5連覇に暗雲が、それも相当に濃い暗雲が立ち込めた箱根駅伝での青学。前人未踏の10連覇を阻まれた大学ラグビーでの帝京。19年の新春は、学生スポーツの巨星が相次いで堕ちる衝撃的な展開で幕を開けた。

 

 印象的だったのは、青学の原監督、帝京の岩出監督の表情にあったもの――「晴々」と表現してもいいような笑顔だった。もちろん、思うような結果を残せなかった悔しさもあったのだろうが、それ以上に、勝ち続けることの重圧から解放された安堵感が滲んでいるように思えた。

 

 勝つことは難しい。勝ち続けることはもっと難しい。そして、その難しいことをなし遂げる存在が出現したとき、世間は盛り上がる。長く人気で東京六大学野球の後塵を拝していたプロ野球は、首都にある球団の9連覇で国民的スポーツとしての地位を固めた。そうした意味からすると、青学と帝京がそれぞれのジャンルで果たした役割は極めて大きなものがある。

 

 さらに、黄金時代を築いた存在が落日の時を迎えようとすれば、それだけで大きなニュースとなる。普段はその競技にさしたる興味をもっていない存在までをも惹きつけることになる。わたし自身、駅伝の4区あたり、ラグビーでは前半の途中から、画面に釘付けになってしまった。「え? ひょっとしたら?」の思いは、スポーツを見る上での娯楽度を一気に加速させる。

 

 残念ながら、これまでのJリーグはそうした存在を作り出すことができなかった。いや、作り出す、という表現は的確ではないか。常勝軍団は、周囲によって生み出されるものではなく、常勝軍団たらんとする強い意志を持つ、持ち続ける集団によって誕生し、持続するものだからだ。

 

 ともあれ、これまでのJリーグでは、巨人ほどの、青学ほどの、帝京ほどの存在は出現してこなかった。初期のヴェルディをはじめ、そうした地位に手をかけたチームはいくつかあったが、その強さも君臨した時間も、アンチを生み出すほどではなかった。

 

 Jリーグが発足した当時、スペインの2強はバルサとRマドリードだった。ブンデスリーグはバイエルンが圧倒的な存在で、プレミアではロンドンの数チームとマンチェスターU、リバプールが中心的存在だった。つまり、いくつかの新興チームの躍進はあれど、いまと昔、リーグを牛耳る顔ぶれにはさほど大きな違いはない。

 

 というわけで、そろそろ絶対的な存在たろうとするチームの出現がJリーグにも欲しい。

 

 予感は、ある。

 プロ野球に比べると圧倒的に静かで注目度も低かったJリーグのストーブリーグは、かつてないほどの活況を呈している。従来であれば引き抜くことはあっても引き抜かれることはなかったチームの主力が移籍を決断し、引き抜かれるばかりだったチームが積極的に動いてもいる。この活気は、Jリーグ発足が間近に迫った92年に似ている。すべてが一度リセットされ、新たな時代を作り出そうとする活気が、感じられる。

 

 というわけで、明けましておめでとうございます。今年の日本サッカーは、面白くなりそうです。

 

<この原稿は19年1月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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