平昌パラリンピックに行ってきました。今回もたくさんのことを学ばせていただきました。戻ってから、今一番気になっているのは、「応援」です。今回はこの応援について一考してみます。まず、応援という言葉をいくつかの辞書で調べてみたところ、その意味は以下のとおりでした。

1)力を貸して助けること。また、その助け。「選挙運動の応援に駆けつける」「応援演説」
2)競技・試合などで、声援や拍手を送って選手やチームを励ますこと。「地元チームを応援する」

 

 平昌パラリンピックの会場には多くの日本人の姿が見られ、とても嬉しく思いました。2020年東京オリンピック・パラリンピックが近づき、パラスポーツに対する関心が高まっていることもあるのでしょう。また日本から韓国は近いことも関係しているのかもしれません。

 

 さて、パラアイスホッケー予選、日本対アメリカの試合に行ったときのことです。会場には多くの日本からの「応援団」がいました。とても心強く思いました。皆さん、「応援に来た」「応援します」と口にしていました。そして日本に帰ってからも「応援に行ってきたんですよ」という話をよく聞きました。

 

 パラアイスホッケーの観客席には日本の国旗がざっと20枚ほどあり、選手の名前や心を込めたメッセージを入れた応援旗が10数枚。ハチマキ、扇子、うちわ、スティックバルーン、国旗のフェイスペイント……と、試合前の観客席では気持ちのこもった応援の準備が整っていました。

 

 試合は0対10で敗戦、終始劣勢でした。その間、日本の応援団はどちらかというとじっと試合を見守る、といった様子。途中「ニッポン、チャチャチャ!」とお馴染みのコールもありましたが、20秒程でフェイドアウト。しかしその一方でインターミッションに入り、DJが音楽をかけたり、ダンスタイムが始まると日本の旗を持った人たちも立ち上がり、大いに声を出して盛り上がっていました。そして、試合が始まると、また静かに見守っていました。

 

「応援するってどういうことなんだろう」と考え始めたときに、今年の初めに亡くなられた闘将・星野仙一さんにインタビューさせていただいたときのことを思い出しました。それは2015年のことでした。話の流れで「私、カープ女子なんです」と申し上げると、星野さんは「カープファンに言いたいことがあるんですよ」と、こうおっしゃいました。

 

「今年(15年)、カープは優勝できずにBクラスに終わった。終盤の苦しいときこそファンの応援が必要なのに、優勝できないと分かると球場に来るお客さんが少なくなった。ファンというのは負けてるときこそ、そして弱いときこそ応援しなきゃいかんのです」
 私は顔を真っ赤にして、下を向いてしまいました。

 

 平昌に話を戻すと、あの会場にいた応援団の方々は、何とか都合をつけて現地まで行き、グッズも心をこめて作って持ち込んでいました。ゲームの流れに喜んだり落胆したり、あるいはスタジアムの演出に乗ったりして、パラスポーツを楽しんでいました。試合中に、選手は観客席を見上げることはありません。でも選手たちはよく「客席の声が聞こえる」と言います。だからせっかくここまで準備して来たのだから、声を出さないともったいないのではないか、と思ったのです。

 

 改めて応援って何だろう……。私はこう考えています。会場全体を自分たちの色に染めて雰囲気を盛り上げ、選手の後押しをすることです。ただ得点に喜んだり、DJの呼びかけや音楽に反応することは「観戦」であって「応援」ではありません。

 

 せっかく会場に行っても、観戦だけでは実にもったいない。「受動的に楽しむ」だけではなく、「能動的に会場の雰囲気をつくり、ゲームをつくる」つもりで臨んではどうか。そうしてこそ、時間をかけて準備したグッズも、さらに大きな力を発揮するのではないでしょうか。

 

 日本では最近、パラスポーツを観戦に行く「観戦ボランティア」という言葉もあり、国内大会で広がっています。次は観戦から一歩進んだ、「応援」についてみんなで取り組んではどうでしょう。

 

 まだまだパラスポーツの観客席には開発や発展の余地があります。つまり、私たちにもやれること、やるべきことがたくさんあるということなのです。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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