大学サッカーが、日本サッカーの未来をつくる。

 強い信念のもと関東大学リーグ1部の早稲田大学ア式蹴球部の監督に今年から就任したのが、外池大亮氏だ。部のOBでベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)やヴァンフォーレ甲府などで活躍した元Jリーガーである。

 

 彼のキャリアは異色だ。現役引退後に広告代理店の電通に入社し、サッカーのスポンサー営業を担当。その後スカパーJSATグループに転職した。サッカー中継や、関連番組の編成、制作、広告事業に携わっている。スカパーJSATグループの社員業務とア式蹴球部監督を兼任している。

 

 ワセダからすればサッカーのみならず、社会人としての人材育成の目的も含んだ人事だろう。外池氏はこう語っている。

「サッカーの能力に長けた学生もそうですが、むしろ周りにいる学生たちのエネルギーを引き上げることで競技力も向上すると考えています。大学は学びの場。サッカーへの価値を見出すヒントをいっぱい身につけて社会に出てもらいたい」

 

 外池流はコーチ人事にもあらわれている。ゴールドマン・サックス証券でバリバリ働き、現在は独立している部の同級生に、「マネジメントコーチ」なる聞き慣れない役職を託している。

 

「彼に、ピッチ外の管理、評価を任せたいと思って要請したら引き受けてくれたんです。大学サッカーは試合の運営も、学生がやります。主務、副務、マネージャー、学連担当、広報担当、集客担当……そういった学生をしっかり評価、指導してあげたい。彼はその世界のプロなので、適任だと思ったんです」

 

 目的は「周りにいる学生たちのエネルギー」を向上させること。学生全体の熱を引き上げる組織づくりは、まさに外池監督だからできることなのかもしれない。

 

 大卒選手が活躍する日本のサッカー文化には、日本代表を率いたアルベルト・ザッケローニ監督も驚いていた。

「大学が選手にいい内容のサッカーを教えていると感じる。学ぶ環境があることで、吸収力というものが伸びているのではないだろうか。欧州とはまた違う環境だと言える」

 

 昨季優勝した川崎フロンターレは中村憲剛はじめ谷口彰吾、車屋紳太郎ら大卒選手が特に多い。MVP&得点王に輝いた小林悠もそうである。

 

 高校卒業後の4年間でプレーヤーとしてもうひと伸びさせる大学の貢献は非常に大きい。だが、教育機関である大学はプロの養成所ではない。いくら強豪といってもプロの道に進めるのはひと握りしかいない。

 

 社会に出ていく人材の育成こそが大学の1つの使命であり、サッカーを通じて人間教育、社会教育を施していくというのが部の本質だと言える。プロの道に進まない学生たちが外池監督のように、サッカーに関わる仕事に就くのであれば、ひいてはそれがサッカー界への貢献にもなる。

 

 外池監督はチームを立ち上げた際、スタッフを全員集めてこうお願いしたという。

「みなさんにやっていただきたいのは、学生の動機づけです。話した、伝えたではなく、行動を促すところに持っていってもらいたい」

 

 学生が主体となって取り組んだものを、手助けする、補足するというスタンスを崩さない。部員の行動を促すことが、一番の仕事だと彼は考えている。

 

 今季2部から昇格したワセダは開幕から3連勝と好スタートを切った。若人のエネルギーがみなぎる部を目指して、外池監督のチャレンジは続く。


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