前回のHAKUJU白球徒然で、秋田出身の小野仁さん(白寿生化学研究所)が「金足農のおかげで熱い夏だった」と、"かなのー"フィーバーに沸いた今夏の甲子園について熱くつづっていました。「まだまだ私の甲子園熱は収まっていません!」と締めくくっていましたが、多くの野球ファンが同じ気持ちでしょう。1カ月以上経った今も甲子園の熱気未だ冷めやらずといったところです。


 無理もありません。とにかく今夏は話題豊富でした。公立高では準優勝した金足農の快進撃の他に県大会初戦敗退が続いていた白山高(三重)が初出場を果たしました。また大阪桐蔭の史上初となる2度目の春夏連覇、タイブレークの実施とそこで飛び出した逆転サヨナラ満塁ホームランなど、100回記念大会に相応しい出場校、試合ばかりでした。

 

 それと同時にいろいろと議論を呼んだ大会でもありました。特に多くの人が関心を寄せたのがピッチャーの「球数」です。

 

 2回戦の済美(愛媛)対星稜(石川)で済美のエース・山口直哉投手は184球を投げました。これに対しては批判の声が上がり、橋下徹・前大阪市長は自身のTwitterで、<投球数制限は直ちに導入すべき。こんな不合理・非科学的なことをやり続ける国は、前近代的野蛮国家だ>(2018年8月13日ツイート)とつぶやきました。

 

 さらに今夏のヒーロー金足農のエース・吉田輝星投手は甲子園6試合で881球、秋田県大会の636球と合わせてひと夏で1517球を投げました。済美・山口投手と同じく、これにも批判の声が上がり、同時に「球数制限」「投球回数制限」の導入を求める声が高まりました。

 

 日本高校野球連盟(高野連)はこれまでも、高校球児の健康管理についていくつもの対策を実施しています。今春のセンバツから導入されたタイブレーク(延長12回終了で同点の場合、延長13回は無死一、二塁から開始する)もその一環です。タイブレーク導入時、高野連の関係者は「選手の健康管理は永遠の課題。タイブレーク導入後も休養日の増設、球数や投球回数制限など将来的に考えていかなければならない」と述べています。

 

 全校平等なのは7イニング制

 球数制限、投球回数制限などの導入が果たしてベストなのか。何人もの球界OBの話を聞きましたが、「でも、絶対的エースがひとりしかいなかったら、その投手に頼るしかない。それも現実」との意見が大勢を占めました。さらに高校野球の改正には、選手の健康管理と同時に、選手確保に限界のある公立と、好投手を多く育成できる強豪私立との格差拡大も考慮しなければなりません。

 

「一番、フェアなのは高校野球を7イニング制にすることです」

 

 こう語ったのは元千葉ロッテの里崎智也さんです。先日、取材でお目にかかった際、自然と「球数制限」の話になりました。里崎流改革案は以下のようなものでした。

 

「ひとりのエースが投げ続けるのは、今のルール下なら仕方のない面があります。だから球数制限をするくらいなら、7回で試合終了の7イニング制の方が公平です。サッカーも高校サッカーは40分ハーフ、バレーも3セットマッチとプロと高校生では差がありますよね。それに球数制限をすると、カット打法で粘るなどどこか野球が変わってきて、歪みが出る。それなら7イニング制導入の方が健全でベターでしょう」

 

 さらにこう続けました。
「7イニングならこれまでの4試合開催時間で2イニング分が浮くので、もう1試合追加して1日に5試合できる。同じ開催期間でも休みを多くとることができるようになるから、選手の疲労回復にもつながる。一番理にかなっているんじゃないでしょうか。今回は吉田投手が話題になったから、いろんな人が"球数制限"だ、"投げ過ぎだ"と言い出した。もし球数制限を導入するとしても、一番目につく甲子園だけ制限しても意味がない。やるなら高校野球全体で、練習試合なども含めて考えないといけないでしょうね。安易に球数制限を導入すると学校間の格差はもっと広がってしまいますから」

 

 次の100回に向けて高校野球がより健全に発展するように、関係者には常識にとらわれない柔軟な発想と議論をお願いしたいものです。

 

(文/SC編集部・西崎)


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