2年後のリオデジャネイロ五輪で7人制ラグビーが実施競技に採用され、各国とも強化に力を入れている。日本は男子が先日の香港セブンズで優勝し、ワールドシリーズ2014-2015シーズンのコアチーム(全15チーム)昇格を果たした。これで同シリーズ全試合に出場できる権利を手にし、五輪出場へ世界の強豪と戦ってレベルアップをはかることが可能になった。
 女子もこの秋、同シリーズのコアチーム入りをかけて昇格決定戦に臨む。とりわけ競技人口の多くない女子にとって、選手発掘と育成は喫緊の課題だ。そんな中、女子7人制の強化を目的に立ち上がったクラブチーム「Rugirl-7」が注目を集めている。さまざまな企業の協賛の下、雇用と練習環境を確保し、既に代表選手を多く輩出してきた。チームを率いるニュージーランド人のウィーサン・パーカー監督にジャパンの可能性と課題を二宮清純が訊ねた。
(写真:「ワイワイガヤガヤと楽しんで上達できる練習を考えている」と語る)
二宮: ウィーサンさんはタッチラグビーではオールブラックスの中心選手としてW杯優勝にも貢献しています。15人制、7人制でも実績を残していますが、日本のラグビーと関わり始めたきっかけは?
木村: 20歳の頃、ある日本のラグビーチームからオファーをいただいたんです。同じくセブンズでやっていた選手も日本でプレーをしていて、若手でもプロフェッショナルとして雇用してもらえる。ラグビーに対する熱心さに興味を持ちました。

二宮: 一昨年からRugirl-7の監督に就任しました。男子と同様、日本の選手は体格では海外の選手に劣るのは否めません。しかし、アジリティやスピードの部分では勝負できるのではないかと感じます。日本が世界と戦う上で強化すべきポイントは?
ウィーサン: 日本の選手は確かにスピードとアジリティがあります。私は日本に来て2年間、選手たちには「自分たちの強みを使ってプレーしなさい」と言い続けてきました。たとえば、体が小さい選手が大柄な相手が2人もいるのにバーンと、まともにコンタクトしたところで勝てません。体のサイズを強みにしている選手たちは、一般的にはアジリティやスピードの面に弱点があります。だから、自分たちの強みをいかに使って相手に勝つか。これを頭を使って考えることが重要です。

二宮: いわゆるシンキングラグビーを追求していくべきだと?
ウィーサン: そのとおりです。自分たちの強みを生かすために、しっかりとした戦略を立てることが求められます。日本の現状は、ようやく基礎的な部分ができてきた段階。次に進むためには、チームとしても選手としても、考えてプレーするための知識を高めていかなくてはいけないでしょう。

二宮: 考えながらプレーする力を養うには、どんどん実戦経験を積むことも大切でしょうね。
ウィーサン: ハードでタフな試合をたくさん経験することが一番大事です。今の日本代表は合宿で集まる機会を増やしてレベルアップしようと考えているようですが、そのために代表に呼ばれた選手が国内各地の大会に参加できない事態が起きています。現地に応援には来るけど、合宿中なので試合には出ないんです。

二宮: せっかくの大会なのに、それは少しもったいない気もしますね。
ウィーサン: 正直言って、代表選手よりもRugirl-7の選手たちのほうが試合経験が豊富かもしれません。私たちはさらにタフな試合をしようと昨年はオーストラリアでも試合をしましたし、今年も海外で2大会に出場しようと計画しています。代表の選手たちは国内外問わず、もっと試合に出たほうが、単なる練習をするよりもプラスになると感じます。

二宮: 選手層が薄いだけに日本ラグビー協会も他競技経験者をラグビーに転向させたり、いろいろと取り組んでいます。2年後のリオデジャネイロはもちろん、6年後の自国開催となる東京五輪も見据えたチームづくりも必要でしょうね。
ウィーサン: 若手に対してトレーニングやスキル面で、高いレベルを指導できるシステムを早急につくるべきだと考えますね。10代の若い選手なら、今からラグビーを始めても6年後には20代で十分、代表選手として活躍できます。どの国も五輪競技になったことで強化に力を入れ、本場のニュージーランドやオーストラリアから、いいコーチを呼んできています。海外遠征も行って、どんどん力をつけている状況です。本来なら日本は既にアジアのトップに立ち、ワールドシリーズでもコアチームに入って世界の上位と戦うところに進まなくてはいけないのですが、現実はそうなっていません。アジアでは中国などとトップを争っていますし、コアチームにも入れていません。日本も強くなってきてはいますが、他国の今後を予想すると、今、やらなくてならないことが山積しています。

二宮: ウィーサンさんには引き続き、若くて有望な選手を育ててもらいたいものです。
ウィーサン: 日本にやって来て、女子のラグビーを何とかサポートしたいという気持ちを強く持っています。お金目当てならニュージーランドにいたほうがいいのですが、僕にはお金よりも大切なミッションがある。それは日本で女子ラグビーや、タッチラグビーを盛んにすること。だから、今のところ代表のヘッドコーチを目指すつもりはありません。それよりも底辺の部分、普及の部分でしっかり基礎を教え、選手を育てて日本のラグビーを支えたい。この思いで、これからも日本で指導するつもりです。

<現在発売中の『第三文明』2014年5月号でも、ウィーサン監督のインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>