球団史上初となる3連覇を達成したのだから、実績の上では「名将」である。しかしながら、広島・緒方孝市監督の評価はそこまで高くない。ポストシーズンゲームで惨敗が続いているからだ。

 

 

 2016年の日本シリーズは北海道日本ハムに本拠地で2連勝と好スタートを切ったが、そこから4連敗。17年はCSファイナルで横浜DeNAにアドバンテージを含む2連勝としながら、やはりそこから4連敗。そして今年も福岡ソフトバンク相手に先勝しながら、またもや悪夢の4連敗を喫してしまった。

 

 12敗のうち1点差ゲームが5つもある。メジャーリーグでは「1点差負けは監督の責任」とよく言われる。采配ひとつで何とでもなるという意味だ。

 

 レギュラーシーズンなら、いつか長いトンネルを抜ける日がやってくる。辛抱強く、その日を待つという手もある。しかしポストシーズンゲームは、ひとつの負けが命取りになる。悪くなりかけた流れを止めるには、早め早めに手を打たなければならない。

 

 果たして緒方広島が3年続けて4連敗でシーズンを終えたのは、単なる偶然だろうか。

 

 今年の日本シリーズ、ソフトバンク工藤公康監督は徹底して1点にこだわった。日本一を決めた第6戦、先制点はセ・パ両リーグで首位打者経験のある内川聖一の犠牲バントから生まれた。その直後に西田哲朗がスクイズを決めたのである。

 

 工藤は選手として11回、監督として3回(18年も含む)、計14回も日本一を経験している。レギュラーシーズンとポストシーズンゲームの戦い方は似て非なるものだと熟知している。

 

 一方、緒方のポストシーズンゲームの戦い方はレギュラーシーズンの延長線上のように映る。レギュラーシーズンなら143試合を戦い抜いた上でトップの位置にいればいいが、ポストシーズンゲームは、まばたきしている間に終わってしまう。広島の選手は負けた気がしないのではないか。

 

 ところで日本シリーズで負け続けた指揮官がいる。大毎、阪急、近鉄の3球団で8回もリーグ優勝を果たしながら、一度も日本一になれなかった西本幸雄である。そのため「悲運の名将」と呼ばれた。

 

 生前、西本に日本シリーズに弱かった理由を訊ねたことがある。返ってきたのは意外な答えだった。

 

「(阪急時代)僕が育てた無名の選手が、あのON(王貞治、長嶋茂雄)を向こうに回して戦っている。もう、それを見ているだけで胸がいっぱいになりましたよ」

 

 阪急時代、西本は巨人と5度戦い、いずれも軍門に下った。

 

 持論だが、監督は大きく「勝負師型」と「育成型」の2つに分けることができる。西本は典型的な後者だったように思われる。

 

 さて、緒方である。指揮官としての時間は、まだたっぷり残されている。

 

 よく「五輪の借りは五輪でしか返せない」というが、その伝で言えば「日本シリーズの借りは日本シリーズでしか返せない」。悔しさをバネに来年、5シーズン目の指揮を執る。

 

<この原稿は2018年12月16日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 


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