メジャーリーグでプレーする選手の平均年俸が、日本のプロ野球より高いのはまだ納得できる。向こうはGDPでも人口でも日本を上回っているわけだから。正直、GDP比以上、人口比以上の格差があるのはどういうわけよ、と思わないわけでもないのだが、それはこの際置いておく。
リーグ自体のレベルはさておき、中国がべらぼうな資金をサッカーに投入できるのも、まだわかる。なにしろ、裕福層が人口の1%だったとしても、1000万人を優に超えるのだ。Jリーグ勢が資金力で対抗するのは簡単なことではない。
だが、プロスポーツのギャラが人口やGDPに起因するとするならば、一つ疑問が湧いてくる。
いったいなぜ、プレミアリーグは、あれほど潤沢な資金を得ているのか。
英国はむろん先進国ではあるが、日本をGDPで上回っているわけでも、人口でまさっているわけでもない。そもそも93年当時、プレミアリーグの市場価値は発足したばかりのJリーグとほとんど変わらなかったとされているのだ。
当然、そのあたりの分析は日本でも行われており、村井体制になってからのJリーグは、実に的確な手を打っているなと感心させられることが多い。
先週末、広島対札幌の一戦で歴史的なゴールが生まれた。広島のティーラシンが、タイ人として史上初となる得点を決めたのである。
プレミアリーグで得ている莫大な放送権料は、実はアジアでの売り上げによるところが大きい。いまでは、プレミアばかりにアジアのマーケットを独占させてなるものかと、多くの国がアジアのゴールデンタイムに合わせて目玉カードを組むようになった。
昨年末、スペイン伝統の“クラシコ”は現地時間午後1時という、午睡の習慣を残す国とは思えないほど早い時間帯にキックオフされたが、これはむろん、中国市場を意識してのことだった。
ただ、どれほど欧州がアジアを意識したところで、さすがにどうしようもない時間帯はある。つまり、アジアの昼過ぎに見られる試合を組むことは、時差の関係上、ほぼ不可能なのだ。
実は、Jリーグが開催されている試合時間の多くは、まさにその空白地帯に当てはまる。
つまり、関心を持ってもらえさえすれば、Jリーグはアジアの市場でも勝負できる。そして、東南アジアの選手がJリーグで活躍すれば、関心を持ってもらえる大きなきっかけとなる。ティーラシンは、だから、Jリーグの起爆剤となる可能性がある。多くの日本人が、カズによってセリエAを知ったように、である。
日本をアジアのプレミアリーグに。つまり、アジアが憧れ、アジアが親近感を持ってくれるリーグに。そんな信念で動いてきた多くの人たちの情熱が、いま、ようやく実を結ぼうとしている。
<この原稿は18年3月1日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから