今季、最多勝と最多奪三振の投手二冠に輝いた香川オリーブガイナーズのエース・秀伍が引退を決めた。香川では2年間、先発ローテーションを守り、チームの2度の優勝に貢献した。社会人(セガサミー)までは外野手だったが、戦力外となった後、26歳でアイランドリーグに投手として挑戦した変わり種。マウンドに上がったのは高校2年生以来ながら、香川の地で投手として成長を遂げた。完全燃焼を果たした秀伍に話を聞いた。

 

 同僚の一言で決意

 今シーズンを振り返ると1年間、ケガもなくローテーションを守り、2つのタイトルを獲得してベストナインにも選出されて満足でした。また独立リーグ日本一こそ逃しましたが、チームの優勝にも貢献できました。ただ、一番の目標だったNPB入りは実現できず、これについては悔しい思いがあります。でもNPBを目指して2年間、やり切りました。「ああすれば良かった」などという後悔はまったくありません。

 

 実は開幕前、竹田塾というジムでトレーニングをしていたんですが、そこにはいろいろなスポーツのトップ選手がいて、サッカー元日本代表GKの川口能活さんも参加していました。そこで川口さんがめちゃくちゃ自分を追い込むトレーニングをしているのを見て衝撃を受けました。「一流と呼ばれ、40歳を過ぎたベテランなのにここまでやっているのか……」と。「NPBを目指す」と言っている割に、若い自分は果たしてそこまでやっているのか、と。川口さんに刺激を受けて、今年のオフは目一杯トレーニングを行いました。結果、前期は特に調子が良く、30イニング無失点ピッチングなど自分でも驚くほどの投球ができました。

 

 でもそういうときに限ってアクシデントが起きるものです。試合中に打球を顔面に受けて、顔の骨を3カ所骨折……。直後に愛媛戦の先発が迫っていたのですが、骨折したままマウンドに上がりました。なんとか5回まで投げましたが、途中から頭がクラクラしてきて交代。当然ですよね。

 

 チームも首位だったし、「投げない」とか「休む」という選択肢は僕の中にありませんでした。あとでクローザーの原田(宥希)が「秀伍さんがあんな状態で投げているのに、リリーフはしんどいな、とか言っていられない」とインタビューに答えていましたが、後輩たちにそういう何かを残せたとしたら、無理をしてマウンドに上った甲斐があったというものです。

 

 僕はアイランドリーグに入る前、社会人のセガサミー時代までは外野手でした。ピッチャーをやっていたのは高2の途中まで。そこから外野手に転向して大学、社会人と過ごして、なぜ投手に戻ったのか? それは社会人時代のチームメイトやコーチの言葉がきっかけでした。

 

 外野手の中でも送球の球筋が一番きれいだと言われていて、試しに遊びでブルペンに入ったら「お前、ピッチャーいけるよ!」と。そのとき社会人3年目で引退勧告も受けていて、もう野球は辞めるつもりでした。でも同僚の言葉でその気になったのと、あとセガサミーの佐藤俊和コーチやアナライザーだった城下尚也さんも、「もしNPBに行くという思いがあって、ここで辞めて悔いが残るなら挑戦してみろ」と背中を押してくれて、それでアイランドリーグのトライアウトを受けました。

 

 トライアウトでは運良く、香川の西田真二監督の目に止まって入団できましたが、キャンプでマウンドに久々に立ってみると、投球のことなんて全部忘れていました(笑)。セットポジション、投内連携、牽制、クイックなどなど、まったくゼロからのスタートでした。「大丈夫かな」と思いましたが、見守っていた監督やコーチも同じことを思ったでしょうね。

 

 最初、中継ぎとして実戦で投げたときもまったくダメで、「これはヤバイ」と。その後、投げ込みを繰り返して、監督が先発で使ってくれたのも大きかったですね。ローテーションをきちんと決めてくれたので、調整にも苦労することはなく、徐々に投手としての勘を取り戻せました。おかげで球速もトライアウトの141キロから9キロアップの150キロ台に到達。アイランドリーグ1年目に6勝、今季8勝、通算14勝の成績は上出来でしょう。

 

 今はNPBに行くためにすべてやり切って、野球でやり残したことはない、と胸を張って言えます。まあ、でもNPBという場所はハンパじゃないくらい高いハードルだったと実感しています。来季、NPBを目指す後輩たちには「とにかく悔いを残さないように死ぬ覚悟でやれ」と言いたいですね。

 

 とりあえず、今は野球を忘れて就職活動中です。アイランドリーグでは選手のセカンドキャリアサポートにも力を入れてくれていますし、僕もセカンドキャリアで成功すれば、後輩たちも安心して野球に集中できる。野球人口が減っていると言われていますが、野球を辞めた後もフォローする仕組みをリーグとして構築できれば、アイランドリーグに入る選手も多くなると思います。

 

 香川に入って、これまでの野球人生ではできなかった体験を数多くしました。香川に縁もゆかりもない僕を地元の人は熱く応援してくれたし、社会貢献活動を通じていろいろな人と触れ合うことができました。アイランドリーグに来て、香川に入って、本当に良かったと思っています。これからもオリーブガイナーズ、そして四国アイランドリーグの応援をよろしくお願いします。

 

<秀伍(しゅうご)プロフィール>
1991年7月26日、神奈川県出身。本名・高島秀伍。兄の影響で小1から野球を始め、様々なポジションを経験しながらピッチャーとセンターを主に務めた。桐蔭学園高(神奈川)2年まではピッチャー、その後、外野手に転向し東洋大、社会人のセガサミーへと進んだ。堅守強打の野手として鳴らすが2016年限りで戦力外。同年秋、四国アイランドリーグPlusのトライアウトに"投手"として挑戦し、合格。入団した香川では1年目から先発ローテーションの一員として6勝をマーク。2年目の18年、前期シリーズで30イニング無失点とチームの前期優勝に貢献。最多勝(8勝)、最多奪三振(110個)の投手二冠に輝き、ベストナインを獲得したが、同年秋のNPBドラフトで指名がなく現役を引退した。IL通算14勝11敗、187奪三振、防御率2.98。右投右打。身長185センチ、体重79キロ。


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