バスケットボールファンにとって楽しみな季節がやってきた。bjリーグ2013−2014シーズンが本日、開幕する。2005年にリーグが始まって今年で9季目。今季は青森ワッツとバンビシャス奈良が新規参入し、東西カンファレンス計21チームによって各地で熱戦が繰り広げられる。果たして、来春に行われるファイナルでチャンピオントロフィーを手にするのはどのチームか。今季の展望を河内敏光bjリーグコミッショナーに語ってもらった。
 安定感ある新潟、秋田が中心か

 イースタン・カンファレンスで、安定した力を誇っているのが新潟アルビレックスBBと秋田ノーザンハピネッツです。新潟は今季、ヘッドコーチが代わり、選手の入れ替えもありました。その中で、PGの藤原隆充を獲得できたのは大きいと思いますね。昨季の新潟は、PGが少し手薄でした。ここに経験豊富で、01年から08年まで新潟でプレイした藤原が入れば、チームはより安定したバスケットを展開できると見ています。
 有明に進出した昨季の主力メンバーにも大きな変動はありません。新潟がプレイオフに進めるレギュラーシーズン6位以内に入ることはまず間違いないでしょう。あとは、プレイオフ、その後のファイナルを勝ち上がるために、レギュラーシーズンでどれだけチーム力を高められるかがポイントです。

 秋田は昨季、カンファレンス・セミファイナルで新潟に敗れ、初のファイナルズ進出とはなりませんでした。この悔しさを糧に、今季は並々ならぬモチベーションでシーズンに入ったことでしょう。また、今季はオールスターゲームが秋田県で開催されます。秋田には、カンファレンス首位の位置で、地元でのオールスターを迎えることを目標にしてほしいですね。
 秋田の中心選手はPG富樫勇樹です。身長の低さを、持ち前の技術とスピードで補い、昨季は途中加入ながら新人賞を受賞しました。中村和雄HCは、富樫を中心にしたチームづくりをしてきていると感じます。チームメートも彼のプレイスタイルを昨季で理解したでしょうから、今季は開幕から自分たちのバスケットを展開できるのではないでしょうか。

 東の台風の目として挙げたいのが富山グラウジーズです。昨シーズンは、レギュラーシーズンを3位で終えたものの、カンファレンス・セミファイナルの最終決定戦で敗れてファイナルズには進めませんでした。選手とHCは、熱烈な富山のブースターたちを有明に連れて行くという強い気持ちを持っていると思います。
 富山の特徴はなんといっても攻撃力です。特にG水戸健史、SG城宝匡史、Fアイラ・ブラウンの3枚看板は脅威的です。昨季は3人でチーム得点数の約半分にあたる2034点を叩き出しました。好調時の彼らを擁する富山には、新潟、秋田といえども勝つのは難しいでしょうね。

 仙台89ERSは大きくチーム構成が変わったことで、チームカラーがはっきりしたように映ります。昨季、PG志村雄彦とともにチームを牽引したPG日下光がチームを離れました。これにより、志村を中心にチームをつくるという方向性が固まった。また、外国籍選手では2009-2010シーズンMVPのFウェンデル・ホワイトを獲得。実績のあるホワイトは、仙台の外国籍選手のいいまとめ役となってくれるでしょう。
 戦い方としては、日本人選手がアウトサイドから得点を狙い、外国籍選手がインサイドを固める。この役割分担を徹底できれば、プレイオフ進出は固いと思いすね。

 プレイオフ進出のボーダーラインにいるのが信州ブレイブウォリアーズだと思います。今季から河合竜児HCが就任し、F仲西翔自、Fジェフリー・パーマーというbjリーグでの経験が豊富な選手も加わりました。昨季途中の14連敗というふうに、大きく崩れることはないでしょう。そのなかで、プレイオフ進出には下位のチームから確実に勝ち星を挙げることが重要です。逆に、下位チームは信州に勝利できれば、6位以内に入ることも視野に入ってくる。そういう意味でもキーになってくるチームですね。

 リーグ立ち上げから参加する埼玉ブロンコスにも頑張ってほしいですね。埼玉は“ヘリコプター”ことSFジョン・ハンフリーにどれだけボールを集められるかに尽きます。昨季はケガでシーズンをフルに戦えませんでしたが、953得点で3度目の最多得点のタイトルを手にしました。ハンフリーがシーズンを通してプレイできれば、相手チームにとっては脅威です。彼を中心に、相手に100点とられても105点とって勝つ、という超攻撃的なバスケットを見せてほしいですね。

 前年度王者の横浜ビー・コルセアーズは、昨季のファイナルズMVPであるSG蒲谷正之など、日本人選手が軒並み残留した点は明るい材料です。しかし、主力だった外国籍選手が抜けた穴は、簡単には埋められないでしょう。チャレンジャーとして臨み、プレイオフ進出が第一目標になると見ています。
 横浜、東京サンレーヴス、群馬クレインサンダーズは出だしの6試合の戦績が重要です。ここで勝ち越してうまくスタートダッシュを切られれば、勢いに乗っていけます。しかし、大きく負け越すようなかたちになれば、常に5割に戻すことを意識せざるを得ません。余裕をもって、プレイオフ圏内を争うかたちに持ち込みたいところです。

