UAEで開催されているアジアカップ2019。2大会ぶりの優勝を目指す森保一監督率いる日本代表はグループリーグで2連勝し、ひとまず決勝トーナメント進出を決めた。

 初戦のトルクメニスタン戦はミドルシュートで先制されながら何とか逆転。2戦目のオマーン戦は長友佑都のハンドを主審が見逃すラッキーもあった。いずれも苦しんでの1点差勝利であった。

 

 ただ、のらりくらり勝っていることは悪くない。初戦を100%で迎えなければならないワールドカップと違って、優勝を義務づけられるアジアカップは決勝までのトータルで考えなければならない。今大会から出場チームが16から24に増え、決勝トーナメントに入ってから1試合増えている。中東は日本や欧州と気候やピッチコンディションも違い、最初から全力で飛ばしていく必要はないと考える。逆にグループリーグ突破を大きな目標に置くチームは、初戦から100%に近い状態で日本に向かってくる。厳しい戦いになることは想定内。内容自体は良くないとはいえ、しっかりと勝利を手にしたことは評価したい。

 

 原稿執筆時点でウズベキスタン戦の結果は分からない。もちろん勝ちグセをつけるために勝ち点3を奪うことが望ましいが、戦いの本番は決勝トーナメントに入ってからだ。1位突破でサウジアラビアまたはカタールと対戦しようが、2位に回ってオーストラリアと対戦しようが、正直に言ってしまえばどちらでも良い。優勝するためにはすべてのライバルに勝たなければならないのだから。移動距離がどうとか、日程がどうとかはさほど大きな問題にはならないように思う。

 

 優勝へのカギを1つだけ挙げるとすれば、選手たちがチームのために働き、受け身にならないことだろう。

 これから先は一瞬の気の緩みが命取りになる可能性がある。試合の中でどう戦えばチームがうまくいくかをすべて監督任せにするのではなく、選手たちが判断していかなければならない状況が出てくる。それを共有し、実行に移さなければならない。

 

 好例がある。

 優勝した2011年のカタール大会、オーストラリアとの決勝戦だ。

 

 スコアレスのまま進んでいた後半、アルベルト・ザッケローニ監督(当時)はオーストラリアの高さに対抗するために長身の岩政大樹を投入して、センターバックで起用していた今野泰幸をボランチに上げようとした。だが、その今野がケガをして自ら「×印」を出したことでピッチ内において選手同士が話し合いを持った。岩政をセンターバックに入れ、今野を左サイドバックに移し、左サイドバックの長友佑都を一列前に出す案を指揮官に進言した。

 

 結局、ザッケローニ監督も同じ考えだったようだが、選手たちが受け身になることなく自分たちで動こうとしたことに意味があった。相手右サイドバックのロングボールを長友がプレッシングで封じ、センターバックの岩政が空中戦に競り勝って日本が主導権を握るようになった。流れを日本に呼び込み、最終的にはあの李忠成の決勝ゴールが生まれたのだった。

 

 話を森保ジャパンに戻そう。

 ケガを抱える大迫勇也の回復具合は気になるところではあるが、アジアカップは全員が力を発揮してこそ優勝をつかめる。特にストライカーの北川航也、武藤嘉紀には奮起を促したいし、ここ2戦で出番のなかった乾貴士や青山敏弘らベテラン勢にも期待したい。

 

 3年半後にカタールでワールドカップが開催されるため、そのカタールをはじめイラン、イラク、サウジアラビア、UAE、ヨルダンと中東勢の意気込みを感じさせる大会になっている。ライバルの韓国もソン・フンミンとファン・ウイジョを擁し、グループリーグを3連勝で1位通過した。前回優勝のオーストラリアも初戦こそつまずいたが、ここから調子を上げてくるはずだ。

 

 優勝への道は簡単ではない。

 決勝トーナメントに入ってから、全開スイッチを押してほしいと思う。これを乗り越えた先に、森保ジャパンの融合と成長がある。


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