(写真:井岡vs.アローヨは井岡有利と目されるが、アローヨが勝っても業界関係者はそれほど驚くまい Photo By Tom Hogan - Hoganphotos/360 Promotions)

 4階級制覇を目指す井岡一翔の復帰戦の相手はどんな選手なのか――。

 9月8日、カリフォルニア州イングルウッドのリングで催される“Superfly3”の一環として、井岡はWBO世界スーパーフライ級3位のマクウィリアムズ・アローヨ(プエルトリコ)と対戦する。

 

 32歳のアローヨは17勝(14KO)3敗の戦績を誇る危険なパンチャー。2016年4月に当時はまだ無敗だったローマン・ゴンサレス(ニカラグア)とフルラウンドを戦い、今年2月の“Superfly2”では元WBC同級王者のカルロス・クアドラス(メキシコ)を下した実力派だ。王者クラスの能力を持っていると目され、特にスーパーフライ級では今回が初戦の井岡にはリスキーな相手と言える。

 

 8月13日、プエルトリコでトレーニングキャンプ中のアローヨに電話インタビューを行った。その言葉からは、日本の強豪を迎え撃つ自信と、母国を代表するトップボクサーとしての誇りが伝わってくるかのようだった。

 

 

「井岡は戦い方を知っている」

 

(写真:井岡にとってもアローヨ戦はいきなり正念場の一戦になる Photo By Tom Hogan - Hoganphotos/360 Promotions)

——井岡戦までもう1カ月を切っていますが、コンディションはどうですか?

MA: 良い状態で来ていますよ。このままファイトに向けてペースを上げて、最高のコンディションに仕上げていくつもりです。

 

——クアドラス戦でフライ級からスーパーフライ級に階級を上げ、元王者を相手に見事な内容で勝ちました。試合後には昇級は正しい選択だったと話していましたね。

MA: スーパーフライ級に上げたことは自分にとって大きかったです。おかげで試合前に水分を控えたり、つらい思いをすることがなくなりました。しっかり食べることもできるし、これまでより力強い手応えを感じてファイトに臨むことができます。

 

——井岡選手の印象は?

MA: 井岡は凄い選手ですね。これまで多くを成し遂げてきたボクサーですから、彼のことをリスペクトしています。私はこれまでも多くの強豪と戦ってきましたし、今回もファンに良い試合が見せられるのを楽しみにしています。そしてもちろん全力で勝利を目指すつもりです。

 

——既に映像を見ていると思いますが、手強いと感じる部分は?

MA: 実はまだそれほど多くの映像を見ているわけではないんですよ。ただ、井岡は若い頃からトップで戦ってきた選手なので、動きを見たことはあります。とても強く、戦い方を知っているボクサーという印象です。私とのファイトはアクションに満ちたものになるでしょう。その点に関しては保証します。細かいところはこれからさらに映像でチェックしていくことになります。

 

(写真:番狂わせで元王者クアドラスに競り勝った一戦ではアローヨの右パンチが冴えた Photo By Tom Hogan - Hoganphotos/360 Promotions)

——井岡選手はあなた相手にどんなスタイルで臨んでくると思いますか?

MA: それは私にはわかりません。ファイトしてくるかもしれないし、アウトボクシングするかもしれない。いずれにしても、私とはかみ合った良い試合になるはずです。私もいつも通りにリング上ではベストを尽くすつもりです。

 

 プエルトリコを代表するボクサーに

 

——“Superfly2”でクアドラスに勝ち、その後に再び世界タイトルに挑めると考えたのではないかと想像します。結局はそうならず、井岡とのノンタイトル戦を戦うことになったことに落胆はありませんか?

MA: 今の自分にはもうタイトル挑戦の準備ができていると思っています。クアドラス戦はここで勝てばタイトル挑戦の機会が手に入ると思ったし、事前にはそういう風に伝えられてもいました。今回はそうはなりませんでしたが、ただ、自分としては別に構いません。代わりに井岡という強豪と試合ができるになりました。誰と戦うことになろうと、このスポーツをリスペクトする気持ちは変わりません。最高のボクサーと戦いたいし、ファンを喜ばせる試合がしたい。自分はどんな相手でも問題はありません。

 

——アマチュア時代に世界選手権で優勝、北京五輪出場といった輝かしい実績を残し、プロでも多くの大舞台に立ってきました。今回もHBOで放送されるビッグステージ。ファン、テレビ視聴者に自分の何を見せたいですか?

MA: 私がこの大舞台に立つに値する選手だとアピールしたいです。これまでも様々なファイトを経験し、ビッグステージに慣れているつもりです。実力を誇示し、勝ちにいく。最後にはより勝者に相応しい選手が勝ち残るはずです。 

 

——興行的には井岡が“Aサイド”、あなたは“Bサイド”という位置付けかと思います。クアドラス戦では判定を手にしましたが、今回はKOを狙いにいく必要性を感じますか?

MA: リング上で勝ち方を気にしたことはありません。KOを意識したことはこれまでにないし、Aサイド、Bサイドとかも気にするつもりはありません。周囲がそういった評価を下すことは尊重しますが、私は自分にやれることをやるだけのこと。言えるのは、リング上での私の力を見て驚かないでほしいということだけです。

 

(写真:井岡戦に勝てば、アローヨにもローマン・ゴンサレス<右>を始めとする強豪と対戦のチャンスが再び膨らんでくる Photo By Tom Hogan - Hoganphotos/360 Promotions)

——井岡戦に集中しなければいけないのはわかっていますが、今度の試合に勝ったとして、その後に戦いたい相手はいますか?

MA: “Superfly2”でファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)に勝ったWBC世界フライ級王者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)に挑戦するのが希望で、さっきも話した通り、そうなるはずだと言われてました。その一方で、私は機会があれば誰とでも戦う選手でいることに誇りを持ってきました。今はとにかく井岡のことしか考えていません。井岡に勝ったあと、改めて私にその質問を尋ねてください。

 

——プロボクサーとして、今後、成し遂げたいことは? 

MA: プエルトリコを代表する選手として誇りを持って戦い続けていきたいです。母国の人々は私のファイトを楽しんでくれているのは知っていますから、そのためにもベストを尽くさなければなりません。フェリックス・トリニダード、ミゲール・コットなどプエルトリコからは多くの偉大な王者が生まれてきました。彼らの成功に私も続きたいんです。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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