この4月にリニューアルした「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」。新たに白寿生科学研究所の松修康さんらが月初の連載コラムを担当し、月末更新分では、プロ野球関係者のゲストコラムやSCスタッフが球場や取材先で仕入れた特別コラムを掲載します。今回は復活を期す松坂大輔投手への"同級生"の思いをお伝えしましょう。

 

 7回自責点1の快投

 松坂投手は昨オフ、福岡ソフトバンクを退団し、テストを経て中日に入団しました。右肩の故障の影響でソフトバンク時代の1軍登板はわずか1試合。中日の森繁和監督は入団にあたって「うちでダメだったら引退すればいい」と語っていました。崖っぷちの「平成の怪物」でしたが、ここにきて復活の兆しを見せています。

 

 19日、ナゴヤドームで行われた阪神戦。松坂投手にとって今季2度目の先発マウンドです。初先発だった5日の巨人戦では5回を投げて3失点、負け投手となりました。

 

 初回、阪神打線を三者凡退に切ってとる上々の立ち上がり。続く2回に犠牲フライで1点を先制され、その裏、味方が1点を返して同点に追いついたものの、4回には自らのエラーをきっかけに1点を失いました。取っては取られる、しびれるような展開です。だが、松坂投手は高校時代の甲子園を皮切りにNPB、メジャーリーグとくぐってきた修羅場の数では誰にもひけをとりません。

 

 5回、阪神打線を三者凡退に封じると、6回、1番高山俊選手から始まった阪神の攻撃も三者凡退で退けました。この時点で球数は100球を超えていましたが、中日ベンチは7回のマウンドも松坂投手に託しました。

 

 4番ウィリン・ロサリオ選手を内野ゴロに打ち取ったものの、5番・福留孝介選手にライト前に運ばれました。続く糸原健斗選手にフォアボールを与えて1死一、二塁。ここで朝倉健太投手コーチがマウンドに向かいました。しかし、松坂投手は続投を志願します。大山悠輔選手をセンターフライに打ち取りツーアウトとしたものの、梅野隆太郎選手にセンター前に運ばれて2死満塁とピンチはまだまだ続きます。阪神は代打・上本博紀選手を打席に送りました。

 

 初球、カットボールを低めに決めて1ストライク。続くカーブはアウトコースに外れました。3球目のスライダーもワンバウンドになって2ボール1ストライク。4球目のカットボールはファウルになり、カウントは2-2。5球目、松坂投手の右腕から放たれたアウトローのカットボールに上本選手のバットは空を切りました。ガッツポーズをしてマウンドを降りる松坂投手に、中日ファンだけでなく三塁側に陣取った阪神ファンからも大きな拍手が送られました。

 

 負け投手にはなりましたが7回で123球を投げて自責点1。次回先発は30日の横浜DeNA戦が予定されています。

 

 同級生のエール

「同級生はみんな松坂大輔を見て、彼を追いかけて野球をやって来た。大輔は世代のトップだから、いつまででも元気に投げてほしい。それに負けないように、自分たちも頑張ろうという気持ちがわいてきますから」

 

 こう語ったのは、元巨人で現在はBCリーグ・栃木でプレーする村田修一選手です。村田選手は1980年12月28日生まれ。いわゆる80年4月2日から81年4月1日生まれを称した"松坂世代"の代表格です。

 

 村田選手は高校時代、センバツで松坂投手と対戦しました。横浜高校の"エース松坂"に対して、村田選手は東福岡高(福岡)の"エースで3番"でした。

 

 以前、村田選手はSC編集長・二宮清純のインタビューにこう語っています。

 

「松坂がどれだけスゴイのか、この目で確かめてやろうじゃないか、と思っていましたが、結果は4打席ノーヒット。しかも2三振。手も足も出ませんでした」

 

--松坂投手の投げるボールはどんなボールでしたか?
「九州では見たこともないようなボールでした。真っすぐも速かったけど、もっとすごかったのがスライダー。それこそ"ピシューッ"と音を立てて曲がるんです。ある打席で回転のいいボールがインコースに来た。真っすぐだと思ってよけると、なんと外角いっぱいに決まった。"何だよコイツ、反則だろ"と思いましたよ。"あー、こういうピッチャーがプロに行くんだな。自分たちとはレベルが違うんだ"ということを教えられたような気がしました」

 

 さて、松坂世代のほとんどが今季で38歳になります。プロ野球では峠を過ぎたと言われる年齢ですが、松坂投手と村田選手以外にも以下のプレーヤーが現役を続けています。

 

 永川勝浩(広島)、藤川球児(阪神)、G後藤武敏(横浜DeNA)、杉内俊哉(巨人)、工藤隆人(中日)、館山昌平(東京ヤクルト)、和田毅(福岡ソフトバンク)、久保裕也(東北楽天)、渡辺直人(東北楽天)、小谷野栄一(オリックス)、矢野謙次(北海道日本ハム)、實松一成(北海道日本ハム)、久保康友(米独立リーグ)。さらに昨季、戦力外となったものの現役続行を希望している梵英心選手(元広島)も松坂世代です。

 

 松坂投手が阪神戦で投げたストレートの球速は140キロにも届きませんでした。それでもカットボール、カーブ、スライダーと多彩な変化球を操り、阪神打線に狙い球を絞らせませんでした。全盛期を知る者にとって球速こそ物足りませんが、新しい"怪物伝説"の始まりを見ている気がします。
(SC編集部:西崎のぶゆき)


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