 新参・青森、1年目でのプレーオフも

 新規参入チームにも触れておきましょう。イースタンの青森には、非常にいいメンバーが揃いましたね。F澤口誠やG北向由樹ら、リーグでの戦いを熟知している選手が多くいます。各ポジションにバックアップメンバーがおり、選手の年齢層も若手、中堅、ベテランとバランスがとれている。メンバー的にはプレイオフ進出を十分狙えますよ。

 強いて不安を挙げるとすれば、棟方公寿HCがbjリーグでの指導経験がないという点です。52試合のタフなシーズンを戦い抜くためには、指揮官のマネジメント力も欠かせません。棟方HCが考えるビジョンを選手と共有できるかが、1年目での躍進のカギになるでしょう。

 ホームで迎える開幕戦の相手は同じ東北の岩手ビッグブルズ。岩手も十分にプレイオフを狙えるチームです。岩手相手に2連勝できれば、青森は「方向性は間違っていない」と一気にチームの結束が強まるはずです。逆に岩手は、新参チームに連敗を喫するとなれば、波に乗ることが難しくなる。両チームともに、開幕戦が今季を占うビッグゲームです。勝者は、オールスターあたりまで、上位でシーズンを送れると思いますね。

 一方、ウエスタン・カンファレンスの参入1年目・奈良は、なんとかプレイオフ進出を狙いたいところでしょう。指揮官には昨季・琉球ゴールデンキングス(沖縄)をレギュラーシーズン1位に導いた遠山尚人HCを招聘しました。私は、新生チームである奈良にとって、遠山HCほど最適な人材はいないと考えています。
 遠山HCが掲げるスタイルは、若さを生かしたバイタリティー溢れるバスケットです。積極的にディフェンスから仕掛けて、速い展開に持ち込む。このスタイルで、奈良は9月のbjチャレンジカップ(出場チームは奈良、大阪、滋賀、浜松)を制したのです。

 以前の所属チームで出場機会の少なかったF本多純平、G稲垣諒、PG山城拓馬を中心に、若手選手がのびのびとプレイしていることも印象的です。これも、遠山HCがミスを恐れさせない雰囲気をつくりあげている成果といえます。「ミスをしてもいい。とにかくシュート打ってこい」と(笑)。だからこそ、選手は自分の持っている以上の力を発揮できているのでしょう。

 群を抜く京都の選手層

 つづいてウエスタン・カンファレンスを見ていきましょう。ウエスタンも、どのチームが勝ちあがってくるかを予想するのは、非常に難しい。その中で、上位でのプレイオフ進出が固いのは、京都ハンナリーズと琉球ゴールデンキングス(沖縄)と考えています。

 京都は実に豪華な布陣です。Cクリス・ホルム(昨季リバウンド1位)、Fデイビッド・パルマー(同フリースロー成功率1位)、仙台からPG日下と成長著しいF薦田拓也(昨季オールスター出場)も獲得。その他にも高い実力を誇る日本人選手がいます。全員が他のチームでスターティングファイブを務められる選手たちです(笑)。それだけに、浜口炎HCの手腕が一層問われるシーズンになりますね。

 昨季は1本がほしい場面では、パルマーにボールを託すことが多かった。ゆえに、終盤になるにつれて、得意のパターンを相手に研究されて、攻撃が機能しないケースも見受けられました。今季は他のかたちでも勝負できるようにならないと、悲願のファイナル制覇は難しい。ただ、ホルムやPFジョー・ワーナーが加入したことで、インサイドからでも点をとれるようになると思います。豊富な戦力を活かしながら、バスケットの引き出しを多くする。京都のポイントはそこに尽きるでしょう。

 沖縄は中心選手のFアンソニー・マクヘンリー、Fジェフ・ニュートンが健在です。彼ら2人がいれば、チームが大崩れすることはまず考えられません。G並里成がチームを離れましたが、有望なGも出てきています。G岸本隆一は、並里がいた時から出場機会を得ていましたし、G山内盛久も成長を続けています。ベテランのG小菅直人も、いいプレイを見せてくれるはずです。

 そんな沖縄の中で、私はG金城茂之に注目しています。ここ2シーズンは、ケガの影響で満足にプレイすることができませんでした。それだけに、今季は期するものがあるでしょう。今季はキャプテンに就任し、名実ともにチームの柱としての活躍が求められます。以前のように点取り屋としての輝きを取り戻せられれば、沖縄の2季ぶりの優勝も見えてきます。

