西本聖(元プロ野球選手)<前編>「酒の席は学びの場」
二宮清純: この人と飲みたい、今回のゲストは巨人でエースとして活躍した西本聖さんです。
西本聖: よろしくお願いします。
二宮: 今宵は雲海酒造の本格芋焼酎『木挽BLUE』を飲みながら、春季キャンプの土産話などを聞かせてください。
西本: キャンプ取材で宮崎に行っていたので、ご当地焼酎の『木挽BLUE』はすっかりおなじみです。
二宮: 東京で飲む『木挽BLUE』はいかがですか?
西本: すっきりした味わいでおいしいですね。いやぁ、芳醇な芋焼酎の香りでキャンプのことをばっちり思い出してきました。
二宮: おお、それは楽しみです。
西本: 香りがよくて口当たりも滑らかなので、時間を忘れて喋ってしまいそうです。
二宮: さて、早速ですが今キャンプで最も目についた選手は?
西本: オリックスのルーキー田嶋大樹です。久々にいいピッチャーを見たな、という感じです。
二宮: JR東日本からドラフト1位で入ったサウスポーですね。高評価の理由は?
西本: 最初、福良淳一監督と話をしていたときに「西本さん、田嶋というピッチャー、キャッチボールではなんかふざけて見えますけど、なかなかの素材ですから」と。
二宮: ふざけている?
西本: 「投げるときに体がふにゃふにゃぐにゃぐにゃしてて、マジメにやってないように見えますから」と言われて、実際にキャッチボールを見たら、本当にそうなんですよ。「こいつ、ふざけてるのかな」と(笑)。でもブルペンでは右バッターのヒザ元にクロスで食い込むいいボールを放っていた。しかもシュート回転もしない、きれいなボールでした。何球か観察して田嶋は肩甲骨周辺が非常に柔らかいことがわかりました。
二宮: 昔から肩周辺が柔らかいピッチャーは大成すると言われていますね。
西本: 肩が柔らかいと結果的に球持ちが良くなって、それでいいボールが放れるんです。田嶋がふにゃふにゃして見えるのは肩だけでなく体全体の柔軟性が高いんでしょう。チェンジアップなどの変化球も良く、コントロールもあった。ブルペンと同じことを試合でできるのかという課題はありますが、本当にいいピッチャーです。
二宮: 即戦力としてローテーション入りも?
西本: 当然、入ってくるでしょう。私は新人王もあると思っています。
二宮: さすがドラ1ですね。
西本: まあ1位にもピンからキリまでいますが、田嶋は正真正銘のドラ1です。
二宮: 巨人のキャンプはどうでしたか? 4年ぶりの優勝を目指し、Bクラスからの巻き返しが期待されますが……。
西本: うーん……。正直、心配ですね。
二宮: 古巣だけに気が気じゃない?
西本: 野手はまだいいのですが、やはり投手陣が……。マイルズ・マイコラスが抜けた穴をどう埋めるかが課題ですが、ローテーション順に名前をあげても計算できるのは菅野智之、田口麗斗と2番手までしか出てきません。
二宮: 新外国人のテイラー・ヤングマン、FAで埼玉西武から移籍の野上亮磨は?
西本: 頭数には入ってきても確実に計算できるかというと難しい。
二宮: 山口俊はどうでしょう。昨季、チームに迷惑をかけた分、今季こそはと相当に意気込んでいるのでは?
西本: ブルペンで積極的に投げ込むなど気持ちは伝わってきました。でも、ブルペンは鍛錬の場なのに楽をしているという印象も受けましたね。
二宮: 楽をしている?
西本: 山口は上体を立ち気味に投げていたんですよ。右投手の場合、キャンプのブルペンではフィニッシュで右胸が左ヒザに付くくらいグーッと上体を沈めて投げなきゃいけない。これは結構、キツイんですが、こうすることで球がすっぽ抜けなくなる。反対に上体を立てたままだと体は楽ですが抜けることがあります。
二宮: それはコーチが指摘して修正すればいいのでは?
