この人事は将来のフィールド・マネジャー、すなわち監督への布石ではないか。

 

 

 最下位に低迷する東北楽天のゼネラル・マネジャー(GM)に日米通算182勝をあげた石井一久氏が就任した。

 

 楽天は実質的なGMだった星野仙一球団副会長がこの1月に他界したことを受け、故人に代わる人材を探していた。

 

 といっても、故星野氏と石井氏の野球観、人物像は、ほぼ180度異なる。前者が「闘将」なら、後者は「癒し系」だ。

 

 プロのみならずアマにも幅広い人脈を誇り、トレードやFAで辣腕を発揮した剛腕の星野氏に対し、石井氏に“やり手”というイメージはない。

 

 むしろ楽天はメジャーリーガー時代の石井氏の米国人脈に期待しているのではないか。外国人選手のスカウティングに加え、来日した場合は相談相手としても適役である。

 

 またポスティング移籍に際しても、球団、選手双方に適切なアドバイスを行うことができる。その意味では国際化時代のGMと言うこともできよう。

 

 だが、球団の本当の狙いはそこにとどまらないように思える。2、3年GMとしてチームを把握してもらい、その後はグラウンドへ。そんな道筋を描いているのではないか。

 

 というのも、現場の選手の石井氏に対する評判が、すこぶるいいからだ。たとえば埼玉西武時代の後輩・菊池雄星は「プロに入って思うように勝てなかった時、石井さんに“新しい変化球を覚えた方がいいですか?”と聞いたら“雄星は何が評価されてプロに入ったの?真っすぐでしょう。だったら、真っすぐに磨きをかけなさい”とアドバイスしてくれた。それが今に生きています」と語っていた。菊池は今も石井氏を慕っている。

 

 楽天は2013年に星野監督の下で球団創設初のリーグ優勝、日本一を果たして以来、頂点から遠ざかっている。昔なら美談にされた“鉄拳制裁”や“愛のムチ”が許されなくなった昨今、“癒し系監督”は時代の要請なのかもしれない。

 

<この原稿は2018年7月30日号『週刊大衆』を一部再構成したものです>

 


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