<年齢で物事判断する人はサッカー知らない人。>。ロシアW杯に臨む日本代表メンバーに選出された長友佑都が発したツイートが物議をかもした。2000件を超える返信があり、その多くが批判的な色に染められていたという。メンバー23人の平均年齢は28.26歳。過去最高齢となったことを受けての発言だった。長友の真意は別のところにあったのだろうが、言葉じりをとらえられ、炎上の憂き目にあってしまった。

 

 過去、スポーツ界には“炎上隊長”がたくさんいた。たとえばマラソンの中山竹通。第一人者の瀬古利彦をライバル視し、ソウル五輪代表選考を兼ねた87年の福岡国際マラソンではぶっち切りの優勝を果たした。レース前に発した「瀬古よ、這ってでも出てこい」との発言は世間の顰蹙を買った。

 

 実はあの発言は、ねじ曲げられたものである。私は中山の後ろでメモをとっていたから、よく覚えている。瀬古について聞かれた中山は「僕なら這ってでも出る」と言ったのだ。「おかげでいい迷惑ですよ」。後日、中山は苦笑しながら言った。発言を真に受けた人々から、中山の尊大な態度をとがめる手紙が合宿所に複数届いたというのである。

 

 過日、その話を瀬古にすると「そうだったんだ。そりゃ中山がかわいそうだよ。あれで悪者になっちゃったもんね」と同情を寄せた。口には出さずとも、2人とも気まずい思いを引きずっていたはずだ。

 

 球界にも“炎上隊長”はいる。89年の日本シリーズで3連勝直後に「巨人はロッテより弱い」と言い放った元近鉄の加藤哲郎である。ちなみにロッテはこの年のパ・リーグ最下位球団。この発言に怒った巨人の選手たちが奮起し、4連勝につなげたというのが球界の定説である。

 

 本当なのか。数年前、加藤に確認してみた。第3戦で勝ち投手になった加藤は巨人に対する感想を求められ、「ピッチャーはすごいけど、打線はアカンな」と答えた。「ロッテよりも弱いの?」。追い討ちの質問に「そりゃロッテに失礼や」と断った上で、「どっちが怖いか言うたら、ロッテの(打線の)方やな」と続けた。それが件の発言につながるわけである。

 

 近年、SNSの普及に伴い、ビッグマウスが少なくなってきた。味も素っ気ないコメントの数々。とはいえ、選手たちを炎上リスクにさらすわけにはいかない。何かと気苦労が絶えない時代である。

 

<この原稿は18年6月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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