W杯が終わり、Jリーグが再開して、約1カ月が経過しました。注目はヴィッセル神戸に加入したMFアンドレス・イニエスタ選手でしょう。早くも神戸にとって欠かせない存在となっていますね。

 

 イニエスタがスタメン出場したリーグ戦で神戸は3勝1分1敗と好成績を残しています(8月29日現在)。チームは勝ち点36の5位についており、ACL出場圏内の3位も十分狙える位置につけています。

 

 イニエスタ自身も好調ですね。J3戦目で初ゴールを奪うと、2試合連続でゴールを決めました。有能なプレーメーカーとしては周知の事実ですが、自らゴールを狙う姿勢を見せています。日本に来て、イニエスタのプレーが少し変化している感じもありますね。

 

 得点力もさることながら、やはりあのキープ力は圧巻です。中盤でタメができるのは攻守に渡って大きな効果があります。当然、ボールを奪った瞬間の第一優先はゴールを狙うこと。FWがいい動き出しができていないのに、ただ前線に長いボールを蹴っても相手に取られてしまう。こういう時に中盤でタメをつくれるとDFラインも押し上げられるし、FWも動き直す時間ができます。

 

 僕の現役時代、ジーコやレオナルドが同じような役割を担ってくれました。もちろん、最初に見るのはFWの黒崎久志や長谷川祥之らですが、ここが抑えられた時に、中盤のジーコやレオナルドにあずけてDFラインを立て直していました。彼らが時間を作ってくれたおかげでカウンターをくらう回数が減ったので非常に助かりました。そういったプレーをぜひ、日本人選手には吸収して欲しいと思います。

 

 フロント陣の質がチームを左右する

 

 プロサッカー選手を目標にしている子供たちにとってもJリーグにイニエスタが来たことは大きな刺激でしょう。僕が支配人を務める宿泊施設にトレセン合宿などで訪れる子供たちにいろいろと質問すると「海外でプレーしたい」と答える子供が3割から4割もいます(あくまで、僕が子供たちに聞いた中での感覚ですが)。「Jリーガーになりたい」という子供は多かった。幼少期の頃から「海外」を意識するような時代になった今、スーパースターであるイニエスタのプレーを生で観戦できるチャンスがあるわけです。多くのサッカー少年少女に、イニエスタのプレーを目に焼きつけて欲しいなと思います。

 

 しかし、神戸以外のクラブがスポンサーからの支援やダゾーンマネーなどを当てにして“じゃあ、ウチもスターを!”と安易に獲得に走るのは危険でしょう。フロントはチームの現状をきちんと把握し、“日本の文化やチームにフィットするのか”“どこのポジションの選手を獲得すべきなのか”といった点を吟味すべきです。

 

 さらに言及すれば、クラブのカラーをはっきりさせる必要がある。監督が変わるとサッカーが変わるのは日本代表だけではありません。Jリーグにもクラブカラーがはっきりしないクラブはたくさんあります。監督が変わるとサッカースタイルが変わるクラブは多い。戦い方が変わらない芯みたいなものがあれば、補強ももっとスムーズに行くはずです。

 

 選手、監督、スタッフだけではプロチームは成り立ちません。これからは優秀なフロント陣の存在も鍵になるでしょう。ダゾーンマネーなどの多額の賞金を賢く使えるフロント陣がいるチームが勝ち続け、そうでないチームは負け続ける二極化が進むことも考えられます。

 

 パラパラと資料をめくり“あの選手、この選手”とカタログショッピングのような感覚で海外から選手を連れてきても活躍できる保証はありません。他クラブのフロント陣が神戸のイニエスタ獲得に刺激を受けるのは良いことですが、しっかりとした判断のもとに、選手獲得に動いてほしいですね。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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