(写真:連盟を告発した「日本ボクシングを再興する会」の鶴木代表)

「接戦した場合、やっぱり奈良やな。それを反対につけた場合は、『お前なめてるんか?』ってなってくるわけ」(日本ボクシング連盟会長=当時・山根明)

「それは近大に勝たせたくないわけさ。<中略>。芦屋(大学)じゃないの。そのために会長が審判集めてんだから。お前たち何で集められたか知ってるんか。言っとかないとダメだよ。そうじゃないと正しくやっちゃうといけない」(同常務理事・内海祥子)

 

 8月8日、東京・霞が関にある弁護士会館で開かれた「日本ボクシングを再興させる会」(鶴木良夫代表)の記者会見。そこで公にされた音声テープは、衝撃的なものだった。山根明前会長が、審判団に不正ジャッジを指示した(あるいは忖度させる状況をつくった)ことを裏付ける内容だったからだ。

 

 今回のアマチュアボクシング問題は、「日本ボクシングを再興させる会」が連盟の抱える問題をスポーツ庁、JOC(日本オリンピック委員会)などの関係機関に告発したことから表面化した。告発内容は、助成金の不正流用、試合用グローブ等の独占販売による金銭不正、公式試合における審判の不正、コンプライアンス機能不全、パワーハラスメントなど、12項目にも及ぶ。金銭的な不正、パワーハラスメントなども当然許されるものではないが、この中でもっとも許し難いのは、「公式試合における審判不正」、つまり、リング内の公平性が保たれていなかったことである。

 

「奈良判定」と称された不正試合については、連日テレビ等で報じられていたからここで改めて説明するまでもないだろう。

 これは、絶対にあってはならないことだった。試合の不正は、ボクシングという競技の根幹を揺るがす問題である。

 

 不正を指示した山根明前会長を連盟から除名することは勿論だが、それを受け入れ実行した審判(ジャッジ)も、ライセンスを剥奪されるべきだろう。いかなる理由があろうとも、競技を冒涜してはならないし、保身のために選手を犠牲にすることを許してはならない。悲しい出来事だった。

 

 独立した競技委員会の確立を

 

 いま、アマチュアボクシング界は揺れに揺れている。だが、いずれ山根明前会長は除名され、連盟の理事たちも解任されることになるだろう。そして、組織は健全なものへと生まれ変わらねばならない。その際に、真っ先に取り組むべきは、二度と不正試合が行われないためのシステムの確立である。

 

 そのためには、競技委員会を独立した機関とすることが不可欠だと私は思う。

 競技の管理と連盟の運営の間には一線を引く必要がある。たとえば、プロボクシングでは、組織を構築し大会を運営する「日本プロボクシング協会」と、ライセンス発行やルール面を仕切る「日本ボクシングコミッション」の2つが存在する。競技委員会は、後者にあたると考えるのだ。試合のレフェリーやジャッジを誰にするかに対して、会長や理事が口を挟んでしまっているようでは、競技の公平性が保たれるはずがない。

 

 競技委員会を確立。「選手ファースト」を掲げるなら、そのことに真っ先に取り組んでもらいたいと切に願う。

 

 8月18日には、『アジア競技大会2018』がインドネシア・ジャカルタで開幕。ボクシング競技は、24日から9月1日にかけて行われ、日本からは8選手が出場する。

 

 坪井智也(自衛隊体育学校/男子ライトフライ級)

 田中亮明(中京高校教員/男子フライ級)

 堤駿斗(東洋大学/男子バンタム級)

 森坂嵐(東京農業大学/男子ライト級)

 成松大介(自衛隊体育学校/男子ライトウェルター級)

 荒本一成(日本大学/男子ウェルター級)

 森脇唯人(法政大学/男子ミドル級)

 和田まどか(福井県体育協会/女子フライ級)

 

 日本代表選手たちのジャカルタでの活躍に期待したい。本来、注目されるべきはリング上での闘いなのだから。

 

近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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