(写真:前川主将はOB平尾氏の遺影を抱えて、表彰式に参加。久々の優勝を喜んだ)

 15日、第56回日本ラグビーフットボール選手権決勝を兼ねたトップリーグ総合順位決定トーナメント決勝戦が東京・秩父宮ラグビー場で行われた。試合は神戸製鋼コベルコスティーラーズがサントリーサンゴリアスを55-5で破った。神戸製鋼は日本選手権が18季ぶり10度目、トップリーグが第1回大会以来15季ぶり2度目の優勝を果たした。同会場で開催した3位決定戦はヤマハ発動機ジュビロがトヨタ自動車ヴェルブリッツに15-12で競り勝った。

 

 赤の名門が復活の狼煙を上げる戴冠だ。トップリーグ初代王者の神戸製鋼が2季連続2冠のサントリーを下し、トップリーグと日本選手権のダブルタイトルを手中に収めた。

 

(写真:持ち味の素早いパス出しに加え、アグレッシブな守備や巧みなゲームメイクが光った日和佐)

 9月のリーグ戦では神戸製鋼がSOダン・カーター、SH日和佐篤のハーフ団の活躍により36-20で快勝した。神戸製鋼はリーグ戦無敗でトップ通過。一方、サントリーは神戸製鋼に黒星を喫したのみの2位で決勝トーナメントに進んだ。

 

 リーグ戦のリベンジに燃えるサントリーは、SOマット・ギタウをスターティングメンバーに起用した。 オールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)112キャップのカーター、ワラビーズ(オーストラリア代表の愛称)103キャップのギタウ。カーターとの世界的ビッグネーム対決に注目が集まった。

 

(写真:正確なキックに加え、冷静なゲームコントロールや抜群の存在感でチームを牽引したカーター)

 先手を取ったのは神戸製鋼だ。3分にWTBアンダーソンフレイザーのトライで先制すると、カーターがコンバージョンキックを決めた。7点のリードを奪った。11分には日和佐、カーター、No.8中島イシレリと右に展開していき、最後はアンダーソンが再びトライを奪う。12-0で試合を優位に進めた。

 

 なかなかリズムを掴めないサントリーだが、王者の意地を見せる。自陣右でCTB梶村祐介が大外のWTB尾﨑晟也へパス。尾﨑はそのまま右サイドをぶち抜き、独走する。インゴール右隅へ飛び込んで5点を返した。

 

 32分にカーターのPGで3点を加えた神戸製鋼。37分にはサントリーFB松島幸太朗が自陣で前線に蹴り出そうとした瞬間、HO有田隆平がキックチャージした。弾かれたボールは無人のインゴールへと転がる。有田がそれを拾い、再びサントリーを突き放した。

 

 日和佐は「一番大きかったプレー」と振り返る。直前のプレーで自らがノックオンのペナルティーを犯していた。「ひとつのミスでゲームの流れが変わる。僕がミスをしたのを有田が取り返してくれた」と日和佐。殊勲の有田は「たまたまです」と照れたが、22-5で前半を終えられたのは大きかった。

 

 今季の神戸製鋼は素早いパス回しでボールを支配するスタイルだ。この決勝でも持ち味は存分に発揮された。ディフェンス面でも激しいプレッシャーをかけてボールを奪った。6分、CTBアダム・アシュリークーパーのトライも、自らが敵陣で松島に好タックルしてターンオーバーしたからだ。

 

(写真:インゴール中央に飛び込むフランクリン。攻守においてFWの奮闘も目立った)

 この日の神戸製鋼は攻守ともに隙が感じられなかった。8分にFB山中亮平のトライで突き放すと、14分にはLOトム・フランクリンが中央突破でトライを挙げた。17分にはFLグラント・ハッティングのトライとカーターのゴールで試合をほぼ決めた。27分にカーター、31分には日和佐をベンチ下げた後は、得点が止まった神戸製鋼だったが終了間際に山中のトライで試合を締めくくった。

 

 55-5。スコアも内容も神戸製鋼の完勝だった。デーブ・ディロンHCは「試合の最初から素晴らしいパフォーマンスだったと思います。お互いのために0分から80分まで立ち上がり続けた」と選手たちを称えた。

 

 今季よりオールブラックスのアシスタントコーチを務めたことのあるウェイン・スミス氏が総監督に就いた。カーターも「世界で一番のコーチだと思っている」と絶賛する名伯楽。ディロンHCは「シンプルに伝えてくれる。コーチ陣も含めチーム全体が成長した」と、“ウェイン効果”を語った。

 

 名門のプライドを復活させた。ディロンHCは今季の変化をこう説明した。

「自分たちが何を代表しているかに立ち帰った。チームの歴史を学ぶことによって、戦う意味付けをした」

 ゲームキャプテンを務めたFL橋本大輝は「日本一のアタックとディフェンスができた。神戸製鋼のラグビーを体現できた」と胸を張った。

 

 日本選手権7連覇、トップリーグ初代王者。日本ラグビー史にその名を刻んできた名門が還ってきた。

 

(文・写真/杉浦泰介)