ロシアワールドカップの公式球は、FIFA(国際サッカー連盟)とパートナーシップ契約を結ぶアディダス社の「テルスター18」だ。

 

 この「テルスター」というネーミングに親しみを感じるサッカーファンは多いだろう。同社がFIFAと契約した1970年、メキシコワールドカップで登場したのが「テルスター」であった。

 

 名前は「テレビ時代のスターになる」との意味がこめられていた。

 当時は茶色のボールが主流だった。モノクロ時代のテレビではボールが分かりづらかったため、白と黒を基調にしたデザインは一般のサッカーファンに好意的に受け止められたという。その後「白と黒」がサッカーボールの定番デザインになっていくのは、ご存知のとおり。「テルスター」は1974年西ドイツワールドカップでも使用され、アディダス社は以降「タンゴ」(1978年アルゼンチン)「アステカ」(1986年メキシコ)「トリコロール」(1998年フランス)「フィーバーノヴァ」(2002年日韓)など大会ごとに新製品を登場させ、ボールを進化させてきた。

 

 近年で画期的だったのが2006年ドイツワールドカップでの「+チームガイスト」だろう。それまでは五角形、六角形の計32枚のパネルを組み合わせる「亀甲型」がスタンダードであったが、プロペラ型と手裏剣型のパネルを使って計14枚に減らしている。そのパネルを従来の「手縫い製法」ではなく、熱接合技術でパネルを貼り付け、縫い目のない「サーマルボンディング製法」を採用している。

 

 最大の特徴は、重量、反発に均等性が担保されること。縫い目がないために水分の影響を受けにくく、ボールのどの箇所を蹴っても反発は同じになる。現代なら「そんなの当たり前でしょ」と思われるかもしれないが、試合環境や蹴るポイントによって“不均等”となる時代が長く続いていたのである。

 

 その後もボール製法の技術は革新を続け、2010年南アフリカワールドカップの公式球「ジャブラニ」はパネルの数がさらに減って8枚になった。より真球に近くなったものの、空気抵抗による不規則な変化をもたらした。ブレ球のシュートが流行し、「ゴールキーパー泣かせのボール」と言われた。その問題点を解消したのが、前回ブラジルワールドカップの公式球「ブラズーカ」だ。

 

 さて今回の「テルスター18」はどのような特徴を持っているのか。

 新形状の均一6枚のパネルを接合し、デザインは初代をモチーフに「白と黒」をベースにしている。ピクセル柄はデジタル時代を反映したもの。高画質テレビ時代のスターになることを意識してのネーミングだと言える。

 

 レアル・マドリード、マンチェスター・ユナイテッド、アルゼンチン代表などクラブ、代表の数チームでテストを重ね、完成させた。だが、軌道の不規則性を指摘する声も少なくなく、再びゴールキーパー泣かせのボールになるかもしれない。

 

 ロシアワールドカップを戦ううえで、新ボールにどうアジャストするかは重要な要素である。

 

 Jリーグは今季の公式球で採用しているため、その点はプラスに働くはず。本田圭佑はメキシコから帰国後、コンディション調整と併行して公式球を用意して蹴り込んでいるという情報も届いている。

 南アフリカワールドカップでも「ジャブラニ」の特徴を活かして、本田が長距離砲の直接FKを決めている。ボールの特徴を把握し、うまく味方につけたいところ。細部にこだわっていくことで、世界との差を埋めていきたい。


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