 京都、沖縄を負うチームは島根スサノオマジックでしょう。Fマイケル・パーカーという大黒柱はチームを去りましたが、Cジェラル・デービス、F波多野和也ら実力者は揃っています。デービスはブロックショットでチームを助け、波多野の高さは日本人選手には少ないアドバンテージです。また、横浜で優勝に貢献したFトーマス・ケネディを獲得したことも見逃せません。攻守両面で活躍できるケネディは岩手時代にブライキディス・ブラシオスHCの下でプレイ経験があり、指揮官のバスケットを理解している点も魅力です。主力選手に大きなアクシデントがなければ、レギュラーシーズン1位の可能性も十分にありますよ。

 昨季準優勝のライジング福岡には、地元出身のG青木康平が加入しました。G仲西淳、PG竹野明倫、G加納督大らもいることから、日本人選手の1対1での打開力はリーグ屈指だと思いますね。ただ、同じポジションにこれだけいい選手がいると、指揮官がどの選手を使うかに注目が集まります。試合に出たり出なかったりの状況になった選手たちは、シーズンを通してモチベーションを維持し、自分の能力を発揮できるかわかりません。新指揮官のマック・タックHCには、彼らのモチベーションをどうコントロールするかが問われます。

 浜松・東三河フェニックスも、プレイオフ進出は固いと見ています。C太田敦也、G大口真洋、G大石慎之介らが中心にチームを引っ張っています。3連覇を果たしたチームですから、スタイルはほぼ出来上がっていると言っていいでしょう。帰化選手のGアキ・チェンバースも楽しみです。運動能力が高く、これからバスケットを深く学んでいけば、大きく化ける選手だと思いますね。

 熾烈なプレイオフ争いに注目

 プレイオフ進出の残り1枠を争うとみられるのが、大阪エヴェッサと滋賀レイクスターズ。大阪は、指揮官、選手のすべてが入れ替わりました。PG澤岻直人、F仲村直人、G呉屋貴教……そのロスターは、一言で表現するとベテランのオールスターです。外国籍選手もリバウンドに強いPFディリオン・スニードが加入。攻守において非常に安定したバスケットを見せてくれるのではないでしょうか。ただ、ベテラン揃いなだけに、不安なのはシーズン途中でのガス欠です。ケガなどで、チーム力を落とさずに戦えるかが、大阪のポイントですね。

 滋賀は、1〜3週目を5割以上で乗り切れるかがカギです。というのも、対戦相手が島根、浜松、沖縄と、立て続けに強豪との対戦することになるからです。この6試合で、大きく負け越すことになれば、5割に戻すことで、シーズンを終えてしまいかねません。逆に、6連戦を勝ち越すことができた場合は、上位でのプレイオフ進出が見えてきます。

 大分ヒートデビルズは昨季、運営会社の経営破たんで苦しいシーズンを送りました。今季も、限られた戦力の中で、西の強豪たちに挑みます。中心はG清水太志郎。リーグを代表する実力の彼が、鈴木裕紀HCと話し合いながら組織力をどれだけ高められるか。その中で、接戦をモノにして、上位を狙いたいところです。

 昨季9位の高松ファイブアローズは、チャレンジ精神を全面に押し出してくるでしょう。一昨年、2勝しかできなかったチームは昨季、20勝にまで白星を増やしました。今季もチーム構成はほとどん変わっていません。6位の浜松との勝利数の差は8。決して届かない数字ではありませんね。ウエスタンは、すべてのチームがプレイオフを狙える実力を備えています。終盤まで見応えある戦いが展開されるでしょう。

 ここまで、各チームの状況から今季を展望してきましたが、正直に言って、どこが優勝するかはまったく予想がつきません。昨シーズンにしてみても、参入2季目の横浜の優勝を予想した人はどれだけいたでしょうか。本命と言われるチームが、順当に勝ち進めない。ここにbjリーグの面白さがあると考えています。ブースターのみなさんは、シーズンの最後まであきらめず、チームに声援を送ってあげてください。

 最後になりますが、bjリーグは来季で節目の10シーズン目となります。その上で、今シーズンは、これまでのリーグの集大成になると私は位置づけています。ルールも昨季から変わっていません。9シーズン、走り続けてきたbjリーグの現状を、ブースターやバスケットファンのみなさまには、その目で確認していただきたい。そして、「ここは、こうしたほうがいいのでは?」と感じられた際は、その声をリーグにお寄せください。携わってくれているすべての人々の声を聞き、我々はより優れたリーグへと成長していきます。

河内敏光(かわち・としみつ)プロフィール>
1954年5月7日、東京都生まれ。bjリーグコミッショナー。中学からバスケットボールを始め、京北高では全国ベスト4に進出。明治大時代には全日本学生選手権3連覇を達成した。卒業後、三井生命で約10年間プレイし、日本代表としても活躍した。現役引退後、三井生命監督に就任し、実業団選手権優勝、天皇杯準優勝に導いた。94年からは全日本男子監督を務め、2000年に新潟アルビレックスの運営会社社長に就任。04年にはbjリーグを立ち上げ、完全プロ化を実現させた。

(構成/鈴木友多)