17日、平昌五輪フィギュアスケート男子シングルフリースケーティングが行われた。ショートプログラム(SP)1位の羽生結弦(ANA)はフリーで206.17点を叩き出し、トータルスコア317.85点で優勝。ソチ五輪に続く2連覇となった。今大会の日本人金メダル第1号となった。SP3位の宇野昌磨(トヨタ自動車)はジャンプでミスがあったものの、306.90点で2位に浮上。銀メダルを獲得した。銅メダルはSP2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)が305.24点で輝いた。SP20位の田中刑事(倉敷科学技術大大学院)は244.85点で18位だった。

 

 江陵アイスアリーナに黄色い声援と、黄色いクマのぬいぐるみが降り注いだ。黄金色の勲章を手にしたのは、やはり羽生だった。

 

 前日のSPでノーミスの演技を見せた。自己ベストに迫る111.68点を叩き出した。ケガの不安を払拭するような圧倒的なパフォーマンスだった。2位のフェルナンデスに4.1点差、3位の宇野には7.51点差をつけて臨むフリー。2シーズン前と同じ映画『陰陽師』のサウンドトラックから『SEIMEI』を選択。自らが安倍晴明になりきり、平安時代の和装に模した衣装を着用する。神秘的な雰囲気を纏い、リンクを滑り出した。

 

 この瞬間から銀盤は彼の世界に染められる。最初のジャンプは4回転サルコウ。クリーンな着氷で、会場からも大きな歓声が沸いた。続く4回転トウループも決める。2つのジャンプは出来栄えを示すGOEでもジャッジから満点を付けられたほどの完成度だった。4回転サルコウ+トリプルトウループのコンビネーションジャンプもきっちり着氷。ここまでのブランクを感じさせぬ、パフォーマンスを見せる。

 

 しかし、4回転トウループからの3連続ジャンプは最初の跳躍で着氷がうまくいかず、単独ジャンプになる。ここは次のトリプルアクセルからのコンビネーションジャンプを2連続から3連続に切り替えた。その後の3回転ループは着氷、3回転ルッツはバランスを崩すが、こらえた。ジャンプだけでなくスケーティングでも魅せられるのが羽生だ。クライマックスは華麗なステップ、スピンでジャッジと観衆の心を掴む。スピンはすべてが最高評価のレベル4に認定された。

 

 最後は天に右手を突き上げた。ジャンプのミスはあったものの、「“やり切れたな”と思える演技ができた」と羽生は胸を張った。「やった!」と喜んだ後も、溜め込んでいた想いを吐き出すようにリンクに向かって叫んでいた。そして故障個所の右足首に触れ、感謝の気持ちを伝えた。「とにかく右足が頑張ってくれた」。その足を称えた。技術点は109.55点。演技構成点は全項目で9.5点以上をマークする96.62点を叩き出した。フリーで206.17点を積み上げ、トータル317.85点のハイスコアで暫定トップに立った。

 

 続くフェルナンデスは世界選手権を2度制覇している。バンクーバー五輪は14位、ソチ五輪は4位だが、近年実績を挙げている今大会最大のライバルだ。フェルナンデスは高いスケーティング技術を披露したものの、回転不足のジャンプがあり、点数を稼げなかった。フリーは197.66点にとどまり、トータル305.24点。この時点で羽生の銀メダル以上が確定した。

 

 最終滑走は20歳の宇野。トリノ五輪で金メダルを獲得した女子シングルの荒川静香氏と同じ『トゥーランドット』でリンクを舞った。4回転フリップを含め、4回転のジャンプを4本組み込んだ演技構成で挑んだ。出だしの4回転ループで転倒。羽生を上回る111.01という高い技術点を記録した。フリーで202.73点をマークし、フェルナンデスを抜いて2位に浮上。銀メダルを手に入れた。

 

 これで全選手の演技が終了。羽生の連覇が決まった。フィギュアスケート男子シングルでは66年ぶりの快挙。“羽生結弦”の名を再び世界に刻んだ。

 

 ここまでの歩みは決して容易いものではなかった。昨年11月のNHK杯前日練習で4回転ルッツの着氷に失敗。右足首の靭帯を損傷した。以後、グランプリシリーズ、全日本選手権など大会を欠場し、回復に努めた。リンクから離れること、2カ月。平昌五輪が復帰戦となった。団体戦は大事を取って出場しなかった。

 

 仁川国際空港で記者に囲まれた際には「どの選手よりも勝ちたいという気持ちが強くある」と語っていた。「自分に嘘をつかないのであれば、2連覇したい」と胸の内を明かした。氷から離れたことで、よりハングリーになった部分もあったのだろう。現地入りした後の会見では「クリーンに滑れば絶対に勝てるという自信はある」「ただひたすらやるべきことをこなしてきました。これ以上ないことをしてきたので、何も不安要素はない」と強気な言葉を並べた。

 

 3カ月ぶりの公式戦で復活し、オリンピック連覇――。すべては羽生のために用意された筋書きのようだ。主役は完璧に近い演技で応えた。再び王座に就いた羽生。彼の次なるステージはどこになるのか。物語の続きに世界中が耳目を集める。

 

<男子シングル総合成績>

1位 羽生結弦(ANA) 317.85点(SP点、フリー206.17点)

2位 宇野昌磨(トヨタ自動車) 306.90点(SP104.17点、202.73点)

3位 ハビエル・フェルナンデス(スペイン) 305.24点(SP107.58点、フリー197.66点)

18位 田中刑事(倉敷科学技術大大学院) 244.85点(SP80.05点、フリー164.78点)

 

(文/杉浦泰介)