(写真:BS11本社で行われたeスポーツ大会。優勝をかけて熱戦が繰り広げられた)

 最近、「eスポーツ」という言葉を目にする機会、耳にする機会が増えてきた。IOC(国際オリンピック委員会)は2024年パリ五輪での正式種目採用も検討していると言われる。オリンピックに先駆け、今年8月のアジア競技大会(インドネシア・ジャカルタ)では公開競技として実施された。日本国内では第74回国民体育大会「いきいき茨城ゆめ国体」で文化プログラムの特別競技としての実施が決まり、認知度も高まってきている。ついには今年度の「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補に「eスポーツ」がノミネートされた。

 

 一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)によれば、「eスポーツ」なる言葉が世に出たのは2000年代からだという。eスポーツとは、「electronic sports(エレクトロニック・スポーツ)」の略。パーソナルコンピューター(PC)ゲーム、家庭用ゲーム、モバイルゲームの電子機器を用いての対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。

 

(写真:大会アンバサダーを務めた杉村<左>は22歳、相原は18歳)

 プロプレイヤーともなれば、個人にスポンサーが付く。eスポーツが盛んな国では年収数億円を稼ぐプレイヤーもいるという。国内に目を向ければ、JeSUが発行するジャパン・eスポーツ・プロライセンスを持つプレイヤーは124人(11月5日時点)。その中の2人、杉村直紀と相原翼が日本代表として出場したのが先のアジア競技大会。KONAMIの人気サッカーゲーム『ウイニングイレブン2018』で覇を競い、杉村と相原の日本代表コンビが金メダルを手にした。

 

 今年3月にはJリーグがeスポーツの大会を開催。日本野球組織(NPB)も参入するなど、国内メジャースポーツ競技団体とのコラボが目立つ。このようにeスポーツは着々と広がりを見せている。プレイヤーを育てる専門学校があれば、eスポーツ部のある高校も存在する。12月には「第1回全国高校eスポーツ選手権」が開催される。総務省が公開した「eスポーツ産業に関する調査研究報告書」によると国内の市場規模は5億円未満(2017年)。市場も競技人口も今後さらに拡大する見通しだ。

 

 当然のことながらプレイヤーたちも競技の盛り上がりを実感している。アジア競技大会金メダリストの杉村はこう語る。

「インターネットの記事、新聞やテレビで取り上げられることも多くなりました。1日1回は『eスポーツ』という言葉を目にするくらいです。今、すごく勢いを感じます。周りの反応も以前は『ただのゲーム』でしかなかったのが、eスポーツが浸透してきたおかげで『アスリート』として扱ってくれる人も増えました」

 

 学生限定の魅力

 

(写真:大迫力のグラフィック。人気サッカーゲーム・ウイイレの最新作)

 10月27日に『BS11cup 全日本eスポーツ学生選手権大会』が東京・御茶ノ水にあるBS11本社で開催された。記念すべき第1回大会はウイニングイレブン(ウイイレ)の最新作『ウイニングイレブン2019』で争われた。全国5都市(札幌、東京、名古屋、大阪、福岡)での予選を勝ち上がった5人と、オンライン予選上位3人の計8人による決勝トーナメントが行われた。勝てば“ウイイレ学生日本一”の称号が手に入る。

 

 メインステージに159inchの巨大LEDディスプレイが設置され、大迫力のプレイ画面が映し出された。ステージ上では、ゴールが決まると席を立って大きなアクションを見せる選手もいれば、座ったまま小さくガッツポーズを作るだけのプレイヤーもいた。喜びの表現方法は人それぞれ。そこにプレイヤーのキャラクターが表れているような気がした。

 

 観客の前でプレイするオフライン大会ならではの高揚感もあったようだ。大会参加者の久保響は北海道大学大学院2年。オフライン大会は初出場だった。「緊張するよりもワクワクしました。さすがに点を獲られた時はテンパりましたけど」と頬を緩ませていた。拓殖大学2年の早川純太は、序盤戦こそクールな表情を見せていたが、終盤戦になると「もう抑えきれなかったですね」と大きなアクションで喜びを露わにしていた。

 

(写真:オフライン大会ならではのワンシーン。立ち上がり、ステージ上でガッツポーズ)

