W杯が終わり10日がたった。宴の余韻に浸るまもなく、世界各国では新たなシーズンへ向けての動きが激化している。

 

 中でも目を引くのはイタリアの動きである。ここ数年、ポストシーズンの話題はプレミアの上位陣かスペインの2強、潤沢な資金力を誇るパリSGなどによって占められてきた。だが、今年は違う。目下のところ、最大のニュースとなっているのは、ユベントスによるクリロナの引き抜きである。

 

 20世紀後半から今世紀初頭にかけて、世界のサッカーはイタリアを中心に回っていた。スペインやイングランドでプレーする外国人選手は、イタリアから声がかからなかったか、セリエで通用しなかったケースが多く、それはバロンドールの歴代受賞者の名前からもわかる。20世紀最後の20年間のうち、実に13回はセリエAでプレーしている選手が選ばれているのだ。

 

 だが、21世紀に入ると潮目は変わった。特に10年代に入ってからのバロンドールはメッシとクリロナの一騎打ちが続き、セリエA勢は07年のカカ以降、もう10年以上も黄金のボールから遠ざかっている。かくも長い空白は、ベッケンバウアーやミュラーといったドイツ勢対クライフという図式のあった70年代以来のことである。

 

 ユベントスがクリロナ獲得のために支払った巨額の移籍金は、親会社でもあるフィアットに勤める労働者の怒りを買ったようだが、イタリアのシンボルを自負するチームとしては、地盤沈下の続くセリエAに一石を投じたい、との思いがあったのではないか。間違いなくいえるのは、ここ数年ではちょっとないほど、セリエAには多くの目が向けられるということだ。

 

 W杯出場を逃がしたことで、イタリア・サッカーに対する評価はどん底にある。だが、ローマのクラブハウスには動画撮影用のスタジオが設置され、第2次大戦前に建設されたボローニャのレトロなスタジアムの内側は、最新式の設備で固められつつあった。見えないところで、イタリアの改革は進んでいる。ユベントスのクリロナ獲得は、セリエAの逆襲の狼煙となるような気がしてならない。

 

 日本に目を向ければ、先週の本欄で「期待している、頑張ってもらわなければ困る」と書いたガンバで監督交代劇が起きた。戦力と成績のバランスを考えればクルピ監督の更迭は当然としても、ずいぶんと思い切ったというか、乱暴な人事をしたな、というのが率直な感想である。

 

 下部組織からガンバで育った宮本新監督は、チームにとっての象徴であり、バルサでいえばシャビに等しい存在のはずだ。そんな人材に、ボロボロになったチームを任せる。それも、どんなベテラン監督にとっても立て直しの難しいシーズン中盤戦になって任せる。

 

 リスクは、極めて高い。

 

 成功すれば株は大いにあがる。だが、日本のサッカー界はベテラン監督の失敗には優しくても、若い監督の挫折には容赦のないところがある。過去に一度、“ミスター・ガンバ”と呼ばれた男の将来を歪めてしまったチームが、同じ失敗を繰り返さなければいいのだが。

 

<この原稿は18年7月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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