(写真:メガホンを持ち、率先してチームを盛り上げる秋元監督<中央>。雰囲気の良さがチームの持ち味)

 伊予銀行VERZは、日本女子ソフトボールリーグ1部での戦いを5勝17敗で終えた。第1節から11連敗と苦しみ、一時は最下位に落ちた。それでも後半戦を踏ん張り、自動降格圏を脱出。11位で2部2位の日本精工Brave Beariesとの入れ替え戦に回り、2連勝で1部残留を決めた。

 

 

 まずは入れ替え戦から振り返ろう。2年ぶりの入れ替え戦。2戦先勝方式で1部残留・昇格が決まる。11月8日の第1戦は静岡・天城ドームで行われた。大事な初戦の先発マウンドは、秋元理紗監督が「一番状態が良く、安定していた」という庄司奈々が任された。

 

(写真:入れ替え戦2試合を1人で投げ抜いた庄司。シーズンも粘りの投球でキャリアハイの5勝を挙げる活躍をみせた)

 今季、伊予銀行が挙げた5勝全てが彼女の勝ち星だ。防御率1.83はリーグ8位の好成績。いずれも昨季の個人成績を上回った。“打たせて取る”を身上とし、エースに成長しつつある右腕は初回をゼロで抑えてみせた。

 

 対する日本精工は意外な手を打ってきた。エースの藤嶋涼菜ではなく、山田夏生をマウンドに送ってきた。「予想外ではありましたが、継投を含めピッチャー全員を使ってくる可能性は十分に考えられた」と秋元監督。大きな動揺はなかった。

 

「どういう形でも先に点を獲るのかがポイントだと思っていました」と指揮官。両軍のゼロ行進が続く中、試合が動いたのは4回裏だ。先頭の5番・矢野輝美が右中間へのアーチを描いた。秋元監督も一目置くベテランの一振りで、伊予銀行が先制に成功した。

 

 ところが6回表、庄司が逆転を許してしまう。走者1人を置いて、4番・安井聖梨奈にレフトへ逆転2ランを浴びたのだ。安井は2部で打率4割を超え、6本塁打、16打点の日本精工の主砲。一番警戒すべき打者であり、一番乗せてはいけない選手の1人だった。ボールはインコースややベルトの高さ、ベース寄り。秋元監督が「完全に失投」と振り返った1球で試合をひっくり返された。

 

 1-2のまま、試合は7回裏へ。ここで秋元監督が動いた。代打に浅石彩菜を起用した。「シーズン中も点を獲りたいところで活躍するバッターです。フォアボールやポテンヒットなどでとにかく出塁して流れを変えてくれました」。その期待に応えるように、浅石はショートエラーで出塁した。

 

 ツキはまだ伊予銀行に残っていた。続く正木朝貴が送ると、松成あゆみがセンター前へ弾き返した。浅石の代走として再出場していた金澤美優がホームへ還ってきた。土壇場の7回裏で追いついた伊予銀行。勝負の行方は延長タイブレーカーまで、もつれる。

 

 無条件で無死二塁からスタートするタイブレーカー。日本精工は先頭がバント失敗に終わるが、二死一、二塁のチャンスで6番・山本悠未がレフト前ヒットを放った。伊予銀行のレフトは前川綾菜。ホームを狙うランナーを好返球で刺した。「ここぞというところで良いプレーをする」(秋元監督)と、前川が再び流れを引き寄せた。

 

 チャンスを逸した日本精工に対し、伊予銀行は着実にモノにする。先頭がバントできっちり送ると、デッドボールで1死一、三塁。打席には金澤が入った。ここでベンチが動いた。エンドランを仕掛け、金澤はバットに上手く当ててファーストへ転がした。俊足の照喜名真李がホームに還って、サヨナラ勝ちを決めた。

 

(写真:ショートで守備の要として君臨し、後半戦はクリーンアップも務めた對馬。チームの大黒柱に成長した)

