(写真:女子サッカーは地元国体で準優勝。2大会連続決勝進出と好成績を残している)

 73回目となる国民体育大会、「福井しあわせ元気国体」は29日に開幕する。愛媛県勢は伊予銀行のメンバーで臨む成年男女テニス、成年女子ソフトボールなど連覇がかかる競技もあるが、女子サッカー、成年女子バスケットボール、成年男子相撲も上位進出を狙っている。

 

 

 王座奪還目指す女子サッカー

 

 女子サッカーは今年もなでしこリーグ2部の愛媛FCレディースの単独チームで大会に挑む。昨年の地元開催となった「愛顔(えがお)つなぐえひめ国体」では2大会連続の決勝進出を果たしたものの、千葉に敗れて大会連覇を逃した。

 

(写真:フィジカルの強さは国際大会でも手応えを感じたという大矢)

 中でも悔しい思いをしているのが、愛媛FCレディースの大矢歩だろう。決勝では接触プレーにより左ヒジを負傷。前半途中交代を余儀なくされた。「たくさんの方に応援に来ていただいて、チーム全員が“優勝したい”という強い気持ちで戦いました。すごく悔しかったです」。彼女はそのまま病院に直行し、チームが戦う姿を見守ることすらできなかった。

 

 愛媛は8月11、12日の2日間行われた四国ブロック大会で徳島県に10-0、香川県に6-0と危なげなく本大会進出を決めた。初戦は10月1日、大阪府代表と対戦する。

「目指すは優勝。愛媛のために結果を残して、少しでも貢献したいです」

 

 伊予トータルサービスに勤めて3年目。業務も少しずつ慣れてきた。会社では若手だが、愛媛FCレディースでは主力としてチームを支える。ポジションはサイドハーフ、あるいはウイングで起用されることが濃厚だ。愛媛のサイドアタッカーは得点にこだわるという。大矢は「それがチームに貢献できる方法。強く意識してやっていきたい」と意気込む。

 

(写真:チームではCKを任されることもある。今シーズンは直接ゴールを決めた)

 個人では昨年、飛躍のシーズンと言えるだろう。なでしこジャパン(女子サッカー日本代表)に初招集されるなど代表戦8試合に出場した。

「普段は経験できない海外の選手と戦うことや、日本のトッププレーヤーと一緒に練習することで、通用する部分と自分自身に足りないものを実感できました」

 ひとつひとつの経験が肥やしとなった。慣れないサイドバックへのコンバートも、DF目線を知ることでポジショニングに生きている。

 

 来年のW杯、再来年の東京オリンピック出場を目標に掲げている。「そのために今はチームで活躍したい」。フォア・ザ・チームの精神は変わらない。「応援してくださる方たちの笑顔が見られるように」。その想いを胸に、大矢はピッチを駆け抜ける。

 

 雪辱期す成年女子バスケ

 

 悔しい思いを晴らしたい。その点では成年女子バスケットボールも同じだ。一昨年の「希望の郷いわて国体」は3位と好成績を収めながら、地元開催の昨年は初戦敗退に終わった。

 

(写真:愛媛県代表の予備登録を含めた13人中11人が実業団チーム・今治オレンジブロッサムに所属)

 雪辱に燃える今回のメンバーも愛媛県の実業団チーム・今治オレンジブロッサムが中心だ。愛媛県の聖カタリナ学園高出身の大学生2人(白鷗大学3年・軸丸ひかる、早稲田大学3年・細貝野乃花)を加えた陣容で臨む。粘り強い守りから速攻などで得点を奪うスタイルである。

 

 松山市出身の濱田真子は大阪体育大学を卒業し、今治オレンジブロッサムに入団したルーキーだ。今年から伊予銀行に勤める社会人1年目でもある。愛媛県代表として4回目の国体に出場する。

 

 濱田の持ち味はディフェンス。攻撃でも一瞬のスピードは目を見張るものがある。高校時代は得意としていたアウトサイドのシュートも復調してきているという。現在、これまでのスモールフォワードからガードに挑戦中だ。

「最初はすごく悩みました。フォワード時代はパスをもらったらチャンスなので、ゴールを狙うことに集中できていました。でもガードはフォーメーションひとつとっても周りを見て、組み立てることも考えないといけません。今はチームを生かすプレーを学んでいます」

 

(写真:身長163cm。上背はないが、スピードとディフェンスが持ち味の濱田)

 小学3年からスタートしたバスケ人生。実は濱田、大学卒業後に引退するつもりだった。今治オレンジブロッサムから誘いは受けていたものの、断りを入れて就職活動をしていた。伊予銀行に就職が決まり、引退間近になって気持ちが揺らいだ。

