ラグビーW杯開催が翌年に迫り、「スポーツホスピタリティ」という言葉を耳にする機会が多くなってきた。これは観戦のみならず、食事やギフト、専門家による解説なども加えた新しい形態のサービスで、これまでの日本のスポーツイベントでは、あまり見られないものだった。


 ラグビーW杯は開催期間が約6週間と長いことに加え、比較的、富裕層のファンが多いと言われている。またサッカーなどに比べればルールが難しく、ビギナーにすれば、この外国の選手は、いったいどういう選手なのか、どういうプレーをするのか皆目、見当がつかなかったりする。


 そこで「スポーツホスピタリティ」の出番である。ゲストルームなどでワイン片手に観戦し、「今のプレーは?」と聞くと、傍らのガイドがテレビ解説者以上のわかりやすさで説明してくれるのだ。富裕層向けの“おもてなし”である。


 この新サービスをパラスポーツにおいても展開できないものか。そうすることでパラスポーツを取り巻く環境が一変する可能性があると私は思っている。


 ある広告代理店の調査によるとパラスポーツの観戦者は他のスポーツ以上に選手との関係性が深い。よって「ワイン片手に」という人は、ほんの一握りだろう。だがルールを説明したり、選手を紹介するガイドはサッカーはもちろん、ラグビー以上に必要だ。パラスポーツの現場で求められるのは庶民目線の「スポーツホスピタリティ」ということになる。


 たとえば、「車いすバスケット」という競技がある。選手は障がいの重い順に1.0~4.5までの持ち点が定められており、コート上の5人の持ち点が14.0を超えてはならない。どの選手が1.0で、どの選手が4.5なのか。これなどは“一見さん”ではわからない。まずはルールを知る。それこそがパラスポーツ普及の第一歩となるのではないか。


 アテネ五輪を取材した時のことだ。ホテルのフロントマンが「野球が見たい」というので連れて行った。ボークについて聞かれ、ハタと困った。私の説明能力と言語能力には限界があった。「野球は難しいネ」。彼はそう言うなり試合途中で席を立った。パラスポーツの観客に、そんな思いをさせてはならない。

 

<この原稿は18年5月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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