(写真:那須川の「相手の土俵で戦ってもいい」との言葉通りのルールとなった)
ここ数日で一気に寒さが増した。仕事場からの帰り路、カラダが冷気に震える。早いもので今年も、もう12月半ばだ。大晦日が近づくとワクワク感が漂う。
そう、大晦日といえば『RIZIN』である。
今年も会場は、さいたまスーパーアリーナで、チケットはすでに、ほぼ完売のようだ。メインカードは、“元プロボクシング5階級制覇王者”フロイド・メイウェザーvs.“33戦無敗の天才キックボクサー”那須川天心。世界的に知名度の高いメイウェザーが、『RIZIN』のリングに上がることに注目が集まっている。
さて、この一戦どうなるのか?
ボクサーとキックボクサーの対決なのだが、異種格闘技戦ではなく、ほぼボクシングのルールで行われる。また、両者の間には10キロほどの体重差があるが、契約ウェイトはメイウェザーに合わせるようだ。そして、この一戦はリアルファイトではなく、エキシビションマッチである。
メイウェザーは、こう話している。
「これは勝敗を決める試合ではない。エキシビションだ。私は9分間、リング上で動く。それで高額なマネーを手にすることになる」
先月の対戦発表記者会見の後に、『RIZIN』側がリアルファイトであるかのような発表をしたことで、メイウェザーが一度は参戦拒否をにおわせたことは周知の通り。その後、エキシビションマッチであることを両サイドが確認したことで実現に至っている。
ふざけた話だと私は思う。
単に高額なファイトマネー目当ての元ボクシング王者と、那須川がリアルファイトではない舞台でグローブを交えて何の意味があるのか、と。それよりも、那須川と武尊のスリリングな闘いが観たいと多くのファンも願っているはずである。
ボクサーとしても世界を狙える逸材
ところが、当の那須川は、メイウェザーとのエキシビションマッチに、大いにやる気を見せている。
「倒しにいく」
そうコメントして、本格的は調整に入っているのだ。
おそらくは、メイウェザーのコメント通りの顔見せ程度の9分間に終わるだろう。にもかかわらず、那須川は燃えている。それは何故か?
那須川が近い将来、プロボクシングへの転向を本気で考えているからではないかと思う。
幼少期に空手をはじめ、15歳でキックボクシングデビューを果たした那須川は、その後、連勝街道をひた走り現在の地位を築く。だが、その間に、帝拳ジムでボクシングのトレーニングに取り組んだこともあった。
「センスは素晴らしいですよ。本気でボクシングに専念すれば、世界チャンピオンを目指せる逸材です」
帝拳ジムの関係者から、そう聞かされたこともある。
【プロボクシングの世界でチャンピオンを目指したい。だから、メイウェザーとはエキシビションであろうとも、拳を合わせてその強さを体感しておきたい】
那須川は、そんな想いを抱いているのではないか。そう考えるとエキシビションであるにもかかわらず、那須川が燃えていること。帝拳ジムが今回のメイウェザーvs.那須川に対して、非常に協力的であることにも妙に納得がいく。
東京オリンピックが開催されている頃には、那須川はプロボクサーとして世界を目指しているのかもしれない。
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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