西本: 私が見ている範囲では誰も言っていませんでしたね。キャンプのブルペンはファンの人たちも見に来ているから、そこで「おい、何やってる! そうじゃないだろ」なんて叱責されるのは恥ずかしさもあって相当に効くんですが……。
「8勝、偉いのか?」に発奮
二宮: 西本さんもそうやって育てられた?
西本: コーチには色々と言われました。ときには「こんちくしょう」と思ったこともありましたよ。プロ入り3年目の1977年に8勝をあげ、その翌年のキャンプのことです。あるコーチが「おい、ニシ。お前は8勝して偉くなったのか? 練習もちゃんとしてないで、偉くなったんだな」と言ってきた。
二宮: それは腹が立ったでしょう。
西本: そのときは「この人は何を言っているんだ。ちゃんとやっているのに」と思ったんですけど、やっぱりそう言われると「だったら見ていろよ」とばかりに、さらに自分を追い込むように練習しました。考えてみればそれが手だったんですね。
二宮: 「8勝くらいでテングになるなよ」と発奮させてくれた、と。
西本: はい。だから私は今でもコーチの人たちに育てられたと思っています。今のコーチ陣も選手に嫌われてもいいから、厳しいことを言わなきゃダメですよ。
二宮: コーチというのは鬼軍曹であり、嫌われてナンボなところがあります。
西本: あとブルペンで気になるのは、キャッチャーが「ナイスピー!」と言い過ぎることです。
二宮: ピッチャーを乗せるために声を出すとは言いますが……。
西本: もちろん本当のナイスボールなら「ナイスピー!」ですが、高めに抜けたボールやシュート回転して真ん中に入るボールでも「ナイスピー!」。あれはピッチャーのためにならない。
二宮: キャンプのブルペンで気付かせないとダメだ、ということですね。
西本: そうです。シーズン中にボールが高めに抜けたり、真ん中に入ってきたらどうなるか? パカーンとスタンドに放り込まれて、そのピッチャーは2軍行きですよ。ピッチャーを育てる、そしてチームが勝つためにはブルペンから意識を変えることが重要じゃないですかね。
二宮: さて、西本さんの現役時代のことを伺います。75年、ドラフト外で巨人に入団。同期のドラフト1位は定岡正二さんでした。甲子園のアイドルだった彼の人気はすごかったでしょう。
西本: 当時、多摩川グラウンドにファンの人が詰めかけて、あんなフィーバーは後にも先にも定岡だけ。PL出身の桑田真澄もフィーバーでしたけど、定岡の方がすごかった。私が定岡の隣にいると「誰だあいつは、邪魔だな」というファンの人の目線を感じたものですよ。
二宮: 西本さんは寮の中で一本歯の下駄を履いて足腰を鍛えたり、ドラフト外ながら努力の末に巨人のエースにまで上り詰めました。
西本: 人より才能がない分、「頑張らないと」と思ってましたからね。あと高卒でプロ入りして成人した後も「お酒は飲めません」と周囲に言っていました。
二宮: 下戸だった?
西本: いや、「お酒は大好きです」となると当然、先輩から夜のお誘いが多くなる。そうすると練習時間が少なくなって自分のためにならない。だからお酒は飲めないことにしておこうと決めたんです。
二宮: 非常にストイックですね。私には無理です(笑)。
西本: チームの行事を除いて、個人で飲みに行くことも6年目までまったくしませんでしたよ。
ミスターとビールかけ
二宮: 6年目に解禁した理由は?
西本: プロ入り6年目、80年に14勝をあげました。それまで8勝止まりだった私でしたが、あのときに「これで自分はプロでやっていけるぞ」という自信が持てた。それで81年の宮崎キャンプの休日に初めて飲みに行ったんです。
二宮: 一人前のプロ野球選手になって飲んだお酒はいかがでしたか?
西本: 非常に美味しかったですね。あとお酒を解禁したのは、世界を広げたいという気持ちもありました。
二宮: お酒を飲むと人との出会いの場が広がりますからね。
西本: そうです。私は野球界ではなくて異業種の方と飲むようにしていました。そういう人たちは自分と違う考え方を持っているから、お酒の席で「こういう物事の見方もあるのか」と気付かされることが多かった。
二宮: 特に勉強になったことは?
