ポストシーズンゲームにおける広島の“4連敗病”は深刻である。25年ぶりのリーグ優勝を果たした2016年は日本シリーズで北海道日本ハムに2連勝後、4連敗。リーグ連覇の17年はCSファイナルステージでレギュラーシーズン(RS)3位から勝ち上がってきた横浜DeNAに、アドバンテージを含む2勝から4連敗。球団史上初のリーグ3連覇を達成した今年も先勝しながら福岡ソフトバンクに4連敗を喫し、下剋上を許してしまった。

 

 なぜ、かくも広島は短期決戦に弱いのか。スコアを調べてみて驚いた。16年の日本ハム戦、17年のDeNA戦、そして今年のソフトバンク戦。4連敗×3、すなわち12敗のうち1点差負けが5つもあるのだ。その逆はひとつもない。「1点差の負けは監督の責任、5点差の負けはフロントの責任」という常套句がメジャーリーグにはある。クロスゲームは監督の腕次第でどうにでもなるが、5点差ともなると、戦力格差が原因ゆえ、いかんともし難い。概ねそんな意味だ。

 

 広島・緒方孝市監督はポストシーズンゲームをRSの延長として位置付けているフシがある。ソフトバンクとの日本シリーズでは8度も盗塁を企図し、全て失敗に終わった。シリーズ終了後、敗軍の将は「シーズン中からいろいろと仕掛けてやってきた」と語った。それが「ウチの野球」だというわけだ。「ウチの野球」、すなわち「平時の野球」にこだわるのもいいが、それが通じないとわかれば、次の手を打たなければならない。「ウチの野球」への固執が破局を招いてしまった。

 

 翻って、このシリーズが始まる前、選手として11回、監督として2回、計13回も日本一を経験していた工藤公康監督の采配は、驚くほど柔軟で、しかも最善手の連続だった。

 

 1点もやれないと判断すれば、クローザーを8回から投入し、広島に付け入るスキを与えなかった。そう、近代の継投は「治療」ではなく「予防」なのだ。逆に1点が欲しい場面では、RSで8年間も犠打を記録していない球界を代表する巧打者に犠牲バントを命じ、スクイズでの先制点につなげた。私たちが目のあたりにしたのは、まさに「非常時の野球」だった。

 

 たかが1点、されど1点。采配次第では、どう転んでいたかわからない試合が4つもあった。緒方広島が短期決戦を制するには「非常時の野球」を学ぶ必要がある。

 

<この原稿は18年11月7日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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