ドイツ生まれの競技であるラートは、2本の鉄の輪を平行につないだ器具を回転させながら、さまざまな体操をする競技だ。日本ではまだなじみの薄い競技だが、実は今年7月、日本人初の世界チャンピオンが誕生した。高橋靖彦、28歳だ。元球児の彼を虜にしたラートとは――。二宮清純がラートの魅力について訊いた。
二宮: ラートは簡単そうにまわっているように見えますが、競技としてやろうとした場合は、全身の筋肉を使っているんでしょうね。
高橋: そうですね。難しい技をやろうとすると、かなりの筋力が必要ですね。それと、美しさを追求するためにも重要です。同じ技をやる選手はたくさんいますが、結局は審判にどう見せるかなんです。常に姿勢が真っ直ぐで、ブレがなく、きれいな技に見せるためには、それだけの筋力が必要となります。

二宮: 普段から身体全体の筋力を鍛えているのでしょうか?
高橋: そうですね。弱い部分があると、技に影響がありますし、ケガにもつながりかねません。ストレッチなど、身体のケアも重要です。

二宮: ラートは何歳くらいまで現役を続けられるものなんですか?
高橋: 種目にもよると思いますが、「跳躍」のように瞬発力が求められる種目は、おそらく30歳を過ぎると能力が落ち始めてくると思うんです。それは技術ではなかなかカバーできません。ただ、「斜転」のように瞬発力がそれほど必要ではない種目は、やればやるほどうまくなるのではないかと思います。そういった種目によって特性が分かれているところもラートの魅力のひとつだと思います。

二宮: 高橋さんは今年28歳で世界チャンピオンとなりました。世界選手権は2年に1度。何連覇までいけそうですか?
高橋: きちんと練習できる環境を整えていくことが前提となりますが、肉体的、技術的には、あと2回は出場できるのではないかと思っています。

二宮: 元球児の高橋さんがそこまでハマったラートの魅力とは何でしょう?
高橋: やはり誰にでも簡単に回れて、遊園地のような気分を味わうことができるんです。実は僕は体操が苦手でした。そんな僕のような人にも、本当に簡単に回ることができる。それが一番の魅力だと思います。競技者として難しい技をやっている今でも、シンプルに回るのが、何よりも楽しいと感じているんです。

二宮: 初めてラートで回った感覚は、覚えていますか?
高橋: はい、よく覚えています。フワーッとした感覚は忘れられません。これからたくさんの人に、この魅力を味わってほしいですね。

<現在発売中の『第三文明』2013年11月号でも、高橋靖彦選手のインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>