなかっただろう。それは早田が「命懸けでプレーした」と言うほどの勝負所だったからだ。これで完全に勢いに乗った早田と伊藤は第4ゲームを11-5で取り、優勝を決めた。

 

(写真:緩急を使った攻撃で自分たちのペースへ引き込んだ)

 タイプの異なる2人は馬が合う。伊藤は早田について「ひなはガンガン攻めるタイプ。私がコースをついて入れていれば、決めてくれる。頼り甲斐があり、安心できる」と口にする。一方の早田も「美誠は仕掛けるのがうまい。チャンスボールを仕留めるパターンでは私が点を取っているように見えますが、美誠が崩してくれているからです。組みやすい」と“相棒”に感謝した。

 

 伊藤は森園と組んだ混合ダブルスを獲っており、これでダブルス2冠だ。3冠をかけて臨む準決勝の対戦相手は2年前の女王・石川だ。「1戦1戦という気持ちでやってきた。思い切ってやることだけ意識して、優勝を目指していきたい」。同世代の平野に先を越された全日本女子シングルスのタイトルを掴みに行く。

 

 10度目Vへ視界は良好

 

(写真:試合中の話し合いで戦術を立てて、流れを手にした水谷<左>と大島)

 日本男子の絶対的エース水谷が、まずダブルスのタイトルを獲った。今回のペアはこれまで5度、全日本を制した盟友・岸川聖也(ファースト)でもなく、2年前に組んで優勝した後輩の吉田でもない。強烈なフォアドライブが持ち味の大島だ。昨年5月の世界卓球男子ダブルス銀メダルの実力者だが、「初めて組んだ」(水谷)とコンビとしては未知数な部分はあった。

 

 それでも水谷には「2人で練習はほとんどしていないが、世界卓球でメダルを獲っている。2人の良さを出せれば結果は出ると思った」と不安はなかった。台から離れてのダイナミックなプレーはお互いの持ち味。打ち合いになれば、負けないという自信もあったのだろう。

 

 第1ゲームは11-9で競り勝った。このまま勢いに乗るかと思われたが、第2ゲームは先にゲームポイントを奪いながら、12-14で落とした。ベンチに戻って大島と「戦術の部分で深く話し合いました」と戦略を練った。「相手はチキータ(バックハンドで独特の回転をかけるレシーブ)をしたがっていた。大島のフォア側を攻められ、失点するパターンになっていました」。そこで得意のラリーに持ち込もうと、緩急を使い分けて勝負した。

 

 第3ゲームから大島は「ミスの少ないプレーで、相手のミスを誘っていた」(水谷)と安定した。加えて豪快なフォアも決まりはじめ、リズムに乗る。このゲームを11-9でモノにすると、続く第4ゲームも11-4とほぼ危なげなかった。水谷は堅い守りも然り、要所要所での決定力が光った。「勝負所での思い切ったプレー、強さがある」と大島も舌を巻いた。

 

(写真:水谷は全日本19度目<シングルス9度、ダブルス7度、ジュニア3度>のタイトル)

 水谷&大島ペアでの全日本初タイトル。「初出場初優勝できて最高です」と水谷は喜んだ。大島は「苦しい試合も水谷さんと乗り越えることできた」と安堵の表情を浮かべた。

 

「今年は非常に良い準備ができた。コンディションは最高」。水谷は男子シングルス10度目の制覇に向けて視界は良好である。準決勝で後輩の松平を倒せば、最年少優勝を目指す張本との直接対決もあり得る。男子ダブルスの準決勝では張本のペアを3-1で退けており、「最高のリベンジをしたい」と燃える14歳の挑戦を受けることになる。

 

 水谷はここ10年以上、男子シングルス決勝に進出し続けている。その抜群の安定感もさることながら、2016年リオデジャネイロ五輪では男子シングルスで銅メダルを獲得し、団体銅メダルに貢献した。円熟期を迎えている28歳はそう易々と王座を譲る気はない。「彼らに負けないように努力して、ずっと立ちはだかりたい」。若手の壁となること誓った。

 

(文・写真/杉浦泰介)