ぶったまげた。イニエスタ? 年俸30億円超? もし本当ならば、ジーコが住友金属(現鹿島)に入団したとき以来の衝撃である。いや、あのときのジーコが一度現役を退いていたことを考えれば、今回の方がインパクトは上か。何しろ世界王者である。W杯決勝でスペインを優勝に導くゴールを決めた男である。そして、世界中に信者を生んだ、バルサの中枢を担った男である。

 

 メッシの左足はもちろんすごい。クリスティアーノ・ロナウドのフィジカルや決定力もすごい。だが、ほんの少しでも生まれていた時代が違えば、イニエスタもまた、複数回のバロンドールを獲得していてもおかしくなかった。

 

 彼は、間違いなく歴史に名を残す天才である。

 

 今から20年前、スペインで開催された「ナイキ・プレミアカップ」でヴェルディの一員としてバルサと、イニエスタと対峙した玉乃淳さんはこう振り返る。

 

「試合前に整列してみたら、ぼくよりも背は低いしオーラもない。なんだ、これだったら勝てるなと思ったんですが、結局、体にすら触らせてもらえませんでした。反則で止めようとしても、消えちゃうんです」

 

 ヴェルディの大黒柱だった玉乃さんも、日本では天才の名をほしいままにしていた逸材だった。だが、バルサの中盤に君臨する小柄な同い年の少年は、今まで対戦してきたどんな選手とも次元が違ったという。

 

「たとえていうなら、僕が将棋の羽生さんと対局するみたいなもんでしょうか。何もできないまま、気がつけば終わってる感じ」

 

 その日の衝撃は、日本の天才少年の人生を大きく変えた。

「どうやっても自分には届かない世界があることを思い知らされました。あれ以来、無邪気に頑張ろうとは思えなくなった」

 

 玉乃さんは翌年からアトレティコのユースに入り、これまた来日が噂されているフェルナンド・トーレスともチームメートになった。日本に戻ってからは、J2時代の香川や柿谷と対戦する機会もあった。ただ、どれほど素晴らしい選手とプレーをしても、イニエスタを超える衝撃を受けたことはなかったという。

 

 いまは大手広告代理店で働く玉乃さんは、早くもイニエスタの来日を心待ちにしている。

「メッシの若いころって、バルサじゃないと活躍できないところがあったじゃないですか。でも、イニエスタは、カタルーニャ選抜とかの試合でも、関係なく活躍してましたからね。あと、実は彼、得点能力がすごいんです。バルサでは必要ないから封印してただけで」

 

 果たして、イニエスタは本当にやってくるのか。期待は高まるばかりだが、こうなったら、三木谷会長にはさらなる大物の招聘をお願いしたくなってしまう。

 

 世界最高の選手の次は、世界最高の監督とかっていかがでしょう。いまはマンチェスターにいるイニエスタの恩師とかは。

 

<この原稿は18年5月10日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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