(写真:7月31日まで17回1/3を連続無失点。夏に強い田中将大はヤンキースを引っ張れるか  Photo By Gemini Keez)

「現在地に満足はしていない。レッドソックスがいる位置に辿り着きたい。彼らは私たちより上位にいて、さらに向上した。そんな彼らを乗り越えたいんだ」

 ブライアン・キャッシュマンGMの言葉通り、今後のヤンキースにとって、ア・リーグ地区首位のレッドソックスに追いつき、追い越すことが目標になる。

 

 昨季にワールドシリーズまであと1勝と迫り、今季の目標は世界一のみ。トレード期限にはJA・ハップ、ランス・リンという実績ある先発投手、2016年まで3年連続で36セーブ以上を挙げたザック・ブリットンという左腕リリーバーを獲得して戦力を整えた。8月1日まで68勝38敗という好成績を残してきたヤンキースが、今後にさらに勝率を上げても不思議はない。

 

 しかし、問題は同じ地区の宿敵レッドソックスがヤンキースをも上回るペースで勝ち続けていることだ。

 

(写真:手首に死球を受けて離脱中の主砲ジャッジの復帰も待たれる Photo By Gemini Keez)

 メジャー最高勝率をマークするボストンの雄は、8月2日からの直接対決を迎えた時点でヤンキースに5.5ゲームの差をつけて首位を快走中。レッドソックスもトレード期限前にネイサン・イオバルディ、イアン・キンズラーらを手に入れてテコ入れした。さらに迫力を増した絶好調のレッドソックスをストップするのは容易ではなさそうである。

 

 たとえ地区優勝を逃したとしても、ヤンキースのワイルドカードでのプレーオフ進出は濃厚ではある。ただ、昨季に続き、ギャンブル性の強い一発勝負のワイルドカード戦はできれば避けたいところに違いない。だとすれば、メジャー最高級の名門球団に今後に何が必要なのか。

 

 先発ピッチャー陣の奮起が鍵

 

 ヤンキースの最大の武器はブルペンだ。アロルディス・チャップマン、デリン・ベタンセス、デビッド・ロバートソンに加え、ブリットンまで加わった救援陣はどのチームにとっても脅威だろう。これらのリリーバーはすべて他のチームならクローザーが務まる選手たち。中継ぎにもチャド・グリーン、ジョナサン・ホールダーといった好投手がおり、おかげでブルペンの平均防御率、奪三振率、被打率はすべてメジャー1位を記録してきた。

 

 全試合が総力戦のプレーオフでは、ヤンキースはこれらのリリーバーを早い段階でつぎ込むに違いない。しかし、さすがにこの時期からブルペンをフル回転させるわけにはいかない。それでもシーズン中にさらに勝率を上げていこうと思えば、やはり先発ローテーションの奮起がどうしても必要になってくる。

 

(写真:長距離砲のスタントンは好調だが、やはり鍵は投手陣 Photo By Gemini Keez)

 ヤンキースの先発陣のチーム防御率はメジャー10位、奪三振率は11位と決して悪いわけではない。エースのルイス・セベリーノをはじめ、田中将大、CC・サバシア、ハップも実績は十分。ただ、7月31日の時点での先発投手陣の平均投球回5.5は、インディアンス(6.3)、アストロズ(6.2)、マリナーズ(5.8)、レッドソックス(5.7)といったア・リーグの他の優勝候補たちのそれをすべて下回っている。ローテ全体が今季はやや迫力不足に感じられるのは、長いイニングを投げていないからだろう。

 

 シーズン後半は特に長いイニングを投げる必要はなくとも、これまで以上にハイクオリティな投球は不可欠である。レッドソックスを追い上げ、同時にリリーフ投手たちをプレーオフに万全の体制で臨ませるためにも、今後は先発投手たちの頑張りが鍵になってくるはずだ。

 

 気になるのはこれまで大黒柱としてチームを引っ張ってきたセベリーノに疲れが見えることだ。7月1日の時点では防御率1.98だったセベリーノだが、以降の4試合では19回1/3で19失点。防御率は2.94まで跳ね上がり、サイ・ヤング賞候補の声も吹き飛んでしまった。

 

 独走する宿敵を止められるか

 

(写真:先発2番手候補として獲得されたグレイは期待を大きく裏切ってきた Photo By Gemini Keez)

 8月2日には今季防御率5.56と苦しんできたソニー・グレイのローテ落ちが発表された。1年前のトレード期限に鳴り物入りで獲得されたグレイの不振は大誤算。こんな時のためにハップ、リンを取っておいたのは確かだが、その2人も相手チームに脅威を感じさせるレベルの投手ではない。

 

 このような状況下で、8月以降は田中の働きがこれまで以上に必須になってきそうだ。前半戦では波の激しさと両足のケガに苦しんだ田中だが、4月23日以降の13先発機会では7勝0敗、防御率3.20と安定。さらに6月8日以降の5戦では防御率1.76と、支配的な姿を取り戻しつつある。

 

 去年のプレーオフでの見事な投球で示した通り、好調時の背番号19はメジャーの強豪打線をも抑えこめることは証明されている。

 

「(田中は)去年もオールスター後のこの時期に好投し始めた。彼がポストシーズンでどれだけ素晴らしかったか、みんな見たはずだ。今シーズンも同じ筋書きを目撃していることを望みたい」

 アーロン・ブーン監督のそんな言葉は多くのヤンキースファンの思いを代弁しているのだろう。今後、ヤンキースが猛チャージをかけるとすれば、セベリーノ、田中の大活躍は不可欠。本来は強力なはずの打線から、アーロン・ジャッジ、ゲイリー・サンチェスが故障離脱している現状ではなおさらだ。

 

 名門球団が迎える夏から秋の戦いに今季は目が離せない。レッドソックスとのライバル関係が蘇ったことで、アメリカ東海岸の熱狂はすでに確実である。ヤンキースの先発投手陣が復調すれば、優勝争いはさらに面白くなる。“悪の帝国”がハイペースで追い上げ、ベースボールファンの胸をさらに熱くするレースが展開されることを願いたい。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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