第417回 フィリピンの英雄は力を残しているのか ~マニー・パッキャオvs.エイドリアン・ブローナー最終展望~

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(写真:パッキャオのファイトウィークは依然として大きな話題になる Photo By Esther Lin/SHOWTIME)

1月19日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ

WBA世界ウェルター級タイトルマッチ

 

王者 

マニー・パッキャオ(フィリピン/40歳/60勝(39KO)7敗2分)

vs.

元4階級制覇王者

エイドリアン・ブローナー(アメリカ/29歳/33勝(24KO)3敗1無効試合)

 

 

 6階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)にとって、2019年最初の試合がが今週末に迫っている。7月に獲得したWBA世界ウェルター級王座の初防衛戦で、相手は元4階級制覇王者のブローナー。しばらく税金滞納問題で米国での試合から遠ざかったフィリピンの英雄が、2年強ぶりにラスベガスのリングに立つ。

 

 最近はフロイド・メイウェザー(アメリカ)対パッキャオの再戦の噂がまことしやかに囁かれ、興味はそちらの方に集中している感がある。当日はメイウェザーもリングサイドに姿を現すとされ、また話題になりそうだ。ただ、それぞれスター性の高いパッキャオ、ブローナーの対戦自体にも大きな注目は集まるはずである。

 

 1月15日にリング誌電子版が掲載した展望記事では、パッキャオ勝利と見るメディア、関係者が21人、ブローナー勝利は1人。他の主要媒体でも予想は圧倒的にパッキャオに傾いており、9割以上が判定勝利を支持している。開始ゴングまでは盛り上がるとしても、ブローナーが勝つ展開を想像するのは少々難しいのが現実ではある。

 

(写真:毀誉褒貶の激しいブローナーは依然として多くの視聴者を惹きつけ続けている Photo By Esther Lin/SHOWTIM)

 誰が見ても明白なセンスとエキセントリックなキャラクターを持つブローナーは、台頭期は“ネクスト・メイウェザー”と期待された。スーパーフェザー、ライト、スーパーライト、ウェルター級という4階級を制したのだから、一見すると期待通りに育ったようにも思える。しかし、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)、ショーン・ポーター(アメリカ)、マイキー・ガルシア(アメリカ)といったエリート級にはことごとく敗れており、スーパースターの地位には辿り着けなかった。

 

 アンチファンも多いがゆえに存在感は抜群で、コンスタントにテレビの高視聴率を稼ぐ。そのおかげでメイン格でチャンスに恵まれ続けているが、昨年4月の前戦では一流とは考えられていないジェシー・バルガス(アメリカ)とも引き分け。パワーの効果が目減りするスーパーライト級以上のウェイトでは手詰まりになることが多く、これ以上の伸びしろはないと考えるのが自然なところだ。

 

 リトマス紙的ファイト

 

(写真:マティセ戦では一度は解消されたローチトレーナー<左>とのコンビが復活 Photo By Esther Lin/SHOWTIME)

 一方、パッキャオは昨年7月のルーカス・マティセ(アルゼンチン)戦で実に9年ぶりのKO勝利。もちろん全盛期のパワー、スピード、迫力からはほど遠いが、それでも旺盛な手数とスキルは健在だ。ブローナーが苦戦したバルガスにも16年11月にダウンを奪って圧勝しており、やはりパッキャオが一段上と考えるのが妥当。今戦でも経験豊富なパッキャオが序盤から距離を掴み、単発傾向のブローナーをヒット数で圧倒していく展開が濃厚だ。見栄えの良いカウンターを何発かもらってもやり過ごし、ポイントをコレクトしていくことだろう。  

 

 マイダナ戦でもタフネスを証明したブローナーをストップにまで持っていくのは、現在のパッキャオには厳しい。それでも両者の総合力の差は明白。最終的には2~6ポイント差の判定でフィリピンの英雄の手が上がるのではないか。

 

 ブローナーに勝機があるとすれば、まもなく現役生活25年目に入るパッキャオがフィジカル面で急激に下降線を辿っていたとき。パッキャオ独特のステップワークが鈍り、いつも通りの奔放なアングルからパンチが出せなくなっていた場合にはわからなくなる。業界の常識を覆してきた6階級制覇王者も昨年12月には不惑を迎えただけに、その危険性がないとは言い切れない。

 

(写真:ブローナー<右>は評価を大きく上げるような勝ち星を手にできるか Photo By Esther Lin/SHOWTIME)

 ただ、逆に言えば、コンディション面で乱れさえなければ、パッキャオが印象的な勝利を挙げる可能性は十分ある。“エリートレベルの門番”のようなブローナーに好内容で勝てば、依然としてトップクラスの力を残していると証明できる。そういった意味で、ブローナー戦はパッキャオの現在の力を測るリトマス紙的なファイトなのだろう。

 

 どんな選手にも衰えは忍び寄り、このまま戦い続ければ、いかにパッキャオといえどもいずれ再び無残な敗戦を喫するかもしれない。ただ、ブローナーはその相手ではあるまい。全盛期は常に華やかだった“パッキャオ・ナイト”が、一夜限りでもベガスに戻ってくる。次が本当にメイウェザー戦になるかどうかはともかく、今戦でのパッキャオは再び商品価値を高めるような勝ち方ができるのではないか。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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