 準決勝では日本テレビの鈴木健アナウンサーが実況を、元サッカー日本代表の都並敏史氏が解説を務めた。サッカー中継でも御馴染みのコンビによる息の合ったトークも会場を盛り上げた。場内は熱気に包まれたまま、全7試合の戦いを終えた。大会の優勝者にはビックカメラのギフトカード40万円分、準優勝は20万円分、ベスト4の2人は10万円分が与えられた。

 

 今大会は選手からも好評だった。「来年も出たい」と口にする者が少なくなかった。大会アンバサダーとして決勝トーナメントの試合解説、エキシビションマッチに参加した杉村と相原は世代別大会の意義をこう説明する。

「無制限の大会だと“どうせ勝てない”と諦めてしまう人もいます。でも学生限定であれば“オレにもチャンスあるかもしれない”と思う人もいるはずです」(杉村)

「無制限の大会ではなかなか勝てない人が、年代別の大会で結果を出してガラッと変わることもある。自信をつけることで、その後の大会で勝つきっかけになるかもしれません。だからこういう大会が開催されるのはすごくいいことだと思います」(相原)

 

 多様性と可能性

 

(写真:大会では好ゲームが目立ち、手に汗握る展開が続いた)

 BS11は今後も継続して大会を開催していく方針だ。目指すは高校野球の甲子園、陸上の箱根駅伝といった学生スポーツの象徴的存在。またBS11本社のある御茶ノ水を「学生eスポーツの聖地にしたい」と考えている。9月にはBS11本社のホールを他の学生eスポーツ大会でも会場として使用した。次世代メディア局の松友大輔eスポーツ事業推進部長は「eスポーツの学生大会と言えば、BS11と思ってもらえるようにしていきたいです」と意気込んでいる。

 

 eスポーツに対しては「ゲームであってスポーツではない」と否定的な声も少なくはない。身体を動かさないことが大きな理由のひとつだ。しかし、アーチェリーや射撃のような技術系のスポーツも存在している。何よりスポーツの語源は“遊び”である。その伝で言えば、eスポーツはスポーツと呼ぶにふさわしいのではないか。そしてeスポーツには誰もが挑戦できる魅力がある。

 

 徳島大学4年の大西将統はこの夏、プロになったばかり。小中高までサッカーを続けてきたものの、プロサッカー選手にはなれなかった。彼の人生はeスポーツで開かれた。

「生まれ持ったセンスだけではなく、誰でも勝負できるところがeスポーツの魅力ですね。勉強にも似ているところがあって、しっかりと考えて時間をかけてトレーニングをすればちゃんと結果を残せるんです」

 

(写真:大会参加者の早川は「相手との駆け引きがリアルと似ている」と競技の魅力を語る)

 アジア競技大会金メダリストのプロ選手・杉村もサッカー経験者だ。「頭の中では“こうしたい”とは思ってもリアルのサッカーでは技術や運動能力が追い付かなくてできなかった。でもeスポーツの場合は頭のイメージとコントローラーを操作する指の技術力があればできるので、サッカーよりはハードルが低い」。リアルのサッカーでは叶えられなかった日本代表の夢をeスポーツで実現したのだ。

 

 九州大学大学院1年の大土井博俊もプロライセンスを取得しているプレイヤーである。彼の場合は中高テニス部に所属していたが、サッカーゲームでプロになった。テニスでダブルスを得意にしていた大土井は、その経験が「eスポーツでも生きている」と口にする。ウイイレでは主に3対3のチーム戦で活躍し、国際大会にも出場した。

 

 eスポーツは年齢、性別、国籍の違いや障がいの有無に関わらず、誰もが同じステージで頂点を目指せる多様性のあるスポーツだ。“誰もができる”という点こそが最大の強みである。様々な可能性を感じられるeスポーツ。この先が楽しみな「良いスポーツ」と言いかえることも可能だろう。

 

 BS11では11月11日(日)を「イレブンの日」と銘打ち、11時間のスポーツ特別編成を組む。午前11時から3部構成で討論番組『スポーツの未来~sports evolution~』を放送します。19時からは『BS11cup 全日本eスポーツ学生選手権大会』の決勝トーナメントの模様をオンエア。当番組はBS11のオンデマンドサイトでも同時配信されます。是非ご覧ください。


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