最後の最後まで集中を切らさない東口順昭がいた。

 

 残留争いの真っただ中にあるガンバ大阪は9月29日、ホームに首位のサンフレッチェ広島を迎えた。日本代表の守護神は、鬼神のごとくゴール前に立ちはだかった。前半早々、青山敏弘のミドルシュートを皮切りに弾く、弾く、弾く。ゴールを死守して味方の反撃を待ち、終盤のセットプレーからファン・ウイジョがゴールを奪い、クリーンシートで大きな勝ち点3を手にした。9月1日にはホームで川崎フロンターレを無失点に抑えるなど、息を吹き返すチームをけん引する活躍を見せている。

 

 森保ジャパン初陣となったコスタリカ戦(11日)でも先発し、ゼロで切り抜けた。正GKの川島永嗣が招集されなかった代表で、しっかりと結果を残した。

 

 勝ち試合に持っていける存在感。

 それが東口の求める、理想のGK像だ。

 

 彼には苦々しい記憶として残っている試合がある。2017年4月25日、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)グループリーグ第5戦、ホームのアデレード戦。負ければグループリーグ敗退が決まる一戦は点の奪い合いになる。3-2とリードして後半アディショナルタイムに入ったが、フリーキックをヘディングで合わされて痛恨のドローに終わった。

 

 東口はボールに向かって飛び出さなかった判断が正しかったかどうかを自問自答していた。

 

 あのとき彼はこう語っていた。

「あれを前に出て止める(判断)というのは、難しいとは思うんです。いいボールでしたし、人がいっぱいいて出にくい状況でもありました。ただ、出るのか出ないのか、迷ったのは事実。悔いが残っているのであれば、出れば良かったんじゃないかとは思いましたね」

 

 それを「仕方ない」で済ませないのが彼らしい。難しい場面であろうが、食い止められていたら勝利に持っていくことができたという思い。

「GKは最後のところで止めるか、入るかで全然(評価も)違ってくる。FWと似ているところはありますよね。感覚的には、もう1個先を見ることができるようになりたい。アデレード戦のあの最後の場面でも、食い止められるようなGKに」

 自分に言い聞かせるような口調だった。

 

 今年のガンバは苦境に立たされている。

 成績不振でレヴィー・クルピ監督が解任され、宮本恒靖監督に交代してもリードを追いつかれてしまう展開などもどかしい試合が続いた。東口自身、チームを勝利に導けない自分に腹立たしさもあったに違いない。

 

 それでも歯をくいしばって、先を見ようとした。同じ過ちを繰り返さないように、取り組んできた。ハイボールに強く、セービング、足元の技術といずれもGKに必要な要素を兼ねそろえ、ムラのない安定したパフォーマンスは彼の魅力。日本代表にも継続して招集されている。しかし勝利に結びつかなければ、いくらいいプレーしたところで納得できない。ガンバの苦境と向き合いつつ、勝利をもぎ取る存在感というものをずっと考えてきたことは推測できる。

 

 あの広島戦、拮抗した試合展開のなかで彼は味方を奮い立たせた。負ければ失速し、再び降格圏に沈む可能性もあった。その重要な一戦で、彼がチームを勝利に導いた意味は非常に大きい。

 

 理想のGK像に一歩ずつ、近づいていることは間違いない。


◎バックナンバーはこちらから