開幕までは、あと10日。オープン戦も残り数試合となり、各球団とも開幕1軍メンバーを巡る争いが佳境を迎えている。そんな中、独立リーグ史上最高位となるドラフト2位で中日に入団した又吉克樹(アイランドリーグ・香川)が好アピールを続けている。オープン戦では5試合に登板して、いずれも無失点。セットアッパーの浅尾拓也が右ヒジの故障で離脱する中、中継ぎの一角として開幕1軍入りが有力視される。NPB入りというひとつの夢を叶えた又吉の今を追いかけた。
(写真:当初は右の強打者封じとして期待されていたが、1イニングを任される存在になりつつある)
 好投続くも「課題ばかり」――又吉克樹

 3月15日の札幌ドーム、北海道日本ハム戦。又吉は5−0とリードの8回、2番手でマウンドに上がった。迎える打者は近藤健介、佐藤賢治、北篤と左が続く。四国から来た新人は右サイドスローゆえ、左打者からは球の出どころが見やすくなる。それでも、いかに相手を料理できるか。左が続く場面で起用したところに、ベンチが彼をテストしていることがうかがえた。

 その試験を又吉はきっちりとパスした。先頭の近藤にこそレフト前へ運ばれたが、その後は外野フライと内野ゴロ2つ。ランナーを一塁に釘付けにしたまま、スコアボードに0を入れた。これで5試合連続の無失点ピッチングだ。

「左を抑えることが自分の評価を上げる」
 13日の福岡ソフトバンク戦でも左打者3人をわずか5球で三者凡退。又吉自身、キャンプからずっと意識していたポイントで続けて成果を出し、手応えをつかんだのではないか。そんな予想とは裏腹に、本人は「課題ばかりのマウンドでした」と真っ先に反省の言葉を口にした。
「結果的には抑えましたけど、ボールが先行してしまいました。中継ぎのピッチャーがカウントを悪くするのは一番良くない。そういうところをきっちりしないとダメだと思います」

 周囲の「開幕1軍濃厚」「浅尾の代役でセットアッパーも」といった評価にも、うかれたところは微塵も感じさせない。
「1軍で投げていて、周りのピッチャーとはレベルが違うことは一番よく分かっています。いろいろ言ってくださるのはうれしいですが、自分自身に対する評価は厳しいですね」

 キャンプインから順風満帆できたわけではない。しっかりタメをつくろうと左足を止める動作が二段モーションとの指摘を受け、いきなりフォームの修正を余儀なくされた。シート打撃では左打者の内角を攻めきれず、コーチからはピッチャーズプレートの三塁側を活用し、クロスファイアで投げ込むように指摘を受けた。

 試行錯誤の中、迎えた初の実戦登板。東京ヤクルトとの練習試合(2月19日)では、本人も「こんなに制球が定まらないのは初めて」と振り返るほど散々な結果だった。ボールが先行し、ストライクがなかなか取れない。「試合で投げたい気持ちが先走ってしまった」と心のコントロールもままならず、キャッチャーのサインも見間違えた。カウント球を連打された上、2つの四球を与え、押し出しで1点を献上した。

「ストライクが入らないことにはピッチャーは話にならないぞ」
 マウンドを降りた直後、森繁和ヘッドコーチからベンチで隣に座らされて注意を受けた。「理想は3球で2ストライク1ボールのカウントをつくること」。その足でブルペンに向かい、課題をクリアすべく懸命に投げ込んだ。

 ただ、苦しいピッチングの中でも一筋の光は見えていた。無死一、二塁の場面で川端慎吾をインコースのストレートで詰まらせたシーンだ。昨オフには侍ジャパンにも選出された左バッターの懐を突き、ファーストゴロに仕留めた。
「イメージ通りでした。ああいうボールを投げられれば詰まることが分かったのは自信になる」
 テーマに掲げてきた左バッター封じで収穫を得たことで、ひとつステップを踏めた。

 さらに友利結投手コーチの助言も役立った。欠点の修正で頭がいっぱいになりかけていたキャンプ終盤、「まずは、自分が一番投げやすいフォームで投げることを最優先に考えたらどうだ」とアドバイスを受けた。キャンプで取り組んできたことは、今すぐでなくても、いずれできるようになればいい――。その言葉を聞いて又吉は1度、原点に立ち返ることにした。ピッチャーズプレートの使い方も、四国時代同様、左右問わず、一塁側を踏んで投げるスタイルに戻した。

 悩み、考えたキャンプでの1カ月を経ての原点回帰は決して“後退”ではない。トライ&エラーの繰り返しが糧となり、又吉を着実に“前進”させていた。オープン戦初登板のオリックス戦(2月22日)では1回を3者凡退。本拠地ナゴヤドームでの“デビュー登板”となった横浜DeNA戦(3月1日)では、4回2死満塁で主砲トニ・ブランコを迎える厳しい場面ながら、ストレートでライトフライに打ち取り、役割を果たした。
(写真:NPBは「移動が多い」と感じる。食事やトレーニング、ケアにも一層、気をつかうようになった)

 森ヘッドコーチは「体力もあるし、1〜2イニングを任せて60試合くらい投げてくれればベスト。将来的には先発もできると、(右サイドとの対比で)次の試合に左の先発が投げやすくなる。しいてあげるなら西武時代の鹿取(義隆)みたいなタイプになってほしい」と期待を寄せる。

「まだ結果を出していると言ってもオープン戦の1カ月だけ。1年間、1軍でやらないとプロでやれる手応えはつかめない」
 又吉はそう言い切る。「開幕1軍で満足していたら、2、3週間したら(1軍から)消える」とも。あくまでも本人は「シーズン通して実戦で使えるピッチャーになること」が目標だ。目先の結果にとらわれず、謙虚に過去を未来に生かす。この姿勢を1年間、継続できれば、きっと秋にはチームに不可欠な戦力として、成績を残しているはずである。

(石田洋之)