(写真:ジャッカルから独走するクワッガ・スミス。南アフリカ代表キャップを持つ)

 13日、ジャパンラグビートップリーグ第6節が各地で行われた。東京・秩父宮ラグビー場でキヤノンイーグルスとヤマハ発動機ジュビロ、NTTコミュニケーションズシャイニングアークスとトヨタ自動車ヴェルブリッツが対戦。ヤマハがキヤノンを52-17、トヨタ自動車がNTTコミュニケーションズを38-36で下した。ヤマハはホワイトカンファレンス首位に立ち、トヨタ自動車はレッドカンファレンス2位をキープ。1節を残し、各組上位4チームまでが出場できる決勝トーナメント進出を決めた。

 

 その他、ホワイトカンファレンスは既に進出を決めているパナソニック ワイルドナイツに加え、リコーブラックラムズ、クボタスピアーズが4位以内を確保。決勝トーナメント進出チームが出揃った。レッドカンファレンスは昨季2冠のサントリーサンゴリアス、ダン・カーター擁する神戸製鋼コベルコスティーラーズが決勝トーナメント進出が確定させた。

 

 FW戦で圧倒

 

 空は曇天でもサックスブルーのジャージーは輝いていた。ヤマハは得意のFW戦でキヤノンに打ち勝った。

 

(写真:試合後の清宮監督の表情からも見て取れるようにヤマハの強みが存分に出ていた)

 前半3分、敵陣深くでラインアウトを獲得すると、モールで前進した。SH吉沢文洋、CTBヴィリアミ・タヒトゥアと繋いで最後はCTB小林広人がトライ。FWで距離を稼ぎ、BKが仕上げた。コンバージョンキックをFB五郎丸歩が決めた。

 

 直後に1トライを許したものの、ヤマハが突き放しにかかる。14分、21分とラインアウトからのモールでトライを挙げたのはHO日野剛志だ。五郎丸のキックも冴え渡り、連続成功。21-5と大きくリードを広げる。

 

 互いに1トライずつ奪った後、前半終了間際に得点を加えたのはヤマハだった。38分、中央を抜け出しのはWTB矢冨洋則である。スピードに乗った状態で吉沢のパスを受け取ると、そのままインゴールへ飛び込んだ。この日がトップリーグデビューの矢冨洋。帝京大学出身のルーキーだ。既に同期生たちは活躍中。「アイツらが出ているのがめちゃくちゃ悔しかった」と刺激を受けていた。デビュー戦できっちり結果を出して見せた。

 

 後半に入ってスコアが動かぬ時間が続いたが、26分にヤマハがリードを広げる。ハーフウェイライン付近でFLクワッガ・スミスがジャッカル。そのままカウンターでピッチを独走する。7人制ラグビーの南アフリカ代表でリオデジャネイロ五輪出場、スプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)のキャップも刻んだハードワーカーが持ち味を発揮した。

 

(写真:山村のトライを喜ぶヤマハフィフティーン。ムードメーカーの得点に盛り上がった)

 ヤマハが攻め手を緩めることはなかった。終盤にはベテランが活躍した。35分には途中出場のSH矢冨勇毅が抜け出し、最後はLO大戸裕矢のトライをアシスト。終了間際にはPR山村亮がトライを挙げる。

 

 33歳の矢冨勇は矢冨洋の兄。兄弟同時出場を果たした。37歳の山村は10年以上ぶりのトライだった。清宮克幸監督は「矢冨兄弟は山村と共にこの試合の主役だった」と称えた。

 

(写真:パスフェイクからうまく抜け出した矢冨勇。弟の競演でもスタジアムを沸かせた)

 52-17の圧勝。合計8トライで3トライのキヤノンに3個以上の差をつけてボーナスポイントを獲得した。この日敗れたパナソニックに替わってホワイトカンファレンス首位に立った。決勝トーナメント進出を決めた。ゲームキャプテンのPR山本幸輝は「ヤマハスタイルを全員で出した」と胸を張る。

 

 敗れたキヤノンのアリスター・クッツエーHCは「求めていた結果を出せなかった。ヤマハはパワフルでフィジカルが強いチームだと見せつけられた」と悔しがった。「試合を通してエネルギーに満ち溢れていた」とは清宮監督。トップリーグ初制覇への挑戦権を獲得し、次のステージに向けて弾みをつけた。

 

 BK陣が躍動

 

