第416回 ブルックリンに光は見えたか “ニューヨークのもう1つのNBAチーム”がようやく浮上気配

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(写真:2015年ドラフト全体2位でNBA入りしたラッセルはプレーメイカーとしてチームを引っ張っている Photo By Gemini Keez)

“ニューヨークのもう1つのNBAチーム”がようやく上昇気流に乗り始めている。ブルックリンに本拠地を置くネッツが、12月7日から1月2日までの13戦中10勝と好調。開幕前の前評判を覆し、プレーオフに手が届く位置にまで浮上してきた。

 

「私たちの成長過程を喜ばしく思っている。キャリス・ルバート、アレン・クラブ、ロンデイ・ホリス=ジェファーソンといった多くのけが人が出たにも関わらず、一丸となって苦境を乗り越えてきた。より深く、良いチームになってきた。まだまだ先は長いが、このまま成長できれば楽しみになる」

 ケニー・アトキンソンHCがそう述べている通り、序盤戦のネッツは数多くの誤算に見舞われてきた。ベストプレーヤーのキャリス・ルバートが11月12日のミネソタ・ティンバーウルブズ戦で右足に重傷を負い、戦線離脱。21日から泥沼の8連敗を経験した際には、今季も泥沼に沈むかと思われた。

 

 ところが、12月7日からネッツは7連勝と急上昇を開始。相手に恵まれ続けたわけではなく、この連勝の中にはトロント・ラプターズ、ロサンゼルス・レイカーズ、フィラデルフィア・76ersといった強豪相手の印象的な勝利も含まれる。デアンジェロ・ラッセル、スペンサー・ディンウィディーのガードデュオを軸に、20歳のジャレット・アレン、ロディオンス・クルッツ、24歳のホリス=ジェファーソンといった若手がいきいきと躍動。鍵を握るラッセルが最近はアシストを量産し、11月25日から12月2日までの5戦では平均23.2得点、7.2アシストとスターレベルの数字を残しているのも良い兆候と言える。

 

(写真:身体能力に秀でたホリス=ジェファーソンは攻守両面で軸となる Photo By Gemini Keez)

「(8連敗という)試練を経験しても、僕たちの確信は揺らがなかった。このチームで勝っていけるとずっと信じていた」

 ジョー・ハリスはそう誇らしげに語る通り、厳しい状況の中でも、もともとエリートとは呼べない多くの選手たちの反骨心は途切れなかった。まだ先は長いが、ネッツは今後も危険なチームであり続けるのではないか。

 

 2012年にブルックリンに移転して華々しく再スタートを切ったネッツだったが、過去数年は泥沼の不振に喘いできた。2015-16シーズンは21勝61敗、2016-17シーズンは20勝62敗と惨敗し、昨季も28勝54敗。移転当初にケビン・ガーネット、ポール・ピアースを始めとする多くのベテランを狙う短絡的な補強を繰り返した代償として、最近は極端なタレント不足に悩まされてきた。

 

 ただ、アトキンソンHC、ショーン・マークスGMという新しい体制になって以降、流れは確実に変わってきている。スター偏重のチーム作りから一転、キャラクターも重視して獲得した若手を辛抱強く育成する方向に変更。今季に関しても、ディンウィディー、ジョー・ハリス、クルッツといったドラフト2巡目指名選手たちの働きに支えられているのが特徴の1つになってある。

 

 PO進出の可能性は十分

 

(写真:ドラフト2巡指名選手ながら、3年3400万ドルの新契約を受け取ったディンウィディーはアメリカンドリームの体現者 Photo By Gemini Keez)

 本来であれば、ネッツが勝ちに行くのは来年以降のはずだった。サラリーキャップ的には大物FA選手の獲得が可能な来オフを前に、あと1年は我慢のシーズン。今季は積極的に勝ちにいかず、次期ドラフトでの上位指名の確率を上げる方がよりロジカルな方向性と言えたのかもしれない。

 

 ただ、マークスGMは開幕前から「プレーオフに出れないと考える理由はない」と強気だった。実際に1月2日時点でプレーオフ圏内の8位まで0.5 ゲーム差、6位まで1.5ゲームと十分に射程圏内である。ここまで上がってきたのであれば、もう2015年以来となるポストシーズン進出を目指すべきだろう。

 

「ネッツはタンキング(ドラフト上位指名権を狙って意図的に下位に沈むこと)は考えていない。ここまで来たら、もうプレーオフ進出を果たさなければいけない。タンキングでトップ5指名権を得るのではなく、プレーオフを狙いに行った上で果たせなかったら、ドラフトでの指名順位はおそらく全体10~14位の間くらいになってしまう。中途半端な位置が最も良くない。今季に勝ちにいくことによって、チーム成長度をリーグ全体にアピールできる。(キャリス・)ルバートが健康体で戻ってくれば、ポストシーズン進出の可能性は十分あるはずだ」

 The Athleticのネッツ番記者、マイケル・スコット記者が示唆する通り、今季に目標を果たし、チームの将来性をアピールすることの意味は大きい。

 

(写真:レブロン・ジェームズすらもブロックしたアレン<右>のゴール下でのディフェンスは大きな武器 Photo By Gemini Keez)

 一昨年の夏、ネッツはFAでケビン・デュラント(現ゴールデンステイト・ウォリアーズ)獲得を望んだが、デュラント側に興味はなく、交渉の席に漕ぎ付けることすらかなわなかった。そんな惨めな失敗を来オフに繰り返さないためにも、現在のチームのクオリティを証明しておかなければいけない。来オフにFAマーケットに出てくるスター選手を惹きつけるために、チーム全体の成長度が重要になるのだ。

 

“ニックスに支配されたNYをネッツの街にする”。そんな移転当時のキャッチコピーも今は昔――。特徴のないチームを送り出して負け続けたおかげで、ネッツはリーグ最高級に存在感の乏しいフランチャイズになってしまった。そういった悪い流れから抜け出すべく、今後しばらくが勝負の時期。ラッセル、ディンウィディー、アレンといった主力の行く先にほんのりと光が見える。今春に久々にポストシーズンの大舞台に戻れば、ネッツを微かに照りつけ始めた光の強度が少しずつ増していくはずである。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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