西本: 試合中、エラーされると若い頃はムッとして、顔に出ていたんですよ。それをお酒の席である社長さんに諭された。「僕は西本さんのファンだから言うよ。エラーしてムッとしていたけど、あれはそこに打たせた西本さんが悪い。バックの野手は何もエラーしようとして守ってるわけじゃない。一生懸命にやっている。エラーがイヤなら三振させればいいんだよ」って。
二宮: 当たり前のことのようですけど、気が付いてなかったと?
西本: そんなこと思ったこともなかった。それで「ハッ」と我にかえったんですよ。私は打たせて取るタイプで、三振を取るのは無理。だったらエラーにカリカリしてもしょうがないんだ、と。ちょっとしたことですけど気が付いて、それからはランナーが出てもゲッツーを取ればいい、点さえやらなきゃいいと考えられるようになりました。
二宮: お酒の席が学びの場だったんですね。
西本: 本当にそうですよ。
二宮: では、一番の思い出のお酒は?
西本: 優勝した後のビールかけですね。
二宮: やっぱり。プロ野球選手は皆さんそうおっしゃいますね。
西本: 何度やってもいいものです。長いペナントレースを戦ってきて、あの瞬間だは選手もコーチも監督も全員が童心に戻って大騒ぎできる。最高ですよ。
二宮: ビールかけでは先輩・後輩は関係ない?
西本: 関係ありません。誰にでもかけられるし、いわば無礼講です。
二宮: では監督だった長嶋茂雄さんにも?
西本: もちろんです! あ、でも、最初の優勝(76年)のときは、畏れ多くてかけられなかったかな。
二宮: アハハハ、球界のスーパースターですからね。さて、今季のビールかけの行方も気になるところですが、ペナントレース予想はこの後うかがいます。その前に『木挽BLUE』のおかわりをどうぞ。
西本: いただきます。芋焼酎は体に優しいのでよく飲むんですよ。ロックで飲むとまた香りが良くて味わい深いですね。
二宮: 西本さんのシュートのように懐に飛び込んでくる感じでしょうか?
西本: ここぞという場面できっちりと抑えてくれる、信頼感のある味ですね。
(後編につづく)
<西本聖(にしもと・たかし)プロフィール>
1956年6月27日、愛媛県出身。松山商から75年、ドラフト外で巨人に入団。江川卓と巨人の先発2本柱として活躍。81年には沢村賞を獲得した。88年に中日へ移籍。89年には20勝を挙げ最多勝、カムバック賞、ゴールデングラブ賞を獲得。90年にはドラフト外入団史上初の150勝を達成した。92年にオリックスへ移籍。そして94年には長嶋監督の下でのプレーを希望して再び巨人へ。1軍登板はなく同年引退。03年、阪神の1軍投手コーチを務め、見事セ・リーグ優勝に導いた。10年から12年は千葉ロッテ、13年から14年はオリックス、15年は韓国・ハンファで投手コーチを務めた。現役通算165勝128敗17セーブ、防御率3.20。
今回、西本聖さんと楽しんだお酒は芋焼酎「木挽BLUE(ブルー)」。宮崎の海 日向灘から採取した、雲海酒造独自の酵母【日向灘黒潮酵母】を使用し、宮崎・綾の日本有数の照葉樹林が生み出す清らかな水と南九州産の厳選された芋(黄金千貫)を原料に、綾蔵の熟練の蔵人達が丹精込めて造り上げました。芋焼酎なのにすっきりとしていて、ロックでも飲みやすい、爽やかな口当たりの本格芋焼酎です。
西本聖さんの直筆サイン色紙を芋焼酎「木挽BLUE」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はこちらのメールフォームより、件名と本文の最初に「西本聖さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、郵便番号、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)を明記し、このコーナーの感想や取り上げて欲しいゲストをお書き添えの上、お送りください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は18年4月12日(木)。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
今回、西本聖さんと楽しんだお酒の名前は?
<対談協力>
砂々良(ささら)
新宿区西新宿6-16-12 第一丸善ビル地下1階
TEL: 03-3342-5795
営業時間: 17時30分~24時(LO23時30分)
定休日: 日曜・祝日
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