(写真:レッドカンファレンス2位をキープし、次ステージへの挑戦権を得たトヨタ自動車)

 開幕戦は涙の逆転負けを喫したトヨタ自動車だが、この日は辛くも逃げ切った。主将の姫野和樹を欠く中で、強力なFW陣に加えてBK陣の活躍が目立った。

 

 前半3分にPGで先制を許したものの、すぐにイェーツ・スティーブンのトライをで試合をひっくり返した。その後はNTTコムのPR上田竜太郎、LO中島進護に連続してトライを奪われ、10点差をつけられた。

 

 流れを変えたのは、開幕戦からフル出場を続けるルーキーのWTB岡田優輝だ。20分、敵陣でのスクラムから中央を突破。FLシュネル・シンのパスを受けると、抜け出してトライを挙げる。帝京大学時代はCTB起用がメインだったが、「CTBもWTBもできる選手」と語るジェイク・ホワイト監督の期待に応えた。

 

(写真:入社後の約半年で、大学時代と比べてスピードとパワーが増した感がある岡田)

 両軍が1トライ1ゴールを重ねた後の38分には、力強さを見せつける。右サイドから展開して中央でボールを持ったSOライオネル・クロニエからのパスに反応。一度はNTTコムディフェンスに捕まるが、再び立ち上がるとPR三浦昌悟、LOレニエル・ヒューゴのさぽーつを受けながらインゴールまで突進した。これで24-22と逆転。クロニエのゴールも決まり、4点差をつけて前半を終えた。

 

 後半11分にトライを挙げたのも岡田だ。左サイドから右に展開。クロニエ、FBジオ・アプロン、No.8吉田杏と繋いだボールを大外で待ち受けるとWTB石井魁、FL金正奎のタックルかわしてインゴールに飛び込んだ。ハットトリック(1試合3トライ)を達成。トヨタ自動車はクロニエのコンバージョンキックで2点を追加した。

 

(写真:日本代表にも選出されたジェイミーは通算7トライでランキング2位につける)

 トヨタ自動車は17分には、中央左敵陣深くのスクラムからSH茂野海人が左へ繋ぐ。大外でボールを受けたWTBヘンリー・ジェイミーが2人のプレッシャーを受けてもお構いなしばかりに、トライを挙げた。クロニエのキックは外れたものの、38-22と、この試合最大の16点差をつけた。

 

 しかし、ここから試合運びの拙さを見せてしまう。NTTコムの猛反撃に遭った。LOカール・ウェグナーがシンビン(10分間の一時退場)を受けた直後の29分。自陣でのスクラムから押し込まれてトライを献上した。33分にはSH湯本睦にスキを突かれてトライを奪われた。FB羽野一志のキックはいずれも成功し、その差はわずか2点となった。

 

(写真:試合内容には不満を持ちつつも、チームの成長の手応えを掴んでいる様子のホワイト監督)

 試合時間は残り約7分。トヨタ自動車は逆転に向けて俄然勢いに乗るNTTコムの反撃を凌いだ。38分にプレッシャーをかけ相手の反則を誘った。あとは茂野を中心にうまく時間を使ってノーサイドの笛を待った。38-36と2点差の辛勝で勝ち点を22にのばした。レッドカンファレンスでの4位以内を確実なものとし、決勝トーナメント進出を決めた。

 

「ボクシングのような打ち合いの試合だった」とホワイト監督は試合を評した。勝利を喜びつつも内容には納得がいっていない様子だった。ゲームキャプテンを務めた茂野も「勝てたことは良かったが、良くない部分も多かった」と反省点を述べていた。

 

(写真:好調のチームを支える茂野<中央>。強気の攻めでゲームメイクする)

 今季は元々の強みであったFW陣に加え、BK陣の活躍が目立つ。ホワイト監督は「FWの力をキープしながらBKがトライ量産できている」とチームづくりに自信を覗かせる。中でも岡田に寄せる期待は大きい。「今まで多くのBKを見てきたが、その中でも突出した選手。次世代を象徴するBKです」と称える。

 

 ルーキーながら全6試合にフル出場し、通算6トライでトライ王も射程圏に入った。「もちろん狙っていきます」と岡田。次節は日本代表選手が試合に出場しないプロテクト節。岡田の上をいく2人は出場しない。23歳の若武者は豊田自動織機シャトルズとの豊田ダービーで躍動し、トライ王を掴み取りにいく。

 

(文・写真/杉浦泰介)