FIFAクラブワールドカップで脚光を浴びる日本人選手がいる。

 開催国UAEのアルアインでプレーする塩谷司だ。初戦のオセアニア王者ウェリントン(ニュージーランド)との対戦では前半だけでチームは3失点しながらも、前半終了間際の塩谷のゴールで勢いづき、後半に2点を返しPK戦に持ち込んで勝利。塩谷は攻撃的な左サイドバックとして、その存在感を示した。続くアフリカ王者エスペランス(チュニジア)には3-0と快勝し、準決勝に進出。南米王者リバープレート(アルゼンチン)との一戦では、後半に元鹿島アントラーズのカイオとのコンビネーションで同点ゴールを演出している。

 

 すっかりアルアインの中心だ。

 サンフレッチェ広島から移籍したのが2017年夏。すぐさまレギュラーに定着し、左右のサイドバックを主に担うことになる。3年ぶりのリーグ制覇に大きく貢献。そして8月末に開幕した2年目のシーズンでも、攻守に活躍している。

 

 今年7月、シーズンを終えた塩谷に話を聞く機会があった。

 心身ともにたくましくなった印象を伝えると、彼は充実した表情をこちらに向けた。

「イランで試合をしたとき、7万人とか8万人のファンが集まってそれも男性だけ。“ドアウェー”のなかで試合をやるので、メンタルはかなり鍛えられたと思います。最初は手探りのところもありましたけど、段々と馴染んでいけたかな、と。

 日々のトレーニングや生活でも、それは同じです。日本は練習時間にきっちり始まるのに、アルアインでは5分ぐらい遅れて選手たちは出てくる。文化や気風の違いと受け止めて、そこにストレスを感じるんじゃなくて逆に馴染もうとします。チームでの食事もそうです。(中東の)いろんな料理が出てきたりしますけど、おいしく食べています」

 

 郷に入っては郷に従え――。

 異国での生活に格段、ストレスもなく、アルアインの町も気に入った。食事面は妻が全面的にサポートしてくれ、チームで困ったことがあればチームメイトで元Jリーガーのドウグラス(現・清水エスパルス)、カイオが助けてくれた。日本語を話せるカイオと塩谷のコンビネーションは、チームのストロングポイントになっている。

 

 海外に飛び出したことが、成長を呼び込んだ。

 2016年、リオデジャネイロ五輪にオーバーエイジとして参加しながらも、自分の力を発揮できなかった。帰国後、広島に戻っても「成長が止まっているんじゃないか」と考えるようになった。そんなときにUAEの強豪からオファーが舞い込んだのだった。

「悩みましたけど、海外に行くことによって何かが変わるんじゃないか、自分の人生にプラスになるんじゃないかって」

 

 覚悟を持って移籍し、環境を変えることによって再び成長のサイクルに入ったことを確信することができた。

 塩谷は開催国王者として臨む、このクラブワールドカップに早くから意欲を示していた。

「1年目で少なからずとも成長できたという思いはあります。生活のリズムや試合のリズムも分かったし、もっとパフォーマンスを高めていけることができると思うので。クラブワールドカップは映像で日本の方にも見てもらえるチャンスなので、凄くモチベーションが上がります」

 

 残念ながら恩師・森保一監督が率いる日本代表への復帰は今回、かなわなかったが、クラブワールドカップでの活躍ぶりを指揮官はチェックしているはず。様々なポジションをこなせ、経験値を上げている彼が今後、代表に呼ばれる可能性は十分にあるだろう。

 

 現地時間22日に鹿島を3-1で退けた欧州王者レアル・マドリード(スペイン)との決勝戦に臨む。

 進化した塩谷司を、決勝の大舞台からぜひ発信してもらいたい。


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