第223回 復帰した井岡一翔が目指す道
昨年大晦日に突然の引退発表をして周囲を驚かせた井岡一翔が、1年4カ月ぶりにリングに上がり復活を果たした。
今月8日(現地時間)、米国ロサンゼルス郊外の街イングルウッドにあるザ・フォーラムでマクウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)と対戦、ダウンを奪った末に10ラウンド判定勝ちを収めたのだ。99-90、97-92、97-92。文句無しの完勝だった。
「やっとスタートラインに立てた。これからはスーパーフライ級戦線で自分が中心になれるように頑張っていきたい」
試合後にそう話した井岡が目指すは、日本人初の4階級制覇だ。これまでに、WBA&WBC世界ミニマム級、WBA世界ライトフライ級、WBA世界フライ級のベルトを腰に巻いてきた。そして、次戦でスーパーフライ級王座挑戦を目指している。
今回のアローヨ戦の試合内容は、4階級制覇の可能性を感じさせてくれるものだった。これまでとは、ファイトスタイルが大きく変わっていた。
相手の出方を見て、それに対応するのではない。自ら積極的にパンチを繰り出し、打ち合いに持ち込み、主導権を握っていく。ディフェンス重視の安全運転ではなく、リスクを冒してでも倒しにかかっていた。このスタイルチェンジを可能にしたのは肉体改造である。階級を一つ上げることに伴って、井岡は春頃から本格的にフィジカルトレーニングに取り組んだ。これをサポートしたのは、元総合格闘家の三崎和雄らだったという。
フィジカルをパワーアップさせた井岡は、夏からラスベガスで実戦トレーニングを開始した。指導にあたったのは、7年ぶりにタッグを組んだキューバ人トレーナーのイスマエル・サラス。1カ月半の間、フェザー級のメキシコ人スパーリングパートナーたちと日々拳を交えて仕上げ、復帰戦に挑んだのだ。
大晦日への期待
WBCとWBOでともに、スーパーフライ級3位にランクされている強者アローヨに勝利したことで、井岡は自信をつけた。と同時に、世界タイトル挑戦の権利も得た。ならば、今年の大晦日に4階級制覇を賭けた闘いが行われる可能性は大だ。この模様はTBSで放送されることになるだろう。
リングサイドからは、不仲が噂される父・一法氏も大声で声援を送っていた。確執があったとはいえ、息子の活躍を望まない父親などいない。今後、井岡が日本の他のジムに移籍することを一法氏も容認するであろう。となれば、大晦日に日本のリングで井岡は4階級制覇に挑むことになる。
もし、それが叶わなかったとしても、海外のリングで快挙に挑むことは可能だ。練習拠点を米国に置き、日本時間の大晦日夜に合わせて異国のリングでタイトルマッチを闘うこともできる。個人的には、井岡には海外で闘い続けて欲しい。ホームタウンではないという不利な状況をも克服し4階級制覇を果たしたならば、大きな価値が伴うと思うからだ。
「ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)から逃げている」
フライ級王者時代、井岡は周囲から、そう言われ続けた。
そんな汚名は払拭するべきだろう。ローマン・ゴンサレスを2度破ったシーサケット・ソールンビサイ(タイ)は現在、WBC世界スーパーフライ級王座に君臨している。ならば、井岡とシーサケットの試合を是非とも観たい。その先に、ウェイトを合わせることは決して無理ではない、井上尚弥との一騎打ちが実現すればと夢見てしまう。
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。
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