「大学4年間は浮き沈みが多かった。でも振り返った時に“なんでやらんかったや”“もっとできるやろ”と思ってしまったんです」

 地元にバスケチームがある。それは恵まれている環境とも言える。濱田は“続けられる間はバスケを頑張ろう”と決意したのだ。

 

 頑張るのは自分のためだけではない。彼女は“誰かのために頑張れる”という。「活躍すれば応援してくれている人たちは喜ぶ。その顔が見たいから続けているのかもしれません」。10月1日からスタートする成年女子バスケットボール。愛媛の初戦は東京都代表が相手で、そこに勝ったとしても2回戦は山形県代表。いずれも強豪である。福井国体は厳しい組み合わせとなったが、一戦一戦が勝負だ。

 

「愛媛の人たちは温かい。会場に入ると応援の声が力になっています。チームの雰囲気が悪くてもプラスの声掛けをしてくださるんです。たくさん応援していただいているので、プレーや勝つことで恩返しをしたいと思っています」

 感謝の想いはコートで表現する。リングにゴールという種を蒔き、橙色の蕾たちが笑顔の花を咲かせる。

 

「明るいニュースを届ける」成年男子相撲

 

 成年男子の相撲は愛媛国体で団体3位に入り、2大会連続3位入賞を果たしている。

 

(写真:小学1年から始めた相撲。数々の団体戦で好結果を挙げている吉本)

 そのいずれも愛媛県代表として出場し、福井国体で3大会連続の土俵に上がるのが吉本雄斗である。個人では2大会連続ベスト16入りを果たしている。伊予銀行に勤めて3年目の25歳。高校は埼玉栄、大学は中央大学と大相撲力士も輩出している名門校の出身だ。

「今年は地元開催ではありませんが、同じような強い気持ちで臨んでいます。もちろん目指すは優勝です」

 

 吉本と共に愛媛県代表の連続入賞に貢献している西予市役所の由留部圭祐は今年もメンバー入り。そこに近畿大学2年の山口怜央が加わった。山口は愛媛の津島高時代に全国高校総合体育大会個人で優勝。県勢としては61年ぶりの快挙を成し遂げた逸材だ。今年7月の全日本大学選抜金沢大会を制するなど、期待のホープである。

 

 地区予選がない相撲は全国47都道府県の選手が出場する。成年男子は1チーム3人で構成される。団体戦は予選3試合の勝数得点で決定した上位16チームによるトーナメント方式で優勝を争う。また個人戦は、団体予選の全勝者に決勝トーナメントへの出場権を手にする。

 

 9月30日から始まる福井国体で愛媛は千葉、鹿児島、岡山の3県と予選を戦う。「国体は強いチームでも負けたりする。予選から気合いを入れていかないといけません」(吉本)。次のステージに進むためには星勘定はしていられない。一戦必勝で臨む。吉本は先鋒、中堅、大将とどの位置で起用されるかはわからないが、まずは3連勝を目指して土俵に上がる。

 

 高知県土佐清水出身の吉本。大学時代から大会や合宿などで愛媛県に縁があった。昨年の愛媛国体も見据えて、伊予銀行に入った。約2年住んだ西予市から今年、松山市へ引っ越した。今ではもう「愛媛をもうひとつの地元だと思っています」と口にするほどだ。

 

(写真:昨年の地元国体で愛媛は多くの声援を背に戦った)

 身長175cm、体重105kgと、相撲界では小兵である。突き相撲を得意とする吉本。目標とする大相撲の元関脇・豪風は大学の先輩にあたる。身長は吉本よりも3cm低い。それでも厳しい大相撲の世界で戦い続けている。吉本は大学時代に胸を借りたこともあり、「教わったことはたくさんあります」という。中でも「身体が小さいやつは気持ちで負けてはダメだ」と戦う姿勢を教わった。

 

 6月下旬から西日本を襲った豪雨。国体の会場となった西予市野村町の被害を受けた。吉本も今年の2月までは住んでいた。

「野村町は相撲のまち。相撲の明るいニュースがあれば、喜んでいただけるのではないかと思いながら今年は頑張っています。昨年も気付いたら“愛媛のために”という想いは強かったですね」

 

 愛媛のために――。吉本の取り組みは相撲を取ることだけにとどまらない。伊予銀行の後輩を誘い、相撲チームを立ち上げた。メンバーはまだ2人しかいない。西日本実業団にも出場した。だが団体戦は3人制のため、1試合を不戦勝というかたちで大会に参加している状況だ。愛媛を相撲で元気にする。それが“もうひとつへの地元”への恩返しだ。

 

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