いよいよ30日(現地時間)からサッカーロシアW杯の決勝トーナメントがスタートする。強豪国が順当に勝ち上がったグループもあれば、前回王者のドイツが敗退するまさかの展開もあった。日本は1勝1分け1敗でコロンビア、セネガル、ポーランドと同居するグループHを2位で通過した。ここからは負ければ終わりのノックアウト方式。緊迫感溢れる戦いが続く。決勝トーナメント1回戦は初日からフランスvs.アルゼンチン、ウルグアイvs.ポルトガルという豪華なカードが揃った。

 

フランス(C組1位)vs.アルゼンチン(D組2位)

 

 優勝経験国同士の対戦はエースの出来がカギを握りそうだ。フランスはFWアントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)、アルゼンチンはFWリオネル・メッシ(バルセロナ)。ラ・リーガでも凌ぎを削る2人が、決勝トーナメント1回戦でぶつかり合う。

 

 グループリーグ(GL)を振り返ってみると、両国の道のりは対照的だ。フランスはオーストラリアに2対1で白星スタート。第2節はペルーに1対0で勝利し、早々にGL突破を決めた。これにより最終節のデンマーク戦はMFポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)、FWキリアン・エムパベ(パリ・サンジェルマン)をスターティングメンバーから外し、温存することができた。グリーズマンも後半23分にはベンチに退き、身体を休ませた。

 

 一方のアルゼンチンは薄氷を踏む思いでここまで上がってきた。初戦は伏兵アイスランドに1対1のドロー。第2節はクロアチアに0対3の完敗を喫したことで、GL敗退の危機に追い込まれた。最終節ではナイジェリアに2対1で競り勝ったことで、決勝トーナメントへの切符を手にした。選手たちの心身の消耗は激しそうだ。とはいえ、グループDは最激戦区のひとつ。よほど楽観主義者でない限りは苦戦も想定内だったはずだ。

 

 フランスのグリーズマンは3試合に出場し、PKのみの1得点。数字は物足りないかもしれないが、攻撃にもよく絡んでおり、動きの質自体は悪くない印象だ。アルゼンチンの守備は決して堅いとは言えないだけに、スピードとテクニックを兼備したレフティーが輝く可能性は非常に高い。

 

“戦術はメッシ”と言われたアルゼンチン。初戦はそれが色濃く表れていた。試合を追うごとにメッシへの依存度は薄れていったものの、それでもこのチームの命運を握るのは彼であることに変わりはない。FWセルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ)、FWゴンサロ・イグアイン(ユベントス)、MFアンヘル・ディ・マリア(パリ・サンジェルマン)ら他国が羨むタレントを擁しながら、メッシを生かし切れないジレンマを抱えていた。そこに最終節でMFエベル・バネガ(セビージャ)というパサーの目処が立ったことは好材料だ。スタメン起用された試合でメッシのゴールをアシストするなど、その実力は折り紙付きだ。30歳の司令塔が機能すればメッシはフィニッシュ役に専念できる。

 

ウルグアイ(A組1位)vs.ポルトガル(B組2位)

 

 3大会連続の決勝トーナメント進出を果たしたウルグアイは組分けに恵まれた感がある。グループAの他のチームはロシア、エジプト、サウジアラビア。優勝経験国はウルグアイのみだった。それでもGL失点ゼロは32カ国・地域唯一。GKフェルナンド・ムスレラ(ガラタサライ)、DFディエゴ・ゴディン(アトレティコ・マドリード)らで形成される鉄壁の守備陣が支えている。

 

 二枚看板のFWルイス・スアレス(バルセロナ)、FWエディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)の2トップは3試合ほぼ休まず出場した。スアレスが2得点、カバーニが1得点とゴール数は多くない。だが、この先2人に求められるのは、数よりもその価値だ。ここぞの場面で決め切れるか。シュートエリアも広く、得点パターンも多彩な2人。ダブルエースの決定力が古豪を3度目の頂点へ導く。

 

 懸念材料を挙げるとすれば、攻撃におけるスアレスとカバーニに対する依存度が高いことだ。先述のようにオスカル・タバレス監督はGLで控え選手を試すことはなかった。彼らのアシスト役、あるいは2トップを囮に使って自らがゴールを挙げる。そういう絶対的な中盤の選手がウルグアイに足りない。

 

 ヨーロッパ王者のポルトガルは、この男が好調だ。FWクリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード)が得点ランキング2位の4ゴールを挙げている。スペインとの初戦でハットトリックを達成。ストライカーとしての能力の高さを存分に発揮している。イラン戦でファインゴールを決めたFWリカルド・クアレスマ(ベジクタシュ)もジョーカーとして控えるなど、他にも世界的ビッグネームはいなくてもタレント揃いの中盤も魅力だ。

 

 GLは1勝2分けで2位。決して楽に突破してきたわけではない。しかし、ポルトガルにとって悪い流れではないと思えるのが、初制覇を成し遂げたEURO2016も無敗ながら3分けでGL3位のギリギリで決勝トーナメントに進出したからだ。その先は接戦をモノにして頂点まで駆け上がってみせた過去があるため、吉兆とも言える。これまで魅力的なサッカーをしながら勝ち切れない日々を過ごしてきたポルトガル。真の強豪国へと変貌しつつある。

 

(文/杉浦泰介)