 相手バッテリーに外されてしまえば、三塁ランナーを殺されていた危険性はあった。一見、ギャンブルのようにも思えるが指揮官の胸の内は違った。

「金澤は今季、そういう細かいこと。エンドランやバントなどを集中的に練習してきたバッターでした。だから少々外されても決めてくれるという信頼はありました」

 

 シーズンからの積み上げでもぎとった第1戦の勝利。翌日に行われた第2戦も庄司が先発を任された。秋元監督はリーグ戦の最終節で彼女を連投させており、その適性を確かめていた。「意外と1日目よりも少し肩の力が抜けて良くなる場合がある」。ピッチャー出身の秋元監督らしい采配だ。

 

「入れ替え戦の1日目のピッチングは、私の中であまり良いと思えなかった。だからバッテリーには改善してほしいところを伝えました。たぶん彼女たちは、その課題に集中してくれていたんだと思います。1日目よりも2日目の方が配球もボールの質も断然良かった」と秋元監督。庄司と二宮はなのバッテリーは連投の疲れも見せず、スコアボードにゼロを並べた。

 

 打線の援護は4回表だ。樋口菜美が打った瞬間にそれとわかる当たりで、先制ホームランを放った。7回には天井に直撃する認定ホームランでのグランドスラム。2本塁打5打点の活躍だった。投げては庄司が最後までホームを踏ませず、完封勝ち。2部降格を免れた。

 

 1部残留を決めた伊予銀行。今季は福井での国民体育大会を5位、全日本総合はベスト16だった。5勝17敗で終えたリーグ戦を振り返ると、順位は10位の昨季より1つ落とした。リーグ戦での総得点は43点、1試合平均にすると1.95点である。一方、総失点は87点で、1試合平均3.95点。いずれも昨季から数字を落とした。秋元監督はシーズンを振り返り、こう分析する。

「粘りが足りなかった印象があります。昨季を終えて、“これから”というチーム状態ではありましたが、地元国体を終えた後でひとつ気持ちの中で乗り切れない部分があったのかもしれません」

 

 開幕戦でHonda Revertaに7-2で快勝したものの、その後は勢いに乗るどころか連敗に苦しんだ。第1節から11連敗を喫した。一時は自動的に2部へ降格する12位にまで順位を下げた。キャプテンの對馬弥子は「一言で言ったら厳しいシーズンでした」と振り返る。

「前半戦を終わるまでは試合が続いていたので、後半戦に入る前にミーティングをしたり、チームの皆で海に行くなどして切り替えるようにしました。それがうまくいったのかはわかりませんが、後半戦は団結していけたかなと思っています」

 

(写真:後半戦の踏ん張りは正木が1番として機能し始めたことも大きい。安定した守備だけでなく打撃面でもアピールした)

 6月から9月までのリーグ戦中断期間は、気持ちを切り替える良い時間だったのかもしれない。秋元監督も後半戦から打順を組み替えた。トップバッターに固定していた對馬をクリーンアップに据えたのだ。これは秋元監督の腹案でもあった。夏に正木が成長し、1番を任せられる目途が立ったからだ。

 

 後半だけなら4勝7敗。負け越してはいるものの、4つ勝ち星を重ねたことで最下位からは抜け出せた。自動降格圏から脱げ出せていなければ、当然1部残留はなかった。對馬は打率3割2厘でシーズンを終え、主軸として機能してみせた。キャプテンの對馬は来季へ「チームが勝てればいいので、それを大前提にやっていきたいです」と意気込む。

 

 最後の最後で踏ん張り、来季も1部で戦うことができる。高いレベルでのプレーを経験することによって、チームとして更なる成長に期待したい。それは指揮を執る秋元監督も同じ想いである。

「今年の良い部分も残しつつ、来年は若い選手たちにも期待したいです。今までで一番結果を残せるチームでありたいと思っています。一回り成長したところを見せたいです」

 この冬、いかに自分たちを追い込み、未来への種を蒔けるか。それが春の開花に繋がるはずだ。

 

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