(写真:オールラウンドタイプの柔道で相手に的を絞らせない立川<右>)

 9月にアゼルバイジャン・バクーで行われた世界柔道選手権大会で日本は個人戦で男女計7階級を制覇、男女混合団体戦も連覇を達成した。その活躍ぶりに「次は自分があの舞台に」と刺激を受けたのが日本代表入りを狙う大学生の柔道家たちだ。ホープたちが己の存在をアピールする全日本学生柔道体重別選手権大会は毎年、熱い戦いが繰り広げられる。今回は同大会に出場する注目の2人を紹介しよう。

 

 ルーツは父親とのトレーニング

 

 最初は女子52キロ級・福岡大学の立川莉奈だ。世界柔道選手権の男女混合団体戦で4戦4勝と連覇に貢献した立川新の姉である。

 

 立川は5歳で愛媛県の川之江柔道会の門を叩いた。小学5年時に全国学年別柔道大会40キロ級で優勝し、注目を集める。中学は地元愛媛県を離れ、福岡県の敬愛中学に進学した。2年時には世界カデ柔道選手権大会の代表選手に選ばれ3位の好成績を残している。

 

 2015年に敬愛高校を卒業し、シドニーオリンピック女子57キロ級銅メダリストの日下部基栄が監督を務める福岡大学に入学した。日下部監督は立川について「掴みどころがないのが彼女のセールスポイント」と語り、こう続けた。

 

「研究されてもさほど支障がない。立川には勝ちパターンがないんです。どんなパターンでも勝てる。体力もあるから延長にもつれ込んでも大丈夫。寝技もできる、右で組んでも左で組んでも戦える。非常にオールマイティーな選手です。

 

 私は現役時代、力任せの不器用なタイプの選手でした。入学当初の立川は私のスタイルに似ているなと感じましたが、どんどん成長して“これは私とは似ていないな”と思うようになりました」

 

 

(写真:幼少期のボルダリングや坂道ダッシュが今の立川<右>のルーツ。左は福岡大学の日下部監督)

 もう1つ、日下部監督は立川の長所として「身体能力が高い」ことをあげた。幼き日、父親と弟・新と一緒に行った特訓が生きている。立川の父親も柔道の経験者であり、川之江柔道会で指導を行っていた。その父親から課せられたのが山道ダッシュとボルダリングだった。

 

 立川は山道ダッシュについて懐かしそうにこう語った。

「父親が軽トラックを運転して、私と新を乗せて山に行くんです。途中で降ろしてもらい、軽トラックを追いかけるんです。父親に“おーい、早くしないと熊がでるぞぉ”と言われながら山道を走りました」

 

 柔道は体幹、背筋、そして握力が重要だと言われている。ボルダリングは柔道で使う筋肉を鍛えるのに最適なスポーツだ。父親の解説――。

「体幹、背筋、握力を同時に鍛えられる。自分が柔道を経験して、“これはプラスになる”と思い、子供たちにはボルダリングを提案しました」

 

 私生活では両手首と両足首に500グラムのパワーアンクルを付けていたという。身体能力の高さの秘訣は父親が考案したトレーニングメニューにあったのだ。

 

 立川が主戦場とする女子52キロ級には世界柔道選手権でオール一本勝ちをした阿部詩(夙川学院高)ら強敵がいる。「まずは国内で頑張らないと東京オリンピックは見えてこない。国内のタイトルを全て獲ることを目標にしている」と立川は意気込む。得意技は内股だが「確実に一本を獲れるように磨きをかけたい」と語る。

 

 立川が全日本学生柔道体重別のタイトルを獲得すれば、女子52キロ級の日本代表争いは一層ヒートアップするに違いない。

 

 100キロ超級では珍しいタイプ

 

(写真:「世界の舞台に立つために、国内で結果を残す」と太田は意気込む)

 2人目は男子100キロ超級の東海大学・太田彪雅だ。6月に行われた全日本学生柔道優勝大会(団体戦)の決勝では筑波大学と対戦。太田は中堅戦に出場し、一本勝ちを収めた。1対1で迎えた代表戦ではジャカルタ・アジア競技大会81キロ級日本代表の佐々木健志を相手にまたしても払い腰で一本勝ちを収めた。東海大学を3年連続23度目の優勝に導いたエースなのだ。

 

 太田の武器は俊敏さだ。重量級の選手では珍しいタイプと言える。本人も「100キロ超級では技に入るスピードは速い方です」と語る。大柄で巨漢揃いの重量級の中では身長178センチと小柄だが、そのハンデをスピードで見事にカバーしている。

 

 さらに太田は大内刈り、小外刈りを織り交ぜながら内股で切り返すなど巧みなステップワークで観る者を魅了する。技術とクレバーさを併せ持つ柔道家だ。彼を指導する東海大学の上水研一郎監督は、こう評す。

 

「技の掛けどころを知っている選手です。重量級ではただ闇雲に技を掛ける選手が少なくない。彼は相手の体勢の崩れ具合をしっかりと見ながらタイミングを見計らって投げることができる」

 

 太田は考えて技を掛けるタイプである。それが故に「試合中に考えすぎてしまう。もっとガムシャラになれれば」と課題をあげた。だが、上水監督は「ガムシャラなスタイルは彼には合わない」と口にし、こう続けた。

 

「技の組み立てを考える選手はそういうことで悩む傾向があります。ですが、ガムシャラになれないことを悩むよりも、“なぜ考えすぎてしまったのか”“なぜ技を掛けるタイミングを逸してしまったのか”をもっと突き詰めて考えた方がいいのではないかと私は思います」

 

(写真:的確なタイミングで技を仕掛ける太田<白の道着>)

 太田は7歳で柔道を始めてから小、中、高いずれも全国大会で優勝を経験している。高校1年時には世界カデに出場し、頂点に上り詰めた。エリート街道を駆け抜けて東海大学に入学。1年時の講道館杯では準優勝と好成績を残した。「この準優勝で少し調子に乗ってしまったのかも」と太田。以降は不振に陥った。

 

 その間、上水監督は「屈辱は最大のエネルギーだ」と愛弟子を叱咤し続けた。復調のきっかけは体落を会得したことだろう。太田も「体落は大学に入ってから上水監督に教えてもらっています。それが最近、身についてきたんです」と目を輝かせて語る。

 

 先日の世界選手権での日本代表選手の活躍に刺激も受けた。太田は「僕も世界に挑戦したい。その挑戦権を獲得するためには、まずは国内の大会で結果を出す」と力強く言い切った。

 

 東京五輪まであと2年。世界に羽ばたくためにも、全日本学生柔道体重別選手権大会のタイトルをステップボードにしたいところだ。

 

 BS11では立川莉奈選手、太田彪雅選手が出場した「全日本学生柔道体重別選手権大会」の模様を10月7日(日)19時から放送します。今後の活躍が期待されるホープたちの戦いにご注目を!


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