日本に野球独立リーグが登場して今季は10年目の節目にあたる。その間、独立リーグは若手育成の場のみならず、NPB、MLBを経験した選手の再チャレンジの舞台としても日本球界に定着してきた。四国アイランドリーグplusに続き、2007年に誕生したBCリーグでは今季、木田優夫(石川、元北海道日本ハム)、アレックス・ラミレス(群馬、元横浜DeNA)、高須洋介(新潟、元東北楽天)、小林宏之(信濃、元阪神)らがプレーする。なかでも木田は投手とGMを兼任。昨季は高い知名度を生かしてスポンサー営業も行っていたが、今季はチーム強化と選手育成の重責も担う。日米合わせて8球団を渡り歩いてきたベテランは、日本の独立リーグの現状をどう見ているのか。二宮清純がインタビューした。
(写真:「絵を描くのは下手」と謙遜するが、特徴をとらえた似顔絵はかなりの腕前)
二宮: 世界中を探してもピッチャー兼GMという野球人はなかなかいないはずです。実際にGMとして、どんな仕事をするのでしょうか。
木田: ゲーム中の選手起用に関しては監督に任せますが、それ以外の部分で練習スケジュールや、選手の獲得や解雇、育成方針などを話し合いながら決めていきます。引き続き、営業もスタッフと一緒にやっていくつもりなので、実際には3つの役割をこなすことになりますね(笑)。

二宮: 昨年は営業兼任で、試合や練習の合間を縫ってスポンサーや後援会会員集めに奔走されたとか。
木田: ゲーム中にイベントをしたかったので、それを実現するにあたって、いくつかスポンサーについていただきました。新しいマスコットをつくって、それにも新しいスポンサーに入ってもらったんです。

二宮: マスコットにスポンサーとはおもしろいですね。
木田: マスコットにお店のバナーを入れるかたちで、製作費を出していただきました。名前は「タン坊」。石川にはもともと「スタ坊」という星型のマスコットがいたので“坊”つながりで名前がつきました。

二宮: 球団の端保(たんぼ)聡社長の名前にもかけているのでしょうか(笑)。
木田: そうですね。社長に似たかぶり物のマスコットになっています。これは僕が社長と雑談をしていた時に出てきたアイデア。「クレヨンしんちゃん」のアクション仮面が実写化される際にキャラクター製作をした方が石川にいたので、僕がデザインしたものを元に、お願いして作っていただきました。

二宮: 「タン坊」の画像を見ると、目が光る設定になっているんですね(笑)。
木田: 完成品を見に行ったら、「目が光るようにしておきました」って言われたんです(笑)。まゆげの雰囲気は「巨人の星」の星飛雄馬をイメージしてデザインしたので、目が燃えるように見えたほうがいいんじゃないかと。県内のイベントにもちょくちょく出ていて喜ばれているみたいです。

二宮: 独立リーグは日本ではまだまだベンチャービジネスです。経営や環境面で厳しい面もある一方で、アイデア次第でいろんなチャレンジもできる。NPBやMLBとも違うフィールドに1年間携わってみて感じたことは?
木田: 常々言っていますが、日本の球界にとって独立リーグの存在は重要だと感じています。社会人野球の企業チームが減ってきている中、野球を続けたい人たちの居場所を確保しなくてはいけない。そのためには、やはり独立リーグの経営をうまく軌道に乗せないといけないでしょう。現状は頑張っている選手を応援しようという理解のある企業や個人がお金を出してくれて、何とか野球ができている状態です。これをもっと多くの人たちに出資する価値があると感じてもらう必要があります。今まで以上に、取り組みを広げて球団が地域に役立っていることを示せるかどうかが今後の課題になるでしょう。

二宮: おっしゃる通りですね。プロスポーツにおいて、今や地域貢献は不可欠の要素。地域全体で支えてもらえるチームづくりを、より推し進めなくてはいけません。その上で、多くの人に球場に来てもらうには、野球の質も問われます。選手としてプレーしてみて、選手たちのレベルはどうでしょう?
木田: 能力的にNPBより落ちるのは否定できません。ただ、そういった能力以上に、選手の意識がまだまだ低いように思います。

二宮: 具体的に、それを感じるのは、どういう時?
木田: 昨年、石川は独立リーグ日本一になりました。もちろん、チームが勝つに越したことはありませんが、優勝したからと言って選手の待遇が良くなるわけでも、ドラフト指名を受けるわけでもありません。その点を個々の選手が、もっと厳しく考えないといけないのではないでしょうか。NPBを目指すなら、勝った負けた、打った打たないといった目先の結果で一喜一憂するのではなく、意識を高く持って日々の練習や試合に臨むことが求められます。石川の選手には、これをいつも注意しているのですが、他のチームも含め、少しはき違えている選手が多い気がします。

二宮: 木田さん自身の成績に目を向けると、昨季は52試合に登板。これはリーグ戦の3分の2以上でマウンドに上がったかたちになります。しかも成績は3勝1敗15セーブ、防御率1.76と格の違いをみせつけました。
木田: 開幕前に社長がイベントで、「石川県内のホームゲームでは全部投げさせる」と発言していましたから(笑)。雨でコールドゲームになった試合もあって、結果的に全てのホームゲームでは投げられませんでしたが、それ以外は本当に全部投げました。

二宮: それだけ投げるのは体力的にも大変だったはずです。「まだやれる」という手応えをつかめたのでは?
木田: まぁ、試合は週末がメインですから、それほど大変でもなかったですよ。ただ、52試合という数字は、この年齢でも体力が衰えていないことをアピールできたとは思います。僕にとって一番大事なのはNPB復帰で、いかに11月のトライアウトの時期にいいボールが投げられるか。昨年、トライアウトは受けましたが、ストレートに関してはまだまだとみていました。どこからも声がかからなかったのも仕方ないかなと感じましたね。

二宮: それでもストレートは最速で144キロが出たと聞いています。150キロ超の速球をウリにしていた木田さんとしては、これでは物足りない?
木田: 確かに球速は戻ってきましたが、僕の中では最低でも145キロ以上が必要という気持ちです。40代で150キロ近く出せるとなれば、話題性も含めて獲得を検討する球団が出てくるのではないでしょうか。今年1年、やってみて、それができるのか、できないのかを判断することになると思います。

二宮: 巨人にドラフト1位指名を受けてプロ入りし、今季が28年目のシーズンです。木田さんを見ていると心から野球が好きだという思いが伝わってきます。
木田: きっと、そうなんでしょうね。グラウンドで練習前に、芝生の上で体操やりながら寝転がっているのも気持ちいいですし、試合後にチームメイトと食事しながら、くだらない話をするのも楽しい。あと、本当にうれしいのは、ピンチの場面で、「こいつ、すごいな」と思うバッターと対戦して、打ち取ってベンチに帰ってきた時。あの快感は、何物にも代えられません。

※開幕前に『週刊現代』で掲載された木田投手のインタビュー記事が「Sportsプレミア」にも転載されています。
>>二宮清純レポート「巨人のドラ1が出会った“もう一つのプロ野球”」はこちら


【BCリーグ】
◇前期
 4番ジョニー、サヨナラ2点タイムリー(福井1勝0敗、福井フェニックススタジアム、438人)
富山サンダーバーズ      7 = 100310200
福井ミラクルエレファンツ   8 = 000013112×
勝利投手 藤岡(1勝0敗1S)
敗戦投手 大竹